メイクは「なりたい自分」になるためにーー『Get Ready?』に学ぶ、コスメの入り口

 最近、Twitterでバズっているのを見て、つい買ってしまった『顔に泥を塗る』(ヨシカズ/竹書房)。タイトルだけ見ると想像つかないかもしれないが、地味な女性がメイクで人生を変えていく過程を描いたマンガである。

「なりたい自分になるため」にメイクを変えた

『顔に泥を塗る(1)』

 主人公は25歳の受付嬢・美紅。「仕事柄、もっとしっかりメイクしろ」と言われた彼女は、とりあえずリップの色を濃くするところから始めてみるのだが、同棲中の彼氏に「中学生の厚化粧」と言われてしまう。落ち込みながらも、仕事中に出会った鮮やかな赤リップの似合う美女が実は男の子だと知り、童顔だとかメイクが下手だとかは言い訳にならないと決意して、勇気をふりしぼって憧れのデパコス(デパート・コスメ)で赤リップを買う。

 その一歩を踏み出したのは、彼女自身が“なりたい理想”に近づきたいと思ったからだ。上司に言われたから、彼氏に褒めてもらいたいからというのは二の次で、優雅で美しい憧れの大人の女性になりたかったから。くだんの男の子にフルメイクもしてもらい、いつもと違う自分を発見して喜んでいた矢先、けれど、彼氏に頭からクレンジングオイルをかけられてしまう。さらに追い打ちをかけるように彼氏は言う。「とりあえずその化粧 似合ってないから」「まずその汚い顔 綺麗に落としてから もっかい説明して?」。

 モラハラ男キター! という感じで、第1話からめちゃくちゃ不穏。怖くてしかたない始まりなのだが、問題は、美紅の彼氏が、美紅のメイクを、自分の好みでコントロールしていいと思っている点である。先述のとおり美紅は「モテるため」でも「彼氏に気に入られるため」でもなくただ「なりたい自分になるため」にメイクを変えた。自分に堂々と胸を張るための手段として赤いリップを選んだのだ。

『だから私はメイクする(2)』

 けれど世間的にはいまだに、メイクもファッションも「モテ」のため――好きな人に好きになってもらうための手段として扱われ、女性に対してもしばしば「もっとメイク薄いほうがかわいいのに」「あんまりケバいのは男受け悪いよ」といった声がかけられる。もちろん状況によっては男性ウケを狙ったメイクも必要だけど、そのせいで、本当はメイクに憧れている/かわいくなりたいのに素直になれない女性も少なくないのではないだろうか。つまり、メイクに興味をもてないからしない、のではなくて、「私は男ウケとか気にしないし、チャラチャラしたくないからメイクなんてしないの!」という意地――“かわいい”は自分のものではないと思いこんで遠ざけてしまっている女性が。

 発売されたばかりの『だから私はメイクする』2巻では、合コン帰りの女性たちを見て「モテを気にせずにいられる世界のほうがラク」と言う友人に「『男ウケ』大いにいいじゃない! ウチらとはモチベが違う それだけよ!」と主人公がいうセリフがあるが、目的はなんにせよ、おしゃれすることで満足した自分になれるならそれが一番じゃないか! という“自分のためのメイク/ファッション”を後押しする風潮は、近年のマンガに多くみられる(ついでに言えば『ジェンダーレス男子に愛されてます』にみられるように、それは女性に限った話ではない)。