41歳の脱サラ漫画家が描く『王様ランキング』がバズった理由とは? 作品に込められた「希望」

 『王様ランキング』の魅力は予想外の展開が多い点だけではない。物語に「完璧な人物」がほとんど登場しないことも、ファンタジー作品でありながらリアリティが感じられて魅力的だ。

 ボッジが旅先で出会う人物「デスパー」は冥府の王の弟であり、ボッジの師匠として活躍する。平凡な人間でも、王様になるまでの力をつけさせたと噂される指導力の持ち主だが、お金に対する執着が強く、相応の金銭がないと弟子入りを受け入れないと話すなど、完璧な人間として描かれているわけではない。

 また、ボッス王国の王様「ボッス」は自信と慈愛に満ち溢れ、魔物の群れから町を救うほどの圧倒的な力の持ち主であるが、実は若かりし頃に強さを求め、家族と自身の寿命を代償として魔人から力を得ていたのであった。

 しかし、こうした登場人物の浅ましい私利私欲を描きながらも、物語の随所に人間味を感じさせる「優しさ」も本作では数多く描かれる。

 例えば、ボッジに厳しくあたり、口癖のように「死刑にするわよ」と発する王妃「ヒリング」。彼女は一見冷酷な人物であるが、ボッジがボロボロになったときには息が切れるまで治癒の魔法を使うなど優しい一面を持ち合わせる。さらに、ヒリングの優しさを象徴するシーンとして、指示を無視してある行動をしたボッジをガミガミと叱った後、彼女がこれまでボッジと過ごしてきた日々を思い出す場面が挙げられる。

 食べ物をこぼさずに食事をすることができないボッジを𠮟りつけたこと。剣術の練習をするボッジから怪我をしないように剣を取り上げたこと。ボッジが部下から白い目で見られる様子を目の前で見ていたこと。ボッジと関わり続けてきた日々を回想し、彼女は汗を流し、頭を抱え、うつむく。言葉や態度に表さないだけで、ボッジのことを思う彼女の様子が丁寧に描かれている。

必ず希望が 見出される 仕組みになっている

 上記の言葉は十日氏のエッセイ『脱サラ41歳のマンガ家再挑戦 王様ランキングがバズるまで』に登場する言葉だ。20代で職場を転々として自信を失っていくなか、30代で正社員としてステップアップできた十日氏が感じたという「希望」が、そのまま本作の根幹を成しているのだろう。絵本のような温かみのある画風からは想像できない裏切りやリアリティ。シビアなストーリーに隠された「希望」。その意外性に読者は惹きつけられるのかもしれない。

■あんどうまこと
フリーライターとして漫画のコラムや書評を中心に執筆。ライターの他に寮母なども務める。Twitter

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