『シン・エヴァ』舞台にもなった宇部市、2045年はどうなる? 『ガンダム』SF考証家が描く、XRが一般化した未来
今、行ってみたい街を尋ねたら、少なくない人が山口県宇部市と答えるのではないだろうか。25年前に始まったシリーズのラストを飾る映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に登場するからだ。
3月22日にNHKで放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル』の冒頭。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の庵野秀明総監督が、スマートフォン手に階段を駆け上る場面が登場した。場所は、山口県宇部市にある宇部新川駅。ここが、映画の重要なシーンに登場して、自分でも立ってみたいと思わせる。
宇部市は庵野監督が生まれ育った街だ。『王立宇宙軍 オネアミスの翼』や『ふしぎの海のナディア』といった作品に関わり、1995年放送の『新世紀エヴァンゲリオン』で国民的な認知を得た今も、宇部市には強い思い入れがあるのだろう。最新作に登場させただけでなく、2000年に宇部市を舞台にした実写映画『式日』を撮った。観れば鉄道が走り、海辺に大きな工場が建っていて、それほど高くないビルや商店が並ぶ小都市だと分かる。
そこに暮らしている人たちは、庵野秀明というクリエイターにどのような思い入れを持っているのだろう?
「宇部が誇る庵野秀明監督の『新世紀エヴァンゲリオン』」
庵野監督と同じ宇部市出身の高島雄哉による小説で、2045年の宇部市を舞台にした『青い砂漠のエチカ』(星海社FICTIONS)に出てくるこの言葉が、若い世代の感覚を表しているのかもしれない。作中の時間は2045年で、テレビシリーズの放送から半世紀が過ぎているが、NHKが取り上げるほどの存在になった庵野監督や、『エヴァ』という作品が、その頃まで人気を保ち続けていて不思議はない。
ちなみに作者の高島雄哉は、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』などに参加した実績を持つSF考証家だ。未来の技術や社会を想定してクリエイターに伝え、作品にリアル感を与える重要な役割を担ってきた。その感覚が、今から四半世紀後でも、宇部市の高校生がパワードスーツ部の発表物として、『エヴァ』からとった「零号機」「初号機」「弐号機」と名付けたパワードスーツを作っていると考えたのなら、きっとそのようになっていくのだろう。
ここで、高校生がパワードスーツを作るなんてと驚くのは早計だ。2045年の宇部市は、というより世界はXR技術が一般化しているのだ。2021年の現在、世界は新型コロナウイルス感染症の影響で、会社に行けなくなった人たちが家でリモートワークをしている。そして、『青い砂漠のエチカ』に書かれた2045年の世界は、蔓延した〈致死性複合感染症〉に罹らないようにするために、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)の技術を使って、生徒が家にいながら授業を受けられるようになっている。
完全リモートではなく、感染リスクのレベルが低い日は普通に出歩き、登校することも可能。XR用のメガネやコンタクトレンズといったデバイスを介して、リアルとバーチャルが重なるようになっていて、教室で授業を受けている生徒と、VR登校している生徒が仮想空間で共存できる。クラスメイト同士で会話したり、一緒に部活動したりもできるからこれは便利。コロナ後の社会状況をイメージさせる描写だ。