『バクマン。』に時代が追いついた? 『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『チェンソーマン』が描く”邪道の王道”

 漫画、アニメともに大ヒットを記録し、劇場版に至っては歴史的な快挙を成し遂げた『鬼滅の刃』。日本に一大ムーブメントを巻き起こした本作も、まさしく邪道な王道と言えるだろう。主人公・竈門炭治郎は最初からヒーローを目指していた訳でも、強さを追い求めていた訳でもなく、悲しい過去を経て旅に出る。そして炭次郎のキャラクター設定も、カリスマ性の塊である従来のバトル漫画の主人公とは異なり、心優しく思慮深い性格として描かれていた。

『鬼滅の刃』1巻(集英社)

 また2021年現在アニメの放送真っ只中の『呪術廻戦』、アニメ化が決定している『チェンソーマン』も、見事にジャンプらしくない王道バトル漫画だ。『呪術廻戦』は主人公・虎杖悠仁が特級呪物・両面宿儺の指を体内に取り入れる場面から物語が動き出す。人間から呪いとなってしまった悠仁は、今すぐ死ぬか宿儺の指を全部取り込んでから死ぬかの2択を突きつけられた。つまり『呪術廻戦』は主人公の死に向けて進んでいる作品なのだ。

『呪術廻戦』1巻(集英社)

 そして『チェンソーマン』に至っては、第1話の時点で主人公・デンジがバラバラにされ殺されてしまう。“両親がおらず借金を返すためヤクザに雇われてる”と生い立ちも過酷で、画も少年誌とは思えないほど過激な描写が多かった。また本作は生々しい性描写も散見され、全体的に怪しく暗い雰囲気が特徴的である。

『チェンソーマン』1巻(集英社)

 そしてこの3作品に共通する1番の要素は、キャラクターの心理描写に重点を置いている点だ。王道のバトル漫画は「迫力のあるバトル」「アツいストーリー」、これに尽きる。しかし上記の3作品は“敵である鬼の過去”や“呪いを祓うことへの葛藤”、“人から必要とされる人間らしい喜び”など、キャラクターの心情を丁寧に描いている。“シリアスな設定で、主人公が悪と戦う勧善懲悪”。邪道な王道バトル漫画は、まさに令和の時代にフィットした人気漫画の方程式であった。

 昭和・平成を駆け抜けたジャンプは、『ドラゴンボール』『ONE PIECE』『BLEACH』など、やはり王道バトル漫画が主流であった。しかし時代の変化とともに雑誌の雰囲気は変わり、徐々に邪道な王道バトル漫画が脚光を浴び出したのだ。難しい試みながらも、亜城木夢叶の漫画家人生の最終地点として、邪道な王道バトルというジャンルを打ち出した『バクマン』。それはリアルな漫画界を描いた作品の、リアルの漫画界へと繋がる結末だった。

■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。

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