松井玲奈は小説家としてどう成長した? 恋愛小説集『累々』を読み解く

デビュー作『カモフラージュ』(集英社)

 松井玲奈の小説としては2冊目となる『累々』が面白い。かつてはアイドル、現在は女優として活動する彼女の小説デビュー作『カモフラージュ』(2019年)は、食という共通テーマは設けていたものの、収録された6作それぞれが独立した短編集だった。一方、『累々』は、読み進むと5つの短編のつながりがやがて浮かび上がり、1つの構図がみえてくる連作形式をとっている。前作より確実にステップアップした内容だし、よく考えられた恋愛小説集である。

 プロポーズされたがすんなり結婚に踏み切れない「小夜」、セフレで合理的な関係を続けてきた「パンちゃん」、パパ活中の「ユイ」、美大生で先輩に恋している「ちぃ」、そして再び「小夜」。『累々』は、立場が違う女性の名前、呼び名を題にした全5章で構成されている。

 いずれの章でも登場人物間の心理のズレが語られる。最初の「1 小夜」での「一緒に過ごすうちにお互いの丁度いいがわかっていくけれど、嘘とも呼べない小さな歩み寄りを繰り返しているだけ」という一文など象徴的だ。

 本書では恋愛はもちろん、友だちとの間でも「小さな歩み寄り」に潜んでいた歪みが露わになる瞬間が描かれる。例えば、結婚を決意できない小夜は「自分の世話で手一杯」と友人にこぼす。ところが、ママになり子どもの世話をしている友人は「私だって自分のことすらままならないよ」と突然怒りだす。生活の優先順位が違う2人の価値観の差が、むき出しになるわけだ。このようにハッとするやりとりが、作中のところどころに用意されている。

 前作『カモフラージュ』は、メイドカフェのぽっちゃり女子、男性ばかりの動画配信グループを題材にしたほか、人が人を吐くホラーなどバラエティに富んでいたが、恋愛やフェティシズムなど『累々』に通じるテーマを持つ短編も収録していた。