安倍晴明がバリスタや隣人に? “陰陽師”がフィクションの世界で人気者になったワケ
陰陽師を“おんみょうじ”と読めるくらい、今の世の中は陰陽師という存在が一般的なものになっている。神主や僧侶ほどリアルな存在ではないのに、そうなってしまった理由は、キャラクター小説など物語の世界で陰陽師たちが大活躍しているからだ。
書店に並んでいた文庫本『バリスタ晴明 心霊相談お受けします』(スカイハイ文庫)というタイトルに驚いた。希代の陰陽師として知られる安倍晴明と、カフェで美味しいコーヒーを淹れるバリスタとが、すぐには結びつかなかったからだが、遠藤遼によるこの物語を読んでみて、晴明がバリスタである理由に納得した。
カフェ玉兎でバリスタとして働いている高倉智成は、よく当たる恋愛相談が好評で、就活で祈祷してもらえば百発百中という評判もあって、安倍晴明の生まれ変わりと言われていた。実際、陰陽師をしていた母親の胎内にいた時に、夢で晴明の転生だと告げられた智成には、強い退魔の力があった。
大学で暴れていた男子学生の、自殺した霊を地獄に送り、婚約している男女の間で起こった、霊が絡んでの暴力沙汰も解決。そんな退魔の腕前を持ちながらも智成は、ある事情から晴明の生まれ変わりと呼ばれることを嫌っていた。イケメンでバリスタで過去に秘密を持ったキャラクター。それが、クライマックスで過去と向き合い、真の力に目覚める場面がカッコいい。これからさらにどんな本気の活躍を見せてくれるのかと期待したくなる。
転生ではなく、千年前からずっと存在し続けている晴明が登場する作品もある。仲町六絵の「おとなりの晴明さん」シリーズ(メディアワークス文庫)だ。京都に引っ越してきた女子高生の桃花が隣家で出会ったのが、誰あろう安倍晴明。閻魔大王の下で働きながら、京の街で起こる神様や妖怪たちが絡む騒動を解決していた。
最新刊の『おとなりの晴明さん第七集 ~陰陽師は水の神と歌う~』では、地下水脈の乱れをただすために貴船神社へと行き、京の街に呪いをかけようとしていた和泉式部を鎮め、妙音弁財天のお稲荷さんに潜んでいた野狐の、室町幕府第六代将軍に対する恨みを解きほぐす。晴明本人だけあって、頼りにされ慕われる立場にしっかりと応える活躍ぶり。甘い物好きという特徴が妙な可愛らしさを醸し出す。
そんな安倍晴明も含めて、日常に起こる怪異を解決してくれる能力を持った陰陽師というキャラクターが、どうしてこれほどまでに流行るようになったのか? 『バリスタ晴明』の晴明も、「おとなりの晴明さん」シリーズの晴明も、すらりとして整った顔立ちを持った優男として描かれていて、女子の恋情や男子の嫉妬だけでなく、強いヒーローとしての憧憬も誘う。人気が出るのも当然だ。