山岸凉子の名作BL『日出処の天子』を読むと恋愛がうまくいかなくなる? 厩戸王子のひねくれた魅力

 厩戸は、与えられるべき愛情を与えられなかったために、非常に人として扱いにくい。でも根は優しいし、賢いし、彼を好きな人は周りにたくさんいます。後に推古天皇となる額田部皇女やその娘の大姫、舎人の淡水、蘇我馬子、ああもう数え切れない。なのに本人はそれを素直に受け入れられないんです。ひねくれてるから。いつでも人を見下しているから。

 私は子どもの頃から「母になりたい」という願望があまりありませんでした。ひとりの人間が幸せになれるかは母親に責任があり、自分はその責任をきっと果たせないと思っていたのです。間人皇女のことは大嫌いだけれど、自分は彼女とは違うと言い切れなかった。それよりも、愛情に恵まれなかった、生きづらさを感じる子どもに手を差し伸べたいという気持ちが強いんです。

 恋愛でも円満な家庭で育った男性にはまったく惹かれません。複雑な家庭で育ち、闇を抱えてなお知性の高い人につい惹かれちゃうんです。たぶんこれ厩戸王子のせいです。今まで好きになった人、みんなサバイバーで、冷静で、お勉強ができて物知りの人でした。それってガチ厩戸じゃないですか! どうしてくれるんだ、お前がものすごく寂しそうだからだぞ!! そして安穏と生きてきた毛人は嫌いだ!

 つい最近も、すごく好きだった人がドンピシャ厩戸タイプでした。知識が豊富で論理的でめちゃくちゃ話してて楽しかった。でも途中から知識で攻撃されるようになり「お勉強できないあたしはグズでバカでダメな子なんだ、うっうっ」という気になってしまい、ついぶち切れたらブロックされてしまいました。

 私ももうちょっとやんわり対応できなかったものかとも思うんだけど、被虐待児が「試し行動」に類することをすることをちゃんと認識していないと深い関係を築くのは難しいのかもしれません。ブロックする前に少し話し合いたかった。厩戸タイプと恋愛するのは技術がいりそうです。

 私、『日出処の天子』を読んで人生が変わりました。厩戸め……、お前のせいで恋愛がうまくいかないんだぞ、また法隆寺に会いに行くからな!

■和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女マンガ解説、ライター、編集。大学卒論で「少女漫画の女性像」を執筆し、マンガ研究のおもしろさを知る。東京マンガレビュアーズレビュアー。視覚障害者による文字起こしサービスや監修を行う合同会社ブラインドライターズ(http://blindwriters.co.jp/)代表。

■書籍情報
『日出処の天子』
著者:山岸涼子
出版社:白泉社

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