『鬼滅の刃』不死川実弥、最大の強みは“優しさ”? 稀血を流し続けた漢が証明したもの

※本稿には、『鬼滅の刃』のキャラクター、不死川実弥についてのネタバレが少なからず含まれています。原作を未読の方はご注意ください(筆者)

鬼を酔わせる「稀血(まれち)」の持ち主

 『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)の各回のトビラ絵では、時々、本編のストーリーとは直接関係のない、キャラクターたちの日常の一場面を切り取ったようなカットが描かれていることがあるのだが、これがなんというか、いずれも「良い絵」だ。たとえば、うれしそうに食事をしている甘露寺蜜璃の横で、彼女をあたたかい眼差しで見つめている伊黒小芭内の姿を描いたカット(14巻収録・第124話のトビラ絵)などもなかなか味わい深いものがあるが(蜜璃の旺盛な食欲に驚いている蛇の鏑丸もかわいい)、個人的に最も印象に残っているのは、いつもは険しい表情をしている乱暴者の不死川実弥が、微笑みながら野良犬(?)に握り飯を食べさせている第167話(19巻収録)のトビラ絵である。これなどは、実弥が本当は心の優しい漢(おとこ)であることを一枚絵で見事に表しているカットだと思うが、彼の“優しさ”については、のちほどあらためて述べることにする。

 不死川実弥は、鬼狩りの組織「鬼殺隊」の剣士の最高位――「柱」のひとりである。「風の呼吸」を極めた彼は「風柱」と呼ばれ、現役の柱の中では、おそらく「岩柱」の悲鳴嶼行冥と一、二を争うほどの戦闘能力を持つ(最強の敵のひとりである上弦の鬼・黒死牟いわく、「恐らくはこの二人が… 柱の中でも実力上位」)。さらには鬼を酔わせる特殊な「稀血(まれち)」の持ち主でもあり、彼の血の前ではたいていの鬼は動きを鈍らせる。

 愛用の「日輪刀」の刀身には波状の模様があり、また、鍔は複数の菱形を風車のように円形に組み合わせたもので、それらはいずれも「風」をイメージしてデザインされたものだと思われる。

 さて、この不死川実弥だが、血走った目にぼさぼさの髪、さらには全身傷だらけで(そのうえ気性は荒く、喧嘩早い)、どちらかといえば「悪役」の記号で形作られたキャラではある。しかも物語初登場時(6巻)には、主人公・竈門炭治郎の妹である禰豆子を刀で刺したり(注1)、血を吸わせようと挑発したりしているため、おそらく読者の第一印象はあまりいいものではないはずだ。

注1……禰豆子は鬼化しているので、刀で刺されても死ぬことはない。だが実弥の刀が、鬼を狩るために鍛えられた日輪刀である以上、それなりの苦痛はあっただろう。

 しかし、物語が進むにつれ、徐々に実弥の“真意”が明らかになり、読者はきっと彼のことが好きになる。

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