フランスの漫画「バンド・デシネ」独自の魅力とは? 『レベティコ』翻訳者・原正人が語る、サウザンコミックスの挑戦
バンド・デシネ風にジャケットなしの作りに
――カバーが原書と違いますよね。変えたのはなぜですか?
原:原書は原書でカッコいいんですけど、原書のカバーに描かれている人物は主人公でもなんでもない、ただのバーの客のおっさんなんです(笑)。作者はインタビューの中で、レベティコという音楽の魅力を伝えるに当たって、ミュージシャンだけに焦点を当てるのではなく、当時の人たちがレベティコをどういう風に享受していたのかを描くという選択をしたということを言っていて、そういう意味では原書のカバーは理にかなったものです。とはいえ、やっぱり主人公たちを前に出したい気持ちはあって……。その方針にのっとって、デザイナーさんがとてもいいお仕事をしてくださいました。
――そのカバーも含め、こだわりを感じますが、ほかにこだわった点はありますか?
原:日本の書籍は、漫画も含め、本体の外側にそれを保護するようにジャケットがつくことが暗黙のルールになっていますが、バンド・デシネにはほとんどジャケットがつきません。バンド・デシネが翻訳される場合、日本の本のルールにのっとって、ジャケットがつくわけですが、今回はクラウドファンディングでご支援いただいて翻訳できることになり、まずはご支援いただいた人たちにリターンとして本をお届けするということもあって、造本にこだわって、バンド・デシネ風にジャケットなしの作りにしました。従来の商業出版だと、返品のことを考えると、なかなかジャケットなしで本を作ることはできないと思うんですが、こういった冒険ができるのもクラウドファンディングを通じた出版のいいところですね。
――出版後、反響はいかがですか?
原:まだ一般発売はされていなくて(取材時)、クラウドファンディングで支援してくれた650人の方への発送を終え、その後ここ一週間くらい、版元のECサイトで販売している状況です。ただ、支援してくれた人たちのSNS上でのリアクションはすごかったですね! たぶんこれまで僕が翻訳した作品の中で、一番の反響だったんじゃないかと思います。デザインがすばらしかったことが大きいと思いますが、内容のすばらしさにも反応してくださっていて、皆さんが本の到着を喜んでくださったのが、とてもうれしかったです。
内容面でいうと、主人公の音楽家たちがアメリカのレコード会社のプロデューサーからレコーディングを持ちかけられるくだりがあるんですが、そこは今日本で読んでもとてもアクチュアルな箇所で、少なからぬ数の人たちが反応してくださいました。リーダー格のマルコスはその提案をどう受け止めるのか? 一方、メンバーの中でも若い「犬っころ」という登場人物はどう対応するのか……。現代に生きる僕らにとっても決して他人事ではないドラマが描かれますので、ぜひ実際にお読みいただけたらと思います。
――作者のダヴィッド・プリュドムさんは、本国ではどういう位置ですか?
原:ちょうど50歳くらいですかね。大ヒットがある流行の作家ではないですが、アーティストとして高く評価されています。玄人受けする、バンド・デシネ作家たちからの評価も高い作家ですね。何年か前にルーヴル美術館の展覧会(「ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~」)がありましたが、彼も参加していて、とてもユニークな作品を描いていました。