綾辻行人が語る、シリーズ最新作『Another 2001』「ディテールを積み重ねていくうちに、ラストシーンが変化する」

呪いではなく〈災厄〉であるがゆえの不条理な切なさ

――鳴に限らず、みんな、だいぶイジメられていました……(笑)。〈夜見山現象〉史上最凶の〈災厄〉、という煽り文句に偽りはなかったです。でもただひどいことが起きるだけでなく、シリーズでは一貫して、不条理な切なさが描かれるところが、「Another」の魅力だと思うんです。

綾辻:不条理な切なさ……そうですね、不条理ですよねえ。そういう構図をついつい、思いついてしまうものですから。

――それは、〈現象〉が呪いではなくて〈災厄〉なのだというところにも起因しているのではないかと、今作では特に強く感じました。

綾辻:いわゆる「呪い」とは一線を画したい、というのは1作目を書いたときから意識していたところです。呪いを解くためにお祓いをしたり、霊能者を呼んで除霊させたり……というのがこの種のホラー作品の常道ですけれども、それは絶対にやりたくなかった。三年三組で起きる〈現象〉には現実的な〈対策〉を講じることができるし、それが功を奏すれば被害なく乗り切ることもできます。でも、雨が降って傘をさしても濡れてしまうことがあるように、〈対策〉を講じたところで防ぎきれないこともある。そういう意味ではやはり自然災害に近い、〈超常的な自然現象〉である、という基本はずっと変わっていません。もしも『2001』で、より強くその色を感じられたのだとすれば、最初から〈対策〉をする側を描いているからじゃないでしょうか。1作目は、主人公の恒一が転入生で、〈現象〉や〈災厄〉について何も知らされないまま、読者と一緒に「何が起こっているのか」を探っていくという構成でした。ところが今作では、想をふくむ全員が〈現象〉〈災厄〉のことを知っている、という前提で物語が始まります。焦点は最初から、「どうやって〈災厄〉を防ぐか」というところにあるわけです。

――たしかに、読み手の私たちの前提が変わっているのは大きいかもしれません。今回、ラスト近辺で、記憶や記録が改変されていくことについて語った千曳さん(※1作目にも登場する図書室司書)の言葉がとても印象に残っているのですが、読み手が震災やコロナを通じて、理不尽に人が死んでいくことのつらさみたいなものを感じやすくなった、というのもあるような気がしました。

綾辻:それは……うん、あるかもしれませんね。意図したわけではないし、そのように読んでくれ、ということもありませんが。1作目の刊行は東日本大震災の発生よりも前の2009年でしたが、この11年でいろんなことがありましたからね。書くほうも、無意識のうちにそれらを取り込んでいる部分があるのかも。

――今作では、〈災厄〉に巻き込まれて自分が死ぬ恐怖、だけではなくて、関係者とみなされた大切な人が、自分のせいで死んでしまう恐怖も描かれていたじゃないですか。なんでもかんでも、震災やコロナに絡めるのはよくないとは思うんですけれど、直近で「自分が出歩く、接触することによって誰かを死なせてしまうかもしれない」という恐怖を味わっただけに、より痛切に、胸を打たれてしまったんですよね。

綾辻:連載を終えたのは去年の12月なので、コロナ禍の影響を受けていないことは断言できますが、期せずしてこういう事態になってしまったのは不思議な気がします。そのように現在の現実と重ね合わせて読まれたという感想を聞くと驚きますが、これも何かの巡り合わせですからね。そういう切り口で読んでいただくのもありだと思います。現実からは離れて、まったくの絵空事として楽しんでいただけるならば、それも大変に嬉しいというか、著者としては本望ですし。

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