山崎育三郎が語る、ミュージカルとドラマそれぞれの挑戦 「未知の世界に飛び込むことに葛藤もありました」
“ミュージカル界のプリンス”として舞台の世界のみならず、映像の現場でも躍進を続ける山崎育三郎。多彩な撮りおろし写真に加え、幼少時からの思い出や祖父母とのこと、アメリカ留学時代のエピソードなどさまざまな告白で構成された初の自叙伝『シラナイヨ』(2016年・ワニブックス)が電子書籍としてもリリースされた。
書籍発売から4年。今の山崎が何を想って舞台やドラマの世界に存在しているのか。そしてこのコロナ禍の中、未来にどんな希望を見出しているのか。思い出と現在とを行き来しながら話を聞いた。(上村由紀子)
自分の中で葛藤もありました
――2016年に出版された山崎さん初の自叙伝『シラナイヨ』が電子書籍としてもリリースされました。この4年、ご自身の中で1番変わったな、と思うことはなんでしょう。
山崎育三郎(以下、山崎):あれから4年……うわあ、もうそんなに経つんですね(笑)。この本が出た頃は本格的にドラマの世界に足を踏み入れた時期でした。あれからNHKの朝ドラ『エール』に出演できたり、ディズニー作品・実写版『美女と野獣』で野獣役の吹替えを担当させていただいたりして、さらに自分を取り巻く世界が広がっている実感はあります。
――この1、2年、ミュージカルの世界で活躍する俳優さんの映像への露出がぐっと増えた気がします。
山崎:それは本当にそうですね。僕が映像作品にも出演するようになった4年前って、まだそれほどミュージカル俳優がドラマに出る機会はなかったんです。もちろん、市村正親さんや鹿賀丈史さん、石丸幹二さんといった先輩たちは活躍していらっしゃいましたが、若手といわれる世代はそこまでではなくて。だから、僕が映像の世界にも挑戦すると決めた4年前には、いろいろな声もありました。
――舞台に軸を置くべきだと。
山崎:ミュージカルの世界で主演を務められるようになっていた中、映像の仕事をちゃんとやろうと思ったら、舞台の仕事はスケジュールの都合でセーブすることになります。やっと大劇場で主役をやれるようになった今、ドラマという未知の世界に飛び込むことが果たして正解なのか……みたいなことも言われましたし、自分の中で葛藤もありました。でも、誰かが勇気をもって飛び込まないと何も変わらないんです。それが時を経ていろいろ形になっている現状を見ると、あの時挑戦したことは間違いではなかったと思えます。
ふたりの“天才”を同時期に宿したあの頃
――映像の世界で山崎さんが特に影響を受けた方はどなたでしょう?
山崎:うわ、難しい! それは考えちゃいますね(笑)。大人としての初の連ドラレギュラー出演作『下町ロケット』(TBS系)で共演させていただいた阿部寛さんや、演出の福澤克雄監督……本当にいろいろな方に助けていただきましたが、あえて誰かひとりを挙げるとしたら、NHKの『昭和元禄落語心中』でがっちり組んだ岡田将生くんでしょうか。役同士の関係性も密でしたし、ふたりで話し合いながら同じ方向を見て作品の熱量を上げていった経験は忘れられません。まあくんとはプライベートでも仲良くなって、一緒に食事をしながらいろいろ語る間柄です。親友と言っていいんじゃないかな。
――『昭和元禄落語心中』の天才落語家・助六役はそれまでの山崎さんの印象をガラっと変えるインパクトがありました。素晴らしかったです。
山崎:あの作品は追い込まれ感も凄かったんですよ。じつは僕、撮影スタート日の前日まで『モーツァルト!』の舞台に立っていたんです。撮影開始日までには古典落語9作を所作付きで語れるようになっていなくちゃいけなくて、想像を絶する日々でした。
――ミュージカル『モーツァルト!』も主演作で、かなりハードな役柄ですよね。あの舞台に出演しながら、まったく違う古典落語も……。
山崎:地方公演のマチネ(昼公演)が終わったら、すぐ東京に帰って落語の先生に付いて稽古してまた翌日は劇場に戻って舞台に立って……という毎日でした。滞在先のホテルでは正座しながらずっと1人でブツブツ落語と役のセリフをさらってましたね。『モーツァルト!』の舞台袖でも落語で使う扇子の扱いを稽古して、自分の出番が来たら舞台上でヴォルフガング(=モーツァルト)として生きる、みたいな。
――当時の『モーツァルト!』も拝見しましたが、同時期に2人の“天才”の間を行き来していらしたんですね。
山崎:確かにそうですね(笑)。当時は「もう、やるしかない」って感じで作品や役と向き合っていましたが、『昭和元禄落語心中』に関しては、そういう尋常でない熱量や自分自身の必死さが助六という役とリンクして画面に現れたと思っています。本当に大変でしたが、あの作品にかかわれたことは財産です。
――そしてドラマといえばNHKの朝ドラ『エール』には佐藤久志役で出演されています。ウインクを決める姿はそのまま“プリンス”。
山崎:そうそう(笑)。久志はちょっとあて書きみたいなところもあるんだと思います。ただ、これからの久志はそれまでとまったく違う人生を歩みますので、皆さん、びっくりすると思いますよ。日本が戦争という渦に飲み込まれていく中、久志の在り方もガラっと変わりますし、プリンスとは言えない苦労や葛藤が彼を襲うことになります。