『葬送のフリーレン』魔王を倒した後の世界、不老長寿の魔法使いが抱いた思いとは?
ヒンメルもほどなく逝って、葬儀に立ち会ったフリーレンはようやく気づく。「…人間の寿命は短いってわかっていたのに……なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう…」。泣ける場面だが、以後の物語で、フリーレンがより積極的に人間に関わるようになったかというと、さらに20年経ってハイターの体が弱ったときに舞い戻ったくらい無関心。そこでハイターが引き取り育てていた、魔法使いを目指すフェルンという少女を弟子にして欲しいと頼まれる。
命の保証ができないと断るフリーレンにハイターがとった策が、1年2年といった期間など長いとはまるで意識しないフリーレンの性格につけ込んだもので、なかなかユニークだ。どうフリーレンを納得させたかは漫画を読んでもらうとして、人間の側で寿命に限りがあるからこそ抱く、自分が生きている間に誰かを育てたいという気持ち、誰かが生きている間に恩返しをしたいという気持ちの大切さに気づかせてくれるエピソードだ。
しかしフリーレンが、これで本当に変わったかというと、続くエピソードの中で相変わらず年月を気にせず役に立たない魔法の収集に勤しみ、勇者ヒンメルの銅像に備える花を探そうとするからフェルンも困る。長命のエルフならではの感覚と、人間の感覚とのズレが醸し出すギャップを楽しめる。それとは別に、フリーレン自身がドジっ子で、ミミックに頭を突っ込んだり、朝寝坊でかつてのパーティー仲間に怒られたりしてきたエピソードが、フリーレンを愛らしい存在と思わせる。
それでも、少しは人間の生を気にするようになったフリーレンと、いずれは老いて先に行くフェルンの関係はどうなっていくのか。脚本家の岡田麿里が初監督したアニメ映画『さよならの朝に約束の花を飾ろう』では、10代半ばの姿のままで数百年を生きる種族の女性が引き取った赤ん坊が、成長して戦士となり結婚して老い、やがて死んでいくストーリーの中に、重ならない時間の間で変化するそれぞれの思いが描かれた。
同じようにフリーレンの変化を感じさせてくれる物語になるのか。タイトルになっている「葬送のフリーレン」という言葉が、先に死んでいく人間たちを送る立場というものではなく、“それ以前”のフリーレンを意味するものとして浮かび上がってくるのか。8月18日発売の第1巻からはまだ読めない物語の深みに迫るためにも、連載なり続刊を追っていく必要がありそうだ。
■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。
■書籍情報
『葬送のフリーレン』(少年サンデーコミックス)既刊1巻発売中
原作:山田鐘人
作画:アベツカサ
出版社:小学館
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