破格のスケールの少女漫画『BASARA』の革新性 壮大なストーリーが共感を呼んだワケ

 ひとりの少女が、日本の命運を掛け、強大な力を持つ王家に立ち向かう話。

 こう書くと、どこぞのファンタジー小説か、はたまたディズニーアニメかと思われそうだが、れっきとした少女漫画の話である。1990年から8年にわたり『別冊少女コミック』で連載された『BASARA』(田村由美)は、そんな破格のスケールのヒロイックロマンだった。

 舞台は大いなる災いにより、文明が崩壊してから300年後の日本(この時点でスケール感がナウシカ並み)。王制が復活し、各地を治める暴君の支配が激化する中、ある村に男女の双子が生まれる。しかし、“運命の子”と予言された兄・タタラは、15歳を迎えたある日、“赤の王”によって殺害。残された妹の更紗は、兄に扮し、正体を隠して“赤の王”を討つべく旅に出る。その途中、立ち寄った温泉で出会った青年・朱里と恋に落ちる更紗。彼が宿敵“赤の王”であるとも知らずに、ふたりは惹かれあっていく……。

 物語はふたりの禁断のラブストーリーと、更紗率いるレジスタンスVS王家の戦いという、2段構えの構図で描かれる。恋愛とアドベンチャーという振り幅の大きさが圧倒的なドラマ性を担保し、当時の少女漫画界でも異彩を放つ作品だった。作者の田村由美は、前作『巴がゆく!』でも財界の後継者争いに巻き込まれる女子高生を主人公にハードなアクションを描いたが、『BASARA』はそんな持ち前のストーリーテリングがさらなる進化を遂げた作品と言えよう。

 物語の中で、更紗扮するタタラ軍は、日本各地を旅しながら共に国王に立ち向かう仲間を探す。手掛かりになるのが4本の刀だったり、仲間にする前にクリアしなければならない試練があったり、ところどころで中ボスとのバトルが発生したりする展開は、さながら『ONE PIECE』に代表されるような冒険ものの少年漫画やRPGのようだ。登場するサブキャラたちは地方色豊かで、さまざまな故事や伝説から造形がなされており、それぞれに魅力的。少女漫画らしく美形揃いだが、細身のイケメンが主流の中にあって、男性キャラのほとんどが肩幅広めのマッチョ体型な点も印象深い。ちょいちょいBL要素も匂わせつつ、また一方では更紗を中心にしたハーレム展開もあったりと、キャラが多いなりに複雑な人間関係も見どころのひとつだった。

 独特の筆致の絵柄は細部まで緻密に描くのとは真逆のアプローチだが、不思議と奥行きや世界観を生々しく伝えてくれ、セリフやモノローグをよりドラマチックに見せてくれていた。中でも衝撃的だったのが、長らくすれ違いの連続だった更紗と朱里が結ばれた翌日に、お互いの正体を知ってしまうシーン。愛する人が最も憎むべき相手だと気付いた更紗のショックを、ひたすら吐き続け、下半身から血を流すという体の変化で表した点は圧巻だった。