『りゅうおうのおしごと!』しらび3連覇なるか? イラストで見る、ラノベ界の現在

 今、もっとも“熱い”ライトノベルを選ぶ『このライトノベルがすごい!2021』(宝島社)の投票が始まった。

 文庫部門では、白鳥士郎『りゅうおうのおしごと!』の3連覇を阻んだ宇野朴人『七つの魔剣が支配する』(電撃文庫)が連覇するか、キャラクター人気で圧倒的な衣笠彰梧『ようこそ実力至上主義の教室へ』(MF文庫J)が初戴冠を果たすかが気になるところ。

 そしてイラストレーター部門では、『りゅうおうのおしごと!』(GA文庫)や『86-エイティシックス-』(電撃文庫)のイラストを手がけるしらびが、部門初の3連覇を成し遂げるかに注目が集まる。

 『このミステリーがすごい!』の宝島社が、ライトノベルを題材に2005年版からスタートさせた『このライトノベルがすごい!』では、2008年版からイラストレーター部門を創設してベストランキングを選んでいる。ライトノベルとは切っても切り離せない関係にあるイラストは、作品や作家の人気に引っ張られて話題になることもあれば、逆に作品や作家の人気を高めることもある。イラストレーター部門のランキングを見れば、時々のライトノベルの雰囲気を、ビジュアル面から探ることができるのだ。

 1回目となる2008年のイラストレーター部門トップは、谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』(スニーカー文庫)や高橋弥七郎『灼眼のシャナ』(電撃文庫)のイラストを手がけたいとうのいぢ。2006年に『ハルヒ』がTVアニメ化されたこともあり、トップを獲得した。『ハルヒ』と聞いてまず浮かぶのは、ハルヒや長門有希といったキャラたちの顔やスタイルだ。京都アニメーションの池田晶子がデザインしたアニメ版が浮かんだとしても、原型はいとうのいぢが作ったもの。時代を超えるアイコンを生み出したとも言える。

 今年11月25日、実に9年半ぶりとなる新刊『涼宮ハルヒの直観』が発売されるが、作者とともにイラストレーターにとっても腕の見せどころ。以前からのファンだけでなく、代替わりしたラノベ読者層にもヒットすれば、『このライトノベルがすごい!2022』で2012年以来のトップ10入りもあるかもしれない。

 これは一時トップ級の人気を誇っても、ランキングから外れることもある、ということの現れでもある。2008年のトップ10に並んだイラストレーターで、『このライトノベルがすごい!2020』で10位までに入った人はひとりもいない。時雨沢恵一『キノの旅』(電撃文庫)の黒星紅白が18位にいるくらい。

 浮き沈みのある中、2011年から10年連続でトップ10に入り続けているはいむらきよたかの強さは別格だろう。鎌池和馬『とある魔術の禁書目録』(電撃文庫)のような、キャラ人気の高い作品を手がけ続けていることで、広い世代から支持を集めているようだ。

 灰村キヨタカ時代も含め、4度の第1位に輝き1度は連覇を果たしたはいむらきよたか、2015年と2016年に連覇を果たした渡航『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』(ガガガ文庫)のぽんかん⑧でも、未だなしえていない3連覇に挑むのがしらびだ。

 イラストを手がける『りゅうおうのおしごと!』が、藤井聡太二冠の誕生という将棋ブームの中、現実に追い越されてしまったラノベとして広く取り上げられ、一気に知名度を高めた。ブームの中で読み始め、小学生で女流棋士となった雛鶴あいや、女性初のプロ棋士四段に挑んでいた空銀子といったキャラたちのビジュアルを見て惹かれた人が、今まで以上に現れそう。もう1作、担当作品の安里アサト『86-エイティシックス-』(電撃文庫)のアニメ化が決まり、露出の機会が増えている。

 将棋界と人工知能を搭載した兵器が跋扈する戦場という、共に苛烈な世界で戦う少年少女の情熱を、感じさせてくれるキャラ造形を目にして作品ともどもファンになる。そんな追い風がどう働くかに注目だ。なお、作品としての『りゅうおうのおしごと!』は、『ソードアート・オンライン』などと同様に殿堂入りとなりランキングから除外となっている。

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