いま最もぶっ飛んだ漫画『チェンソーマン』 「わかりやすさ」から逸脱する、前衛的な表現を考察
いずれにせよ、制作サイドに何があったのかはわからないが、この8巻以降、『チェンソーマン』の実験的・前衛的なビジュアル表現に凄みが増しているのは間違いない。個人的には、(いわゆる『ガロ』系の作品を除けば)この種のシュルレアリスティックな漫画表現については、『多重人格探偵サイコ』のクライマックスで田島昭宇が描いた、伊園若女の精神世界のビジュアルが最高峰かと思っていたが、先に挙げた『チェンソーマン』の「地獄」や「図書館」の場面もそれに匹敵する、というか、より「ぶっ飛んでいる」という点ではこちらに軍配が上がる、といってもいいかもしれない。
おそらく次の巻(9巻)に収録されるであろう、「銃の悪魔」の被害にあった無数の一般市民の死を、「名前の羅列」で表現したビジュアルにも多くの読者は度肝を抜かれることだろうが(これについては、『鬼滅の刃』の悪役・鬼舞辻󠄀無惨がいった、「私に殺されることは 大災に遭ったのと 同じだと思え」というセリフと合わせて考えてみるのもいいだろう)、「いま最も前衛的な漫画表現が見られるのが、日本で最もポピュラーな少年誌」だということ自体、なかなか痛快なことではないだろうか。
■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。@kazzshi69
■書籍情報
『チェンソーマン』既刊8巻
著者:藤本タツキ
出版社:集英社
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