スクールカースト上位の姉を殺したい……気鋭の小説家・渡辺優が露わにする、一生隠しておきたい人間の衝動

 小説家の渡辺優をデビュー作『ラメルノエリキサ』から注目している。まるで周囲を置いてきぼりにするかのようにストーリーが前へ進んでいくドライブ感。生きづらい方向へ進んでいるという感覚と登場人物たちの格好悪い行動に溢れているのに、なぜかいつもはまって抜け出せなくなってしまう。最新作の『悪い姉』も、それらを描く著者の世界観を十二分に味わえる作品だった。

 『悪い姉』は4月生まれの姉・凛と次の年の3月に生まれた主人公・麻友との高校2年生の同学年姉妹を中心に繰り広げられる物語だ。容姿に恵まれ、自分勝手な性格で他人を翻弄し、常にクラスのカースト上位にいる凛と、自らを平凡だと自覚している麻友。麻友は小さい頃から凛によるいじめを受け、離れたいと願いながらも凛の気まぐれによって同じ高校に入学した。姉に心身ともに支配される自分……やがて麻友は凛を殺そうと決意する。

〈私は平穏な人生を手に入れるために姉を殺すのだから、絶対にバレてはいけない。事故に見せかけるのがベストだと考えている。きちんと計画を練って、慎重に、一度でキメるのだ。
 本格的に受験勉強の始まる、高三になる春までには済ませたい。姉のいない世界で、自由に未来を選ぶため。私に残された猶予は、あと一年。〉

 殺したくなるくらい心底嫌いになっているのに、それでもなかなか凛から離れられない麻友の不器用さに触れ、読みながら心の中が激しく蠢く。

 麻友は、普段の生活の延長上で凛を殺す手段を夢想する。自宅で飲み物に毒を仕込んだり、あるいは2人で買い物に行った先での建物内で手にかける……。空想の中での麻友は普段の優柔不断な姿を捨てて、残忍で容赦がなくなる。

 それだけでも登場人物のギャップに読みごたえがあって、著者の手腕が楽しめる。そこに理解のある両親、同級生、片想いの男子・ヨシくんが登場する。彼女、彼達の心ある言動は麻友を包み込もうとするものだが、中和することがない。たやすく互いを理解できないという著者の考えがそこにはあるのではないか。

 周囲に流されがちで、あやふやな性格であっても、あくまでも麻友は一人の「個性」を持った人間であることに気付かされる。

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