『アルテ』は「好き」を貫く勇気と強さを描く ルネサンス期の女性画家の生き方が共感を呼ぶワケ
この春、ルネサンス期のフィレンツェを舞台にした爽やかな漫画がアニメ化され、話題になっている。大久保圭の『アルテ』だ。
ひとりの少女の成長物語
同作の主人公は、16歳の少女「アルテ」。貴族の家に生まれたアルテは、幼い頃から「異常なほど絵にのめりこんでいた」のだが、あるとき、彼女のよき理解者だった父親が急逝してしまう。その結果、遺された一人娘のアルテと母親は窮地に立たされる(女性は財産を相続することができないのだ)。
当然のように母親は、娘がどこかの貴族と結婚することを望むが、アルテは別の決断をする。そう、好きな絵で身を立てようとして、フィレンツェの街にひとり乗り込んで行くのだった。たしかにかの地は「ルネサンス発祥の地」ともいわれ、大小さまざまな画家工房が軒を連ねている。常に弟子も受け入れていることだろう。だが、どこの工房でも、彼女は門前払いを食らう。
理由はもちろん、アルテが「女だから」だ。それだけでなく、この職人たちの世界(当時の画家はアーティストではなく職人だった)では、「貴族」だということさえも差別される原因になる。要するに、「金持ちのお嬢様に何ができる?」というわけだが、この古くさい固定観念を、アルテは持ち前の明るさと“がんばり”で、次々と打ち壊していく。そして、周りの環境や人々の心を変えるだけでなく、彼女自身も、フィレンツェの街でひとりの画家として一歩ずつ成長していくのだった。
それにしてもこの、アルテというキャラクターのなんと魅力的なことか。極論をいえば、本作で大久保圭が描きたいと思っているのは、華やかなルネサンスの美術でも西洋の歴史でもなく、単にひとりの少女が泣いて笑って成長していく姿だろうということが、巻を追うごとに伝わってくる。いまさらここで小池一夫の漫画論を繰り返すまでもないが、漫画制作で一番大事なのは「キャラ立て」であり、もちろんこの『アルテ』のヒロインも最初からものすごく「立って」いる。だからこそ、『月刊コミックゼノン』という青年漫画誌の連載作でありながら、「青年」ではない、女性が主人公でも多くの読者の共感を得ることができたのだろう。