『僕のヒーローアカデミア』危うい魅力の根源とは? 26巻で描かれるヴィランたちの苦悩や葛藤

 死柄木弔が率いるヴィラン連合は「デトネラット社」の社長・四ツ橋力也が束ねる異能開放軍を取り込み、超常開放戦線を結成。政治団体・心求党や大手企業の社長が構成員だった異能解放軍の力を手に入れた死柄木は全国主要都市を一斉に襲撃して機能不全とし、無法地帯となったところで心求党が政界に進出し世界を支配しようと目論むのだが、彼らの国家転覆計画がどこかワクワクするのは、ヴィランたちの結束がデクたちヒーローの絆と同じか、時にそれ以上に魅力的に見えるからだ。

 作者の堀越耕平は、エリートよりも落ちこぼれ、マジョリティよりもマイノリティの持つ弱さに共感を示す漫画家なのだろう。だからこそ“個性”が当たり前の社会で無個性の少年・デクを主人公にしたのだろうし、一見エリートに見える爆壕や轟といったライバルにも彼らなりの悩みがあって、一人一人が抱えている困難や苦悩があるということを丁寧に描いてきた。それはヴィランも同様で、犯罪に手を染める彼らもまた社会から疎外された被害者なのだとわかるように描いている。

 おそらくバトル漫画の作家性がもっとも強く現れるのは敵役を描く時だ。それは善悪を絶対的なものとして描くか、社会的立場によって簡単に入れ替わる相対的なものとして描くかの違いに強く現れるのだが、『ヒロアカ』におけるヴィランの描き方は明らかに後者で、だからこそ魅力的だと言える。とは言え、今まで描かれたヴィランの魅力は隠し味的なものだった。メインはあくまでヒーローたちの物語だったのだが、最近の流れをみていると、作者の気持ちが死柄木たち超常開放戦線のヴィランに向かっているようで、まるで主人公のようである。

 だからこそ、二重スパイとして超常開放戦線に潜り込んだヒーロー・ホークスがヴィランのトゥワイスから情報を引き出すために話している場面は、心を許しているトゥワイスの方が気の毒に見えてしまい、どっちを応援すればいいのか混乱してしまう。このようなヴィランへのシンパシーは、バランスを間違えば今まで積み上げてきた作品世界を壊しかねない危ういものだが、だからこそ目が離せない。この危うさがどこに着地するのか、大変注目している。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『僕のヒーローアカデミア』26巻(ジャンプコミックス)
著者:堀越耕平
出版社:集英社
価格:本体440+税
https://www.shonenjump.com/j/rensai/myhero.html

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