デスマッチファイター葛西純自伝『狂猿』
葛西純自伝『狂猿』第6回 ボコボコにされて嬉し涙を流したデスマッチデビュー
灼熱の秋葉原ファイヤーデスマッチ
先に入場したのが、ザンディグとニック・ゲージ。次は俺たちの番だと、松永さんと入場口で待機してたら、リング上が騒がしい。ザンディグたちが、キャンバス(マット)が剥がされて板張りになったリング上になにかの液体を撒き散らして、火を着けてるんだよ。
会場となった空き地の周辺は、ビルの建築ラッシュで、そこら中で工事をしていた。CZWのやつらは、近くの工事現場から、勝手に塗料や有機溶剤が入った缶を持って来て、それをリングにブチまけてたんだ。リング上には火柱が立ってて、さらに黒い煙がもうもうと漂ってた。これはちょっと一筋縄ではいかん、ということで松永さんと相談して、当時、松永さんが実際に使っていたクルマで入場することにした。松永さんがハンドルを握って、俺っちはハコ乗り状態で、そのままリングまで乗り付けたんだよ。
ゴングが鳴ったらもうメチャクチャ。まずザンディグをクルマで撥ね飛ばして、そのあとはロープでくくりつけてクルマで引きずり回した。俺っちはニック・ゲージと場外でひたすら殴りあってた。リングでは、ロープ4面が燃えてるんだけど、その勢いがすごくて、ほとんど火事だった。小鹿さんがそれを見てヤバいと思ったのか、試合中に消化器を持ち出して火を消し回ってた。そのガスで今度はリング上が真っ白になって、ほとんど何も見えない。
混乱したリングの上から、俺っちは場外にエスケープしたニック・ゲージにトペ・スイシーダをかましてやろうと思った。さすがに火のついたロープに触れるのは危ないから、松永さんに四つん這いになってもらって、その背中を踏んでロープを飛び超えてやろうっていう算段だ。思い切りダッシュして、松永さんの背中に飛び乗ったんだけど、松永さんの体も火で囲まれてたから汗がすごくて、思いっきり滑って、俺っちは燃え盛るロープに腹からモロに突っ込んでしまった。めちゃめちゃ熱くて、のたうち回ったよ。
そのあとも、トラックの上でザンディグにリフトアップされて、5メートルくらいの高さからから突き落とされたり、燃えたバットで殴られたり、と散々な目に遭った。この試合は、すごく話題になったけど、評価は真っ二つに分かれた。あんなもんプロレスじゃねえっていう声もあったし、すごい試合だったと、いまだに言われることも多い。俺っち的には、体はボロボロになったけど、「メチャクチャしてやったぞ!」という達成感が強かった。だって、最初から「メチャクチャやってやる」という気持ちだったしから、それは果たせたってことだから。
この日の夜、俺っちはCS放送「サムライ」のゲストとして生出演することになっていた。あんな試合をしたあとで、なんでそんなスケジュールを組まれたのかわからないけど、頭から血を流しながら電車に乗って九段下まで行って、生放送に出たことを覚えてる。この頃は、こうしたテレビや雑誌でコメントを求められると「もっとキ◯ガイみたいな試合がしたい」と言うことが多かった。いままでのデスマッチのイメージを超えた、もっと突き抜けた試合をしたいっていう想いだった。
いまは先輩やCZWにやられてばっかりだけど、勝敗に関しても、試合内容のインパクトにしても、全部超えていきたい。お客さんの想像を超えるデスマッチをしたい。そんな気持ちが「キ◯ガイ」というワードになったんだと思う。
■葛西純(かさい じゅん)
プロレスリングFREEDOMS所属。1974年9月9日生まれ。血液型=AB型、身長=173.5cm、体重=91.5kg。1998年8月23日、大阪・鶴見緑地花博公園広場、vs谷口剛司でデビュー。得意技はパールハーバースプラッシュ、垂直落下式リバースタイガードライバー、スティミュレイション。twitter
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