阿佐ヶ谷姉妹は“おばさん”の楽しみ方を教えてくれる 『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』を読んで

 同書には姉妹が初めて書いた短編小説も併録されている。いずれも初めてとは思えない筆致で、恋が始まる一歩手前の心の動きを丁寧に描いている。

 木村美穂(ミホさん)が書いた『3月のハシビロコウ』は、阿佐ヶ谷にある架空のゼリー屋さん「ゼリーバンバン」が舞台だ。いかつい顔に坊主頭の光太郎と、毛量が多いきのこ頭の勇樹の兄弟が営むお店。ちょうど時間を持て余していたミホさんは3月末までそこでバイトをすることに。不思議な余韻を残すラストが印象的。

 渡辺江里子(エリコさん)が書いた『ふきのとうはまだ咲かない』は、有馬にある温泉宿「旅館ありま」が舞台。仲居である蕗子は先輩の真知子さんの後押しもあって、湯守の年雄さんに少しずつ惹かれていく。そんなとき、彼と女将のあいだに良からぬ噂が流れる。寒い季節が終わって、春の訪れを感じさせる細やかな描写に思わず胸の奥がじんわりと暖かくなる。

 2月6日に発売された文庫版には、「その後の姉妹」という姉妹の対談が収録されている。単行本発売後に、ふたりは女芸人の頂点である『THE W』で優勝。多くの人に注目されるようになった。同居は解消したものの同じアパートの隣同士に住んでおり、部屋を行き来し食卓をともにする。事務所の先輩であるムロツヨシさんが優勝のお祝いにくれた43インチのテレビをエリコさんの部屋に入れるために棚の柱を抜いたり、ネタ合わせをしていたらいつの間にか「好きなフルーツベスト5」を出しあっていたり、売れっ子になったのに、まったく変わらないふたりの様子が対談から伝わってくる。

 美容系のYouTuberたちがこぞってアップしている、朝食の様子やメイク、服選びなど朝起きてからの日課を動画で紹介する「モーニングルーティン」動画。それをふたりも挑戦してみたところ、動画はなんと400万再生を突破(2020年2月現在、動画は削除されている)。彼女たちの肩肘張らない生き方に、時代が追いつき共感を呼んだ。

 読後、白髪の1本にへこんでいた自分が急に馬鹿馬鹿しく感じられた。これまで女性が押し付けられてきたライフスタイルとは全く異なる彼女たちの生き方を知り、むしろこれから先自分が「普通のおばさん」になるのがとても楽しみになった。歳をとっていくこと、体が徐々に衰えていくことをきちんと受けとめ、日々を楽しんで生きていこうと。

■ふじこ
10年近く営業事務として働いた会社をつい最近退職。仕事を探しながらライター業を細々と始める。小説、ノンフィクション、サブカル本を中心に月に十数冊の本を読む。お笑いと映画も好き。Twitter:245pro

■書籍情報
幻冬舎文庫『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』
著者:阿佐ヶ谷姉妹
出版社:幻冬舎
価格:600円(税別)
<発売中>
https://www.gentosha.co.jp/book/b12881.html

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