大倉忠義と成田凌で実写映画化『窮鼠はチーズの夢を見る』から読むBL漫画の進化

 水城せとなのボーイズラブ漫画『窮鼠はチーズの夢を見る』が実写映画化され、6月5日に公開されることが決定した。ノンケの大伴恭一を関ジャニ∞の大倉忠義、ゲイの今ヶ瀬渉を成田凌が演じる。水城の作品といえば大ヒットした少女漫画の『失恋ショコラティエ』がある。この作品も2014年にドラマ化され、嵐の松本潤や石原さとみらが出演し、チョコレート専門店を中心とした甘くも苦くもある男女の恋愛模様で視聴者を振り回した。

 今作品は、レディースコミック誌『NIGHTY Judy』に2004年から連載され2冊の単行本が出ており、さらに今年4月に読み切りを含めて1冊にまとめた新装版が発売予定となっている。

 ノンケの大伴恭一は、“迫られて流されて捨てられる”エキスパートだと自称するダメなイケメン。ある日突然、調査会社の人間に呼び出されて行くと、そこには7年ぶりに会う大学時代の後輩・今ヶ瀬渉がいた。今ヶ瀬は、たまたま大伴の妻に大伴の浮気調査を依頼された、つかんだ不倫の事実を揉み消す代わりに自分とキスをしろと脅す。

 ゲイであり、出会った頃から好きだったという告白に戸惑う大伴だが持ち前の流されやすさで、愛ゆえにかいがいしい今ヶ瀬に居心地の良さを感じ始める。今ヶ瀬を選ぶ決心がつかない中、大学時代に付き合っていた彼女と再会し3人の人間関係がもつれていく。

 16年も前の作品である。主人公たちがガラケーを使っている。連載時に表記されていた差別用語が現在は変更されているようだ。ガラケーがスマホになったように、ボーイズラブの世界もずいぶん広く、ずいぶん変わった。

 同時期から名BL作家である山田ユギが得意な、なんだかんだ登場人物全員ゲイで可愛い男子を取り合う“ハーレムもの”も根強い人気がある。しかし今作品のような、異性愛が当然の世界で生まれる同性同士の葛藤や惹かれてしまうことの罪悪感や戸惑い、好意を認めることすら大きな決断となるような恋を描く作品が昨今非常に多くなった。

 連載誌のテーマであるエロスも多分に表現されながら、水城らしい人間味溢れるBL作品が16年前から存在していたことに驚く。今でこそノンケとゲイの恋はいちジャンルとして確立しているが、当時の同性愛に対する差別的な空気感を含めた今作品のような内容にはなかなか出会えない。

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