出版市場の“22年ぶり復調”はなぜ起こった? ウェブと本の共生関係、その現在地を探る

増えるウェブ発の書籍

 「出版販売金額」を構成するものに目を向けると、ウェブ小説やウェブマンガの書籍化はもはや珍しくなくなった。たとえばウェブ小説の書籍は近年では年間千数百点に及び、マンガ化、アニメ化作品がコンスタントに生まれている。このようにウェブ発だが狭義の「出版市場」にカウントされる本も無論たくさんある。

 くわえてここ1、2年ベストセラーランキングを見ていて目立つのは、YouTuberやTikTokerなどのパーソナルな面を掘り下げた書籍である。その少し前までは複数人が登場するアイドルムック的なつくりのものが多かったが、最近ではひとりにフォーカスし、動画でも語らないそれまでの人生や活動の背景となる考えを書籍というかたちで表現した本が増えている。

 古くはブログやmixi日記の書籍化などから始まったウェブと本の共生関係は、デジタルメディア側の覇権がさまざまに移り変わっていくのに合わせながら、今も続いている。紙の雑誌メディアが弱くなったこともあり、ウェブ発の「書籍」の存在感はますます増している。本というあるていどのボリュームをまとめたパッケージは、紙であれ電子書籍であれ、今も人々に必要とされているのだ。ただその初出の出所、著者の出身が紙の雑誌ではなくデジタルメディアに移っただけだ。

小規模版元に吹く追い風

 近年、いわゆる「ひとり出版社」をはじめ、小規模出版社の設立・活躍が目立つ。以前であればそれなりの資本とコネクションがなければ大手取次に口座を開いて全国の書店に本を届けるのは難しく、さらに口座を開いても新興零細ほど条件が悪く、キャッシュフローが厳しくなることが新規参入の障壁になっていた。

 しかしいわゆるトランスビュー方式(新刊が発売されると取次から自動的に配本するのではなく、契約書店からの注文に応じて配本するしくみ)をはじめ、小規模版元向けの流通が整備されたことで「刷って撒く」のではなく「ニッチかもしれないが確実にいる読者に向けて本を作る」ことはむしろしやすくなった――とくにコスト的に身軽な少人数の版元ほどやりやすくなった。

 大手取次も物流コストの上昇などを背景に、2019年からしきりに「マーケットイン」を口にし、時に「押し紙」と揶揄され、返品率の高騰を招いてきた従来型の書店への自動配本から、書店注文に応じて発送するしくみへと変えようと声をあげている。

 書店の現場は疲弊している、バイトに注文なんかムリだという意見も絶えないが、とはいえ、書店員の声がますます高まり、書店の個性を出さざるを得なくなる時代が来つつあるのは間違いないだろう。

 かつてのようなどの町、どの駅にも必ず書店がある風景はもう二度と戻ってこない。けれども、自ら選書して注文しようという意欲ある書店員のいる、本好きに愛される書店は全国に数千は残るだろう。そしてやはり本が好きな編集者と作家とともに輪をつくり、それほど儲かりはしなくてもサステナブルに回る状態に、徐々に落ち着いていくのではないか。

 出版業界が抱える負の面に目を向ければキリがなく、筆者もそういうネガティブな切り口での記事を依頼されることがあるが、一方でポジティブな兆しや事例も無数に存在している。

 どちらかだけに偏っても道を間違う。両面に目を向けながら、未来をつくる術を探していくのがスジだろう。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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