このミス大賞『紙鑑定士の事件ファイル』は“プラモデラーの描写”がすごい! 元模型誌編集者がディティールを読み解く

 この野上というモデラー、本文中にはメールの文面だけでしか登場しない。そもそも、編集者の鈴木に直接土生井を紹介してもらう筋立てでも、そんなに不自然ではないはずだ(一応土生井は業界から干されているという設定ではあるけど、「今は仕事がないはずだから、電話したらすぐ連絡つくと思いますよ」とか、そういうセリフを挟んでおけばいいと思う)。にも関わらずこの野上のメールを挟んだということは、これはもう「モデラーはめちゃくちゃ漢字の多いメールを送ってくる」というネタを突っ込みたかっただけなのではないか。わかる……。なぜなら漢字の多いメールを送ってくるモデラーは実在するから……! 万事そういうディテールを積み上げて書かれているのが、『紙鑑定士の事件ファイル』なのだ。

 準主役である土生井が登場するまでの間だけで、すでにこの量の「モデラーと模型誌編集部にありがちなこと」が突っ込まれているというのは、実に驚愕すべきことである。冒頭ですでにこの調子なので、土生井が登場してからのモデラーあるあるの量は凄まじい。というか、そもそもここまで正確に模型誌編集部とモデラーに関するディテールが描写されている小説を、おれは他に知らない。この本を読んで「あるな~!」「それな~!」となる人はさほど多くないかもしれないけれど、刺さる人には確実に刺さるはず。モデラー諸氏には是非とも手に取ってほしい一冊なのだ。

■しげる
ライター。岐阜県出身。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。

■書籍情報
『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』
歌田 年 著
価格:¥1,518
出版社:宝島社

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