『十二国記』シリーズはなぜ大ヒット作になった? 現役書店員が考察する、ファン層拡大のプロセス

 それは台風の日だった。

 10月12日、全国一斉発売。小野不由美『十二国記』シリーズ18年ぶりの新刊『十二国記 白銀の墟 玄の月』(新潮文庫)1・2巻である。11月9日には3・4巻が発売される。Twitterでも「十二国記有給を取ります」という言葉が飛び交ったり、新潮社公式Twitterも「台風の情報をご確認のうえ、新刊購入のために無理な外出はされませんようお願いします」と注意を促したりなどの盛り上がりを見せた。ある地方の本屋の書店員である私の職場も例外ではなく、町の本屋の苦境が囁かれる昨今であるが、正面平台の一番目立つところにうず高く積み上げた『十二国記』は発売当日に瞬く間に売れていった。

小野不由美『白銀の墟 玄の月 第二巻 十二国記』(新潮文庫)

 第1巻は、新潮文庫史上最高となる50万部スタートにも関わらず、3日で各10万部の増刷が決定し、2週連続で売上ランキング首位をキープし続けた。3・4巻発売後も、1・2巻どころか既刊含めて売上は上がり続けるだろう。なぜ、こんなにも『十ニ国記』フィーバーが起きているのか。

 『十ニ国記』は、1991年に新潮社で単独の作品として発売された原点とも言われる作品で、2012年完全版発売の際にシリーズの一部として再刊行されたため現在は「エピソード0」的な位置づけで知られている『魔性の子』は例外として、元々、1992年に講談社のティーンズ向けライトノベルレーベル「講談社X文庫ホワイトハート」で発売された『月の影 影の海』から始まり、2001年発売の『黄昏の岸 暁の天』まで続く。また、2000年からは、読者層が成長することで年齢層が上がったことが関係しているのだろうが、一般文庫である講談社文庫でも刊行が始まっている。2003年にはNHKでアニメ化され、そこでも多くのファンを増やすことになる。

 そして2012年から、現在どこの書店でも大規模に販売されているだろう新潮文庫版が、短篇集『丕緒の鳥』を加え、完全版として順次刊行されていき、18年ぶりの書き下ろし長編『十二国記 白銀の墟 玄の月』が発売された現在に至るのである。

 こうして見るといくつかの分岐点があることがわかる。まずは、1992年の少女向けライトノベルとしての発売。ここでハマった世代が現在のアラフォー世代である。それまでに『悪霊シリーズ』(同じく講談社X文庫ホワイトハート)といった人気シリーズもあり、『十ニ国記』の物語は、当時の10代の少女たちの心を掴んで放さなかった。また、『ソード・アート・オンライン』を代表とするライトノベルの一大ジャンルである「異世界系」に繋がる部分が、ライトノベルファンを押さえていたとも言える。

 その後、小野不由美は1998年に『屍鬼』(新潮社)を発表。ここでティーンネイジャーのみならず、一般読者、特にホラー小説ファン層からの信頼も厚くなっていく。つまりは2000年から刊行された講談社文庫版の読者は、8年経って成長した以前からのファンのみならず、『屍鬼』以降の新規のファン、大人の読書家たちも含んでいた。新潮文庫版の刊行の際は映画にもなった『残穢』(新潮社)が発売されているため、尚更であろう。『十ニ国記』の物語は大河ドラマのように骨太な歴史ものとしても、1人の女性が逆境にめげず、強く逞しく生き、成長していく物語としても、幅広い読者の心を掴んだ。

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