ウィルはなぜ“裏側の世界”で生き抜いた? 『ストレンジャー・シングス 裏側の世界』レビュー
2016年7月にシーズン1が配信されて以来、世界中のファンを熱狂させ続けているNetflixオリジナルドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』。時代は1980年代、アメリカの小さな町を舞台に、ひとりの少年の失踪を境に、続々と起きる不可解な事件と、それに立ち向かいながら成長する少年少女たちをめぐるSFスリラーだ。ミリー・ボビー・ブラウン演じる主人公イレブンの超能力、80年代の暮らしとカルチャー、友情・恋愛・家族愛などのドラマや、脇を固めるウィノナ・ライダーらベテラン俳優の名演など、たくさんの「サイコー要素」があいまってドラマは大ヒット。2019年7月4日に満を持して配信されたシーズン3にいたっては、公開後たったの4日でNetflix史上最高の視聴アカウント数4,070万を叩き出した。
私も寝る間を惜しんで観た中毒者のひとりで、シーズン1の1話目からすっかりリモコンの停止ボタンを押す意思を奪われてしまった。「今日は一話だけ…」のつもりでも、全チャプターが憎いほどいいところで次回に続くのだ。そして、悲しいかな。のめり込むほどお別れは早くやってくる。ハマった物が終わってしまったときに訪れる喪失感は『ストレンジャー・シングス』の場合、他のドラマとは比べ物にならないほど大きかった。心にぽっかり空いたその穴を埋めるべく、ナイキやH&Mとのコラボグッズを買い漁り、気がついたら自他共に認めるケチな私の部屋が、ものの見事にグッズだらけになっていた。
待望のスピンオフ作品
そんなある日、「もしかしたら出るかな……?」とひそかに期待していたスピンオフ作品が、ついにコミックで登場した。今回紹介する『ストレンジャー・シングス 裏側の世界』(フェーズシックス出版)だ。本書はその名の通り、失踪したウィル・バイヤーズがアップサイド・ダウン、つまり裏側の世界でどのような足取りをたどったかを、ウィルの視点で描いている。
ここでシーズン1のエピソード1の序盤をざっとおさらいしてみよう。1983年11月6日、インディアナ州の架空の町ホーキンス。12歳のウィル・バイヤーズは、3人の大切な友だちを持ち、ファンタジーの世界と仲間とのボードゲーム遊びをこよなく愛する少年だ。その日は親友マイクの家でつい夜遅くまでゲームに熱中してしまった。キッズあるあるだ。そして、自転車で帰宅を急ぐ夜道でのこと。突然、得体の知れない「何か」に襲われ、逃げるはめになったウィル。それは人間なのか、怪物なのか? 目的は? 何もわからないまま、なんとか家に帰りついたウィルは恐怖におののきつつも見えない敵に果敢に反撃を試みる。が、襲撃者の正体が明らかにならないまま、瞬間移動でもしたかのような形で忽然と姿を消してしまう。
本コミックのストーリーも、この襲撃シーンから幕を開ける。ドラマでは「何か」に追われ自宅の小屋に逃げ込んだウィルが、反撃のため壁にかかっていた銃を手に取り、慣れない手つきながらも弾を込めて銃を構え、狙いを定める姿が細やかに描かれていた。後日、失踪したウィルを探しに小屋に入った警察署の署長ホッパーが、壁に掛かっているはずの銃がないことに気づく。そう、アップサイド・ダウンの世界に連れ込まれたときにウィルは、銃を携えていたのだ。4人の中で一番おとなしそうなウィルが、あの状況下でなかなか段取りよく射撃の準備ができたのはなぜ?と不思議に思うが、ウィルの父のチョイ悪なキャラクターから察するに、親父仕込みの技なのかもしれない。コミックの中では小屋でウィルが消えた後の様子が描かれ、銃を持って裏側の世界で懸命に生き抜こうとする姿が見られる。てっきり丸腰で裏側の世界をさまよっていたものと勘違いしていたが、ウィルが早々に「何か」の餌食にならずに済んだ理由がつかめた。