浜田麻里、蓄積された“内なるエネルギー”の具現化 創造性を深めた濃密な10年の軌跡、『INCLINATION Ⅳ』を語る

バックボーンの異なるミュージシャンと作り上げる無二のオリジナリティ
――もう1つの新曲「Monstrousa」は、ベース&ドラムのリズムセクションをフィリップ・バイノとマルコ・ミネマンが務めていますが、これも今回のアルバム制作のタイミングで出てきた曲なんですか?
浜田:そうです。だから、ドラムとベースを誰にお願いするかというのも、他の2曲と同じ時期に考えていました。これも国籍とかは関係なく、その曲に合って、より魅力的になるであろうミュージシャンを考えるんですよね。それこそ昔は、日本でもアメリカでもスタジオに全員同じ日に集まって、「はい、テイク1」「はい、テイク2」とやりながら録っていたわけですよ。でも今はバラバラにできるようになったので、昔のやり方だったら絶対にその場に集結することがなかったであろう人たちに、同じ曲に参加していただくことができるようになったんですよね。そういう意味では、本当に面白いというか。海外の方にはよく驚かれるんですよ。同じアルバムの中で、たとえばベーシストだと「リーランド・スクラーとビリー・シーンが同じアルバムに入ってるの!?」みたいな(笑)。
――確かに相当豪華なミュージシャンが並んでますもんね。
浜田:いや、豪華という意味ではなくて、肩書きや知名度の話ではないんです。音楽性やバックボーンがまったく異なるミュージシャンたちが、一つの作品の中に同居している。そこが、私なりの少し特殊な制作の特徴なんだと思います。今回もそうなんですけど、たとえばクリス・ブロデリックとマイケル・ランドウが同じアルバムにいるっていうのは、普通はあまりないと思うんです。そういう組み合わせが成立するのも、この特殊なレコーディングと制作の仕方を長年積み重ねてきたからこそなのかなと思います。今はオファーしてOKをもらえば、データ上で組み合わせること自体はできると思うんですけど、データのやり取りにしても、私はずっと本人と一対一で直接進めているんですよね。そういう長年のやり取りや信頼関係まで含めると、簡単には同じ形にはならないと思います。
フィリップもマルコもすごく好きなミュージシャンなので、今回も入ってもらいたいなと思ってたんです。当初、「Rhapsodiaris」をマルコで、というのも考えたんですけど、原澤くんのほうが思った通りにいくだろうと、何となくひらめいて。ただ、マルコには入ってほしかったので、今までとは若干違うタイプの曲をお願いして……そうでもないかな?
――いや、違うタイプだと思います。
浜田:そうですよね。tatsuoさんの曲でいうと、「Tomorrow Never Dies」はマルコですからね。
――ええ。岸井さんにも具体的な曲調のリクエストはしていないんですよね。
浜田:したかもしれない(笑)。何回も作り変えたりして、曲を行ったり来たりさせたので、最終的なものを聴いたら岸井くんもびっくりすると思うんですけど(笑)。元は若干シンプルめだったんですけど、アレンジを含めて広げていったんですね。
――この「Monstrousa」という言葉もまた耳慣れないですが、“monster”と何か関係あるのだろうかという想像をする人もいるかもしれません。どんなきっかけでピックアップした言葉だったんですか?
浜田:植物の成長点ってあるじゃないですか。そこが複数に現れて、通常とは違う特異な形に育つものを、園芸では“モンストローサ”と呼ぶことがあるんですけど、それに重ねて、アイデアが止めどなく出てきちゃう瞬間のようなものを書いたんですね。最近はそこまで没頭することは減りましたけど、若い頃は、気がついたら何時間も経っているような、異常なほどの集中力があったりしました。“Monstrousa”のことは、私は園芸が好きなので(笑)、育て方なんかをいろいろ調べているうちに知ったんですよ。園芸好きの人たちの間で使われている言葉で、これはタイトルに使えるなとずっと思ってたんですね。
――でも、この歌詞に込めたことは、それだけではないですよね。いろんなたとえが隠されているとは思うんですよ。たとえば、〈憤激より 断絶の種(しゅ)が育ち始める〉とあるじゃないですか。
浜田:もちろん、いろいろに捉えていただいていいんですけど、本当に成長点のことを言っているだけです……確かに植物に“憤激”はないですけど(笑)、そういう言葉を選びたくなっちゃうんですよね。
――最近の日本もそうですが、欧州などの移民問題などに当てはめられる気がします。
浜田:確かに、そういうふうに捉える人もいるかもしれませんね。いろんなことを暗に含ませるのは好きなほうなんですけど、これに関しては移民問題は考えてなかったです。俗に言う、いかにも“メッセージソング”みたいなものって、あんまり好きじゃないんですよ。告発するような曲もそう。アティテュードとしてあまり好きではないので避けてはいるんですけど、一人の日本人として、一人の人間として日々感じることはありますからね。そういうものが自然に出てきてしまうことはもちろんあります。でも、あえて直接言わないからこそ、言葉にしたくないからこそ、曲にしてるんですよね。
――ええ。そういうケースをこれまでもたくさん見ているからこそ、この場では尋ねざるを得ないんですよ(笑)。
浜田:「そうです」とは絶対に言わないですよ(笑)。でも、いろんな意味で、本当に時代の転換期にあることはすごく感じますよね。さっき言った対極転換の話で言えば、アメリカの政治も、かなり青の方向に振れた時期があって、その後にやっぱり対極が出てきたという見方もできるかなと思うんですね。日本も今、いわゆる“ホワイト社会”というか、清潔さや正しさを強く求める空気がありますよね。少し前までは、多少の不良性や危うさを含んでいるものがカッコいい、みたいな時代が結構長くて、その反動として今のホワイト化があるようにも感じます。ヘラクレイトスの“万物は流転する”じゃないけど、今は時代の振り子がかなり端のほうまで来ているような気がします。どうなっちゃうのかなとは思いますけどね。

“Celadon”と“Carmine”、色で掲げた2枚のコンセプト
――5年後の平穏さすら見通せないですよね。今回も例によって2枚のCDで構成されていますが、スタジオ音源からなるDisc7が「Celadon」、ライブテイクを集めたDisc8が「Carmine」と名づけられています。それぞれ青系、赤系の色ですが、これはどういう意図でしょう?
浜田:毎回ずっとテーマを決めてきたので、今回は言葉ではなく色でいこうかなと。Disc7はスタジオワークで、内側で育まれたものというか。いろんなミュージシャンとのやり取りは、ある意味、自分の中でも戦いなんです。そういう過程を経て、何度も焼かれるようにして出来上がったものを並べている感覚なんですよ。
セラドンというのは、少し緑がかった青系の青磁色なんですけど、焼く過程を経て生まれる色ですよね。それが、自分の経験だったり、いろんな場面を経てやっと仕上がった一曲一曲に、どこか重なる気がしたんです。カーマインは逆に、外に放たれる生命力だったり、熱量だったり。ライブでのお客さんとの空気感も含めて、赤系の色がいいなと思いました。セラドンとは違う意味で、そこに至るまでの過程も含めて、自分のキャリアを表せるような気がしたんですよね。
――Disc8「Carmine」の曲順はどんな観点で考えられたのでしょう? 1本のライブのような流れに感じますよね。
浜田:ほとんどの方がそうおっしゃるんですけど、最初から1本のライブのようにしようと思って作り始めたわけではないんですよ。ただ、自分としては何事においてもストーリーがないと嫌なタイプで、ただ雑多に並べました、というのは許せないタチなんです。
1本のライブっぽく聴こえるのは、曲と曲の間の作り方も大きいんですよね。そこにはかなり時間をかけたので、よりそう聴こえるのかなと思います。Disc7もそうなんですけど、一曲一曲が配信でピックアップされやすい今の時代では、そういうこだわりは無駄だと思われるかもしれません。でも私は、曲間も含めて一つの作品だと思って、長年すごく大事に考えながら作ってきたんですよね。
Disc8では、曲と曲の間の拍手や歓声も、程よくクロスフェードさせています。曲が終わって、バーッとお客さんの拍手や歓声が聞こえてくる。その熱量や感情の中に、次の曲のリアルな熱量を少しずつ混ぜてつなげていくような感覚です。その音量感は、ものすごく慎重に調整しています。
――そうなんですね。中盤の「Dystopia」から「Wish」までは静かに聴かせるところですが、これはシンフォニックコンサートと通常のライブでのアコースティックコーナーからのセレクトです。オーチャードホール、日本武道館、東京ガーデンシアターでのテイクが収められていますが、できるだけいろんなライブから取ろうということなんですか?
浜田:いや、ぜひ入れたいなと思った曲を、よりよく聴いていただくために考えた並びですね。Disc7はトータルとしてはハード系だと思いますし、ライブだともっと高揚感を期待されるかもしれないですけど、それとの対比という意味でも、わりと違う世界観でグッと中盤をもっていくのも面白いかなと思いました。
――その「Dystopia」と「Wish」は、2016年に行われた『プレミアム・シンフォニック・コンサート』の音源なんですよね。
浜田:もともとバイオリンなどの弦楽器が好きなんですよね。当時、録音だけはしておいたので、ここで使えてよかったです。萩森(英明)さんのアレンジがすごく好きなんですよ。
――これを耳にすると、またぜひシンフォニックコンサートをやってほしいという声が高まると思います。
浜田:そうかもしれないですよね。もちろんやりたいなとは思うんですけど……あとは本当に時間なんですよね(苦笑)。本当に時間に苦しめられてて。
――2014年と2016年に行われていますが、当時も準備を含めてすごく大変だったとおっしゃってましたよね。
浜田:よくやりましたよね。あの頃はいろいろなことをやってたじゃないですか。『SUMMER SONIC』とか『LOUD PARK』といったフェスにも出ましたし。この10年の前半は、特に自分がすごくパワフルだった気がします。
――そうですね。この10年の後半はコロナ禍でもありましたから、いろんなものが止まってしまいましたが。
浜田:ええ。コロナ禍は大変でしたし、アメリカの友人も亡くなりましたし……。もちろん、そういう悲しいことは別として、活動が止まったあの時間そのものは、私にとって決してマイナスではなかったんですよね。確かにスケジュールがズレたり、皆さんをお待たせすることにもなりましたし、実をいうと、会場をブックした後にキャンセルしたライブもありました。でも振り返ってみると、結果的にその時間もすごく有効に使えたと思いますし、私には有意義な空白になった。そして、そこで試したことがすべて、その後ちゃんと身になっているんですよね。
――制作環境を変えたりもしましたよね。さて、ようやく『INCLINATION IV』がリリースされ、新たなライブ『MARI HAMADA LIVE 2027 ― 40 Years and Beyond ―』が行われることも発表になりました。2027年2月10日がグランキューブ大阪、2月28日が東京ガーデンシアター。まだ先の話ですが、どんなライブになりそうでしょう?
浜田:音源をそのまま再現するというよりも、お客さんと共に作った空間の中で曲が生まれ直す――そういうものになればいいなと思っています。具体的にはこれからなんですけどね。ミュージシャンへの資料作りなどの仕事が溜まっているので、早く準備しなきゃなっていう焦りがすでにあります。でも今回は、BOHくんと原澤くんが新曲に参加しているから、少しは楽なのかな? いつもは「2〜3カ月は個人練習をしたいので、早くメニューを出してくれ」と言われるので(笑)。
――今後の活動について、現時点で何か言えることはありますか?
浜田:さっきも言ったように、時間をどう割り振るかで、すべてが決まりますね。1日があと3倍ぐらいあればいいんですけどねぇ(笑)。だから安易には言えないというか。とりあえず今は、早めにライブの用意をしなきゃというところで慌ただしいので。
――曲を書いたりというのは日常的なことでしょうからね。
浜田:自分のストックという意味では、もちろん余裕があれば日常的にできるのでしょうけど、いつも全然時間がないので、昨今はゼロから自分の曲を書くよりも、他の人のアイデアを起点に発展させるやり方を選ぶことが多いです。今回もそうでした。それでも、創作にはかなりの時間を費やしてるんですよね(笑)。
とはいえ今回の『INCLINATION IV』ですら、音に関しては「ああ、大変だった」という感じはそんなにないんです。むしろ、ジャケットをどうしよう、MVはどうしようといったことが、音の納品期限と同じ頃にドッと押し寄せてくるのが大変で。歌を歌う、曲を作る、レコーディングするというだけだったら、どんなに楽だろうと思うんですけど(笑)。一人で全体を管理している分、最も疲労困憊して「時間がない」と苦しむのは、むしろこのあたりなんですよね。なぜこんなに時間がかかっているんだろうと思われるかもしれませんけど。
――麻里さんは他の人に任せられないですもんね。
浜田:そうなんですよ。何度か右腕のような人を探そうとした時期はありましたけど、難しいです(笑)。やっぱり、人となりもある程度わかっていて、音楽的な判断も深いところで共有できる人となると、なかなかいないんですよね。だから、自分でやるしかないんだろうと思いつつ、悩んでますね(笑)。この先の人生を考えたときに、やっぱり余白のある生活をしてもいいんじゃないかなと思ったり。もちろん、アイデアは尽きないですし、しっかりやっていきたいという気持ちがあるからこそなんですけどね。


◾️リリース情報
『INCLINATION Ⅳ』
9月9日(水)リリース
配信:https://jvcmusic.lnk.to/inclinationIV
・初回限定盤【2CD+Blu-ray/スリーブケース仕様】
VIZL-2544
価格:5,700円(税込)
封入特典:ライブチケット先行予約シリアルナンバー
・通常盤【2CD】
VICL-66163~66164
価格:4,500円(税込)
封入特典:ライブチケット先行予約シリアルナンバー
※初回プレス分のみ
<収録曲>
Disc 7
Celadon — Studio Works(2016–2023)& New Recordings
1. Rhapsodiaris ※
2. Tomorrow Never Dies
3. Dia. — The Inner Cross ※
4. Prism
5. Monstrousa ※
6. Disruptor
7. Beautiful Misunderstanding
8. In Your Hands
9. Right On
10. Rainbow After a Storm
11. Mangata
12. Black Rain
13. Heart of Grace
14. Zero Gravity
※新曲
Disc 8
Carmine — Live Audio Selection(2014–2023)
1. Opening SE[2023 Tokyo Garden Theater]※
2. Dramatica[2023 Tokyo Garden Theater]※
3. Tomorrow Never Dies[2023 Tokyo Garden Theater]※
4. Black Rain[2023 Tokyo Garden Theater]※
5. Dystopia[2016 Bunkamura Orchard Hall]※
6. Paradox[2023 Tokyo Garden Theater]※
7. Canary[2019 Nippon Budokan]
8. Wish[2016 Bunkamura Orchard Hall]※
9. Stay Gold[2014 Tokyo International Forum Hall A]
10. Sparks[2019 Nippon Budokan]
11. Carpe Diem[2018 Zepp Tokyo]※
12. Rin[2016 Tokyo International Forum Hall A]※
13. Return To Myself[2014 Tokyo International Forum Hall A]
※初音源化
<Blu-ray>※初回限定盤のみ
・Rhapsodiaris(MV)
・Rhapsodiaris(Behind The Scenes)
◾️ライブ情報
『MARI HAMADA LIVE 2027 — 40 Years and Beyond —』
大阪公演
2027年2月10日(水)
グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)メインホール
OPEN 18:00 / START 19:00
東京公演
2027年2月28日(日)
東京ガーデンシアター
OPEN 17:00 / START 18:00




















