浜田麻里、蓄積された“内なるエネルギー”の具現化 創造性を深めた濃密な10年の軌跡、『INCLINATION Ⅳ』を語る

浜田麻里がニューアルバム『INCLINATION Ⅳ』をリリースした。本作は1994年に第1作が発表された『INCLINATION』シリーズの第4作で、浜田自身がデビュー30周年から40周年へ至る10年間を再構成したアルバム。スタジオワークスを軸に3つの新曲「Rhapsodiaris」「Dia. ― The Inner Cross」「Monstrousa」を収録したDisc7(Celadon)、2014年から2023年までのライブ音源を収録したDisc8(Carmine)の2枚組になっており、新曲群が凄まじい完成度を誇っているほか、ライブ音源によるアルバムが41年ぶりということも相まって、非常に濃密な聴き応えの作品となっている。
リアルサウンドでは、「浜田麻里 デビュー40周年特集」以来、約3年半ぶりに浜田にインタビュー。この10年間の心境の変化を振り返りながら、3つの新曲の制作を軸に『INCLINATION Ⅳ』についてたっぷり語ってもらった。(編集部)
「デビューして最初の10年よりも、気持ちのパワーがあった」
――『INCLINATION IV』ようやく完成しましたね。『INCLINATION』シリーズは10年区切りでリリースされてきた作品ですから、過去の例に従って言えば、本来は2024年に届けられるはずのものですよね。その意味ではスケジュールが押したということになりますが、「別に急ぐ必要もないかなと思っている」とのお話もされていましたよね。
浜田麻里(以下、浜田):ライブのMCでも、「急かさないでね」って言いましたよね(笑)。しっかり作ろうと思うと、ある程度の時間はかかりますので。
――ええ。単にある期間の代表的な楽曲をセレクトした一般的なベスト盤とは違って、『INCLINATION』シリーズは麻里さんが自身の歴史を踏まえて、改めて全体像を構成する特別なアルバムであることをファンならよく知っていますので、その旨はよく理解されていたのではないかと思います。ですので、いつも以上に待ち焦がれていたかもしれません。具体的なアルバムの構想は、どれぐらいから考え始めていたのでしょう?
浜田:うーん……最近のブレーンの人たちに、ある程度決め打ちで(新しい楽曲提供を)お願いしていたんですけど、アルバム『Soar』(2023年)のツアーの前には、もう何人かから今回収録される新曲の素材になるものをいただいてましたね。早く送ったのに何年待たせるんだって感じだと思うんですけど(笑)。ただ、新曲だけが入る通常のアルバムと違って、今回は新曲は多くても3曲くらいの予定だったので、いただいたものをすべて入れられるわけではない、ということも伝えていたと思います。ちょっと記憶が定かではないですけど。それで、自分がそれぞれの素材をもとに、本格的に楽曲の構築に取り組んだのは、ツアーが終わってからですね。
――その3曲の土台を作った原澤秀樹さん、tatsuoさん、岸井将さんには、こういったタイプの曲といった具体的なリクエストもしていたんですか?
浜田:最初の段階では、あえて具体的には言わなかったと思います。「Tomorrow Never Dies」にしても「Prism」にしても「Noblesse Oblige」にしても、『Soar』で彼らが書いた曲の評判はよかったですし、たぶん次は私にこういう曲をプレゼンしたいという、それぞれの思いがあるだろうと推測したんですよ。
――とすると、tatsuoさんが書かれた「Rhapsodiaris」はまさに1曲目に相応しい豪快さがありますが、これは結果的なことだったんですか?
浜田:そうではあるんですけど、いただいたアイデアの中から候補をある程度絞って、そこからコードを変えたり、構成を入れ替えたり、新たなセクションを私が作ったり、全体にメロディを乗せたり、そういう作業を繰り返していくんですね。その作業の前半の時点で、1曲目はtatsuoさんの曲にしよう、というふうにほぼ考えは固まってましたね。
――それは他に収録する既存の曲を決めた上で?
浜田:いえいえ、まだ決めてない状況です。ただ、おおよそのイメージはもう頭の中にありましたけどね。
――スタジオ作品の中から選んだDisc7は、どういった観点で選曲したのでしょう?
浜田:やはり、この10年の自分の意識の傾き――そういうものを象徴する楽曲を、というのがまずありますよね。あとはファンの方々からの人気曲も頭に置きつつ、自分の中で何らかの扉を開いた曲。結果的には、その二つがある程度重なっているんですけどね。
――ここに収められた既発曲は、マスタリングなども含めて、改めて何度も耳にされたはずですが、今だからこそ思うこともありますか?
浜田:発表した当時と基本は変わりませんが、音質などについては今回の『INCLINATION IV』にするために若干の調整をしているんです。もちろん、マスタリングという作業においては当然のことではあるんですけれども、実はミックスの段階でも一部バランスを調整して、全体としてひとつの作品になるように考えています。だから自分にとっては、“いわゆるベスト盤”という感じが薄いんですよね。かなり特別感があります。

――そういった取り組みも『INCLINATION』シリーズの特色の一つですからね。曲そのものや歌詞についてはどうでしょう?
浜田:相変わらず、自分軸で作ってきた足跡が改めて見えてきますし、やはり、その場その場で出会った共作者のミュージシャンとの切磋琢磨の中で生まれた偶発的なものもプラスになって、自分の傾きが少しずつ形作られていったんだな、と思います。
――『INCLINATION III』までの30年と、この10年との大きな違いはどのように感じます?
浜田:うーん……自分の中の熟し方というか。確実にこの10年のほうが、意志も含めてですけど、強くなっていますよね。そういう意味でも、デビューして最初の10年よりも、気持ちのパワーがあったような気がします。体力はもちろん落ちているんですけどね(笑)。
――強くなっていった理由は何だと思います?
浜田:やっぱり、人間としてのいろんな経験則もありつつ、メタ認知というか、俯瞰する力というのは、より長く生きて、良いことも悪いことも含めていろいろなものを乗り越えることで、身についてくると思うんです。40周年のときのインタビューでも話したように、これまでの歳月の中で溜まってきたいろんなわだかまりであったり、怒りであったり、自分の中の矛盾も含めて、蓄積したものが抽象化されて、内なるエネルギーになったような。いつか時代は巡ってくる、負ける気がしない――そういう思いを具現化していくような10年だった気がしますし、特に近年はそうじゃないかなと思います。
――それは世の中の動き、社会情勢なども大きく作用しますよね。
浜田:はい。創作中にふと感じたんですけど、私は自分の音楽人生を“破壊と再生”とよく言いますよね。ユング心理学に“対極転換”という考え方があるんですけど、それに近いところもあるのかもしれないなって。エナンチオドロミアといって、ある一方にすごく偏ると、無意識のうちに反対側のものが見えてきて、そちらに向かいたくなる……そういう心理的な作用があるんじゃないかなって気がしているんです、大局的に見ると。だから、この10年はハード系のほうに気持ちが向いてきているというか。
――昨今の作品でも明らかなように、ハードな音に乗せた表現をする時期であると。
浜田:そんな気がします。いつも両極、両極って私は言ってましたけど、そういう心理的な振れ幅の中で、この10年はハード系に寄ってきたのかなって思いました。
――でも、そのハードな傾向はまだ続きそうな気配がしますよね。この新曲を聴く限り。
浜田:そうかもしれません。私、他のアーティストの音楽ってまったく知らないんで、「時代がこうだからこうしよう」とか、無理して何かに合わせるとか、そういうのはないんですよ。自然なものなんです。求められてるからそうしてるってことでもないんです。ある意味、創作というのは“昇華”のような気もしているので、まだ何か溜まってるのかもしれませんね。ワーッと突進したいような感覚を作品の中で昇華させる。そんな気はするんです。



















