【対談】家入レオ×Ryosuke“Dr.R”Sakai:アルバム『31』で訪れた変化 「全部が新しかった」“等身大の自分”で歌う喜び

家入レオ×Ryosuke“Dr.R”Sakai 対談

 自身の年齢をタイトルにした、9枚目のアルバム『31』を8月26日にリリースした家入レオ。今作は、シングル曲「Mirror」も手がけたRyosuke“Dr.R”Sakaiが全曲プロデュース。洗練されたトラックとサウンドのみならず、歌唱法や作詞、音楽との向き合い方さえアップデートしながら挑んだ制作により、心地いい風が吹き抜けるようなナチュラルな温もりに満ちた1枚に仕上がった。

 その聴き心地とは相反して、沖縄合宿での制作とスタジオでのレコーディングは、家入自身が「ブートキャンプみたいでした」と語るほど試練の連続だったという。10代からキャリアを積み重ねてきた彼女が、これまでの“当たり前”を覆しながら新境地へ辿り着いたのだ。今回、リアルサウンドでは家入とSakaiによる対談インタビューが実現。アルバム『31』の制作の様子と、今の音楽との向き合い方についてじっくりと語ってもらった。(上野三樹)

家入レオ - 9th Album「31」(Trailer)

Ryosuke“Dr.R”Sakaiとの出会いで気づいた“いい歌”の在り方

ーーお二人の出会いは昨年のシングル曲「Mirror」でしたが、最初のお互いの印象はいかがでしたか。

Ryosuke“Dr.R”Sakai(以下、Sakai):正直、僕は日本の音楽をあんまり聴いてこなかったので、レオさんの曲も実はそんなには知らなかったんです。音楽ジャンル的にも僕の領域とはちょっと違うのかなと最初は思いましたが、長年活動されてきた中で変化を求められているのなら、何かできることがあるんじゃないかなと思いました。最初の印象は、そうだなあ……いい人そうだなと思いましたね。音楽を作る人としての人間性という意味でね。

家入レオ(以下、家入):いい人……なんか複雑(笑)。私はずっとSakaiさんが作っている楽曲を聴いていた側だったので、お会いした時のギャップが魅力的だなと思いました。メディアでの発言や佇まいはエッジが効いた印象ですが、実際にお会いすると人となりをちゃんと知ろうとしてくださる。相手の気持ちをすごく大切にしながら音楽を作る方というのが最初の印象でした。

家入レオ×Ryosuke“Dr.R”Sakai 撮り下ろし

――「Mirror」の制作はすごく刺激的だったそうですが、家入さんはどんなことを求めてSakaiさんとコラボしようと思われたんですか。

家入:17歳でデビューして自分なりに試行錯誤を重ねながら活動をしてきましたが、もうこれ以上どう進めばいいのかわからないと思う時期がありました。発声練習や筋トレ、有酸素運動といった、歌う前のルーティンや準備をストイックにやりすぎて、いつの間にか自然な音楽との向き合い方ではなくなっていたのかもしれません。人生があって、音楽が作られるはずなのに、いつの間にか“歌うために人生がある”状態になり、歌うことへの楽しさやワクワク感がわからなくなってしまって。そんな時に、お休みをいただいてオーストラリアに行ったことがあったんですけど、東京を離れたことで、これまでの自分のやり方を一旦全部手放してみようと思ったんです。そしたら、いろんなことが少しずつ上手く流れ出して、Sakaiさんにも出会えました。ご一緒してみて、私が今まで知っていた音楽の向き合い方とは真逆を体現してらっしゃる方だったので、全部が新しかったです。

家入レオ - 「Mirror feat.斎藤宏介」(Music Video)

――家入さんから見て、Sakaiさんは音楽の向き合い方が真逆だそうですが。

Sakai:まあ、歌う前にスタジオで準備体操みたいなのを始めた時はびっくりしましたね(笑)。今までそういうタイプのアーティストに会ったことがなかったので。

家入:準備体操というか、自分では体ほぐして声出ししよー、くらいな感じでした(笑)。そうやっていつも、一通りの準備をしてから歌っていたんですけど。それでも10代だった頃と比べて、30代に入って体の変化を感じる中で、慣れない環境での歌唱が続くと喉の不調に見舞われたりしてストレスを感じていました。そうやって過剰に気を遣っていた私に「普通に生きていたらいい歌が歌える」と気づかせてくれたのがSakaiさんでした。特に印象に残っているのは「音楽ってそんな神聖なものじゃない。音楽をやることは我々にとってご飯を食べたり、寝たり、歯磨きするのと一緒でしょ」と言われたことですね。

家入レオ×Ryosuke“Dr.R”Sakai 撮り下ろし
家入レオ

Sakai:そうだね。僕がこれまで一緒に音楽を作ってきた海外のミュージシャンとかヒップホップの人たちは、生活の延長に音楽があって、歩きながらでも歌うしラップする。音楽が生活そのもので、レコーディングも生活の延長なんです。そんな中で、すごく準備をしている真面目な人がいると思って。レオさんの音楽の取り組み方を見ていて、自らすごく重い十字架を背負って、背負いながら沈んでいってるように感じたんですよ。

家入:過去の自分を振り返るとおっしゃる通りです(苦笑)。

Sakai:僕はダークな音楽や生き方も好きだけど、レオさんにはもう少し楽しむ部分があってもいいんじゃないかなと。2010年代の初期から活躍されているから、2020年代に入ってからは、歌う環境や、アーティストに求められるものも変化していったと思うんですね。でもデビュー当時に培ったもので彼女はずっと頑張ってきていて、それはそれで素晴らしいことだと思うんですけど、年齢を重ねて、この先も長いアーティスト人生があるとしたら、もうちょっと肩の力を抜いて深呼吸して歌ってみたらどうだろうと提案しました。歌い方を変えたのもそうで、レオさんの普段の声って結構低くてカッコいいのに、歌うと急に年齢が10歳くらい若返った感じになるので、もっと実年齢に合った、素の自分に近い歌い方ができたらいいよねって。それができたら、31歳の女性として普段思っていることを素直に歌えるんじゃないかと思いました。

家入レオ×Ryosuke“Dr.R”Sakai 撮り下ろし
Ryosuke“Dr.R”Sakai

家入:歌っていく中でどうしても力が入りすぎてしまうことがあって、Sakaiさんに「力を抜いて歌うために座って歌ってみたら?」って言われてやってみたことも大きかったですね。これまでは、デビュー当時の声を維持することがプロ意識であり、皆さんの期待に応えることだと思い込んでいたのかも、と気づかされましたし、この制作を通して、もっと自分も周りも幸せにできる方法があると教えてもらいました。

「ありのままの自分を愛せるような音楽を一緒に作りたい」(Sakai)

――Sakaiさんはそんな家入さんと、音楽プロデューサーとしてどんな関わり方をしようと思いましたか。

Sakai:シングル1曲くらいであれば、ここまで深く踏み込まなかったと思います。音楽プロデューサーってそれぞれにいろんなやり方があると思うんですけど、僕はプロデューサーとして自分の色を無理やり押しつけたいわけでもなく、アーティストがどこに行きたいのかを見極め、そこに必要最低限のものを足していければいいなと思っていて。今の31歳のレオさんだからこそ共感してもらえる歌詞や、ありのままの自分を愛せるような、押しつけがましくなくサラッと聴けて前を向ける音楽を一緒に作りたいなと思いました。

――当初は数曲の予定が、アルバム丸ごと一緒に制作することになったのはどういう経緯だったんでしょうか。

家入:「Mirror」でのSakaiさんとの制作は、本当に今までの価値観が一新されるような出来事だったんです。そこで「数曲またご一緒できないですか?」とお伝えしたら、「じゃあ沖縄で制作合宿するのはどうですか?」と言っていただいて。

家入レオ×Ryosuke“Dr.R”Sakai 撮り下ろし

Sakai:まずは今回のアルバムに入ってる「We Could Be Something」と「Too late」を、NERVOっていうオーストラリアの双子のDJがちょうど来日していたから、レオさんと僕と4人で作ったんですよ。その時に5〜6時間で2曲作って、いい曲ができて、曲作りを継続してみた感触もよかったので、「じゃあ1回、沖縄で合宿してみませんか?」と提案しました。合宿だと、終わった後に飯を食いに行ったりして、人となりがお互いにわかりますし。海外のライティングキャンプでも、単にスタジオで会うだけじゃなくて、普段どういうことを考えながら音楽を作ってるかとか、酔っ払ったらどうなるとか、そういうのも見てて面白いし。やるからにはちゃんとやりたかったから。

家入:そこでSakaiさんが「アルバム1枚作ろう」と提案してくださって。人生って予想外のところで願いが叶うんだなと驚きました。でも、そこからの日々は、私のこれまでの努力の仕方とは全く違うアップデートを突きつけられるもので。レコーディング中は、自分に負けたくなくて泣いていました。

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