DJ KRUSH×ILL-BOSSTINOが語る、年齢を重ねて到達したヒップホップ表現「生きてる限りはずっとできる」

DJ KRUSH×ILL-BOSSTINO『XO』対談

 還暦を過ぎてなお、DJ KRUSH(以下、KRUSH)の勢いが止まらない。14枚目のソロアルバム『TOKYØHUM』は極限までストイックに研ぎ澄ました都市のサウンドトラックであり、ゲストにはイギリスのRiko Dan、ケニア生まれウガンダ育ちのラッパーMC Yallahなどをチョイス。一箇所に落ち着いてしまうことなく、時代に合わせて「ヤバい匂い」を嗅ぎ分けていくその感性に改めて痺れてしまう。

 そんなソロ作品と同時進行で生まれたのは、ILL-BOSSTINO(以下、BOSS)とのジョイントアルバム『XO』である。二人の出会いは90年代末にまで遡り、これまでも単曲での共演はあったのだが、KRUSHがひとりのラッパーとアルバムを作るのはこれが初となる。彼に話を持ちかけたBOSSは、ここで何を描きたかったのか。音の職人と言葉の求道者によるクロストークをお届けする。(石井恵梨子)

KRUSH「歳を取って、今はどんどん鋭くなってる」

『TOKYØHUM』

一一まずはDJ KRUSHさんの『TOKYØHUM』について伺います。タイトルの「HUM」はどんな意味でしょうか?

KRUSH:『TOKYØHUM』自体が造語なんですけど、端的にまとめられたらいいなと思っていて。ノイズだったり、東京のうねりだったり衝動だったり。そういうものを「HUM」って言葉に収めた。

一一ポジティブなイメージですか。

KRUSH:ネガティブも入ってる。だけど最終的にはポジティブに行こうって感じですかね。ただ、DJ KRUSHってどっちかと言うと砂浜に横たわって綺麗な太陽を浴びて聴く音楽ではなくて、やっぱりマンホールの下にずっといる、みたいな感じですから(笑)。今回は中毒性のあるダークなサウンドスケープを目指して作っていった。東京の闇じゃないけど、そこから何か光を見つけようっていう感じで。

BOSS:それこそ最新版、今のDJ KRUSHの立ち位置ですよね。相変わらず超尖ってる。まさにビーチじゃなくてマンホールの中みたいな感覚はすごくあるし、今回はさらに突き詰めてる印象がありますね。

一一効果音も含めて、どうやって作ったのかわからない不思議な音がよくありますよね。

KRUSH:もともと僕はヒップホップにヤラれて、サンプリングから入った人間です。でもそれだけじゃ自分を表現するに至らなくて。自分の頭の中で想像する世界を音にしようとすると、ヒップホップの絵の具だけじゃ足りなくなってきた。そうなると効果音もアリだし子供の声もアリ、虫の声も全然アリだなって、そこはもう枠がなくなっちゃってるんだけど。ただ、いろんな音が使える中で、今回はどれだけ絞れるか、選びに選び抜きました。どれだけ少ない音数で世界観を表現できるか。

一一なぜ音数を絞る方向になったんでしょう。

KRUSH:過去のアルバム、振り返ると14枚出してるけど。たとえば『MiLight -未来-』(1996年)では子供の声も入れて、「光だ」とか言わしちゃって、明るいこともやってきたの。その頃は世帯持って子供も生まれたから、やっぱりアルバムに反映されちゃうのよ。正直に自分を出してるから、コンセプトも作り方も毎回違うんだよね。

 で、今なんでこんなにDOPEになってるかっていうと、子供たちはもう家から出ていって、自分の子供が子供を産んで、孫が4人いて。もともと自分が一番好きだったもの、若い頃にヤバいと思ったあの匂いとか、ようやくそこと向き合えるようになったのかなと思う。なおかつ、そこからすごくストイックに音数を絞っていけたらいいなぁって。それはまだ途中です。歳を取って、今はどんどん鋭くなってる。

一一BOSSはいかがです? 今もストイックな鋭さを求めていますか。

BOSS:相変わらずライブはワンマンだと1MCで2時間半とかやってるけど、作ってる楽曲自体はもう拓けてカラフルになってるなって僕自身は思ってる。こだわりも自分の好きな曲を作るって以外はあんまりなくなってるし。

『XO』

一一だからこそ、『TOKYØHUM』の世界観と、コラボアルバム『XO』は、同時進行なのにここまで違うものになった。

BOSS:そうだね。ただ、両方ともKRUSHさんから出てきたものになっている。同じタイミングで違うものが2枚出たのはとても面白いなと思った。KRUSHさんひとりだとこうなるし、僕が入るとこうなっていく。そういうKRUSHさんの二面性が出ている。

KRUSH:聴いた手触りは違うかもしれないけど、今回の『XO』にもDJ KRUSHは全然いるよ。「どこだ?」って聞かれたら「ここです」って言えるくらいまでみんな聴けよなって思う(笑)。そこまで深く聴いてもらって全然大丈夫。それだけ二人でやり取りして詰めたから。

BOSS:詰めたね。

BOSS「歌詞の気になる一言が残るくらいが一番いい終わり方」

DJ KRUSH、ILL-BOSSTINO

一一改めて聞くと、コラボの話が動き出したのはいつですか。

BOSS:去年のアタマぐらい。一昨年の暮れぐらいに僕から話を投げさせてもらって。

一一BOSSが、KRUSHさんとアルバムを作りたいと思った理由は?

BOSS:僕、dj honda(以下、honda)さんとアルバムを作らせてもらって。hondaさんとのアルバムが完成した時に思った。日本人でラップやってて、hondaさんとアルバムを作ったなら絶対に次はKRUSHさんだなって。たまたま両方に声かけることができるところにいる以上、挑戦したいなって。

KRUSH:僕はBOSSとhondaくんのアルバムも聴いてたし、今回の『TOKYØHUM』聴けばわかると思うけど、自分自身はもう全然違うところに行ってるから。話を聞いた時、一瞬迷ったんです。でもBOSSだから。「DJ KRUSHってひとつだけじゃないだろ? 違う色をBOSSと出せるじゃん」って自分に言い聞かせて納得して。じゃあよろしくってことになった。

一一単曲のコラボは過去にもありますけど、アルバムとなると作業は変わってくるものですか。

BOSS:そうっすね。一曲だったら簡単だけど、今回はやり取りも多かった。スクラッチも含めて、僕がKRUSHさんにやってほしいことがいっぱいあったし。ヴィジョンの共有も含めて一年半くらいはかかったかな。

KRUSH:僕、35年DJやってるけど、ひとりのラッパーとアルバムを作るのは初めてのことで。音も全部自分でやるわけじゃん。BOSSとは単曲では作ってるけど、アルバムとなるとやっぱり全然違う。トータルのイメージもあるし、BOSSの世界観も出さなきゃいけないし。そのへんは面白かったよ。ちょっと勉強させてもらった。まぁBOSSだからできたんだと思う。

一一普段しないような脳の使い方もありました?

KRUSH:うん。普段は作らないようなトラックも作ったし、発見もあった。ハナからBOSSとやるって決めた時点で、BOSSというフォルダを作ってBOSSのために作った。たまたまできて「あ、これはBOSSに合うかも」じゃなくて。

一一それだけトラックとラップは相互作用が深いってことですよね。世の中ではラッパーが主役だと思われがちだけど。

KRUSH:うん。主役でしょ。

一一あ、同意されますか。

KRUSH:いいと思うよ。リリックなんだから。ラッパーがいるのにDJが音で出しすぎてもしょうがない。俺も詞の世界、BOSSの世界を汲み取っていくし、何を言いたいのか理解する、どういう温度を出したいのか考えることがすごく大切だと思うの。寄り添う形にするために100%を注ぎ込むし。だから一歩引くし、でも自分もちゃんとそこにいなきゃいけない。引いた中での100%っていうか……引くって言葉じゃないか。別に引いてるわけではないんだよな。

BOSS:全然引いてない(笑)。

KRUSH:抑制もしてない。遠慮なしにやってるんだけど。

BOSS:どちらが前ではなくて。これが五分と五分の響き方なんだと思う。アルバム全曲を聴き終わって、歌詞の気になる一言が残るくらいが一番いい終わり方。トラックばかり残るようじゃ僕の役割はまったく果たせてないし、かといって僕の言葉が全部突き刺さってしまってもバランスが崩れてしまう。まずいい曲があって、それが終わった後に残る余韻の感じ。そこにもトラックの大きな役割がある気がするんですよ。バンドのアンサンブルとはまったく違う、ヒップホップ独特の世界観だと思う。特にKRUSHさんの場合は、雰囲気とか色、匂いとか兆しで自分の存在をアトモスフェリックに出せる人なんで。

一一今出てきた言葉で、余韻というのは納得します。『TOKYØHUM』は聴いてる間ずっと「ヤバい!」ってドキドキしていられるけど、『XO』はむしろ聴き終えてからの余韻のほうが印象的で。

KRUSH:そう、なんとも言えないものがグイーッと残ってるんだよね。

BOSS:もっと直接的な、僕が昔やっていたような、ひとつ線を引いて「自分はこっち側、奴らはあっち側」みたいなラップだと、そうはならなかったと思う。きっともっと余韻的な表現の仕方を学んだんだと思う。そういうのを今のKRUSHさんとやりたかったしね。

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