時代に愛された麻倉未稀の歌 「大人の歌が歌えるような歌手」を追いかけた日々……45年の歩みと魂の行方
歌手の麻倉未稀が8月21日にデビュー45周年を迎えた。作詞を竜真知子、作曲・編曲を大野雄二が手がけたデビュー曲「ミスティ・トワイライト」は、ボサノバ調アレンジを取り入れた、今でいうシティポップ感の強いテイストで、エバーグリーンな魅力を放つ一曲だと言える。
この曲をはじめ、2ndシングルの「黒いパンプス」、筒美京平が作曲を担当した3rdシングルの「女嫌い」と、麻倉の実年齢(当時21〜22歳)より上の世代の女性が描かれた歌詞世界やスタイリッシュかつ普遍性の強いサウンド/メロディを持つ楽曲を、彼女は見事に歌いこなしている。この時点で、シンガーとしての彼女の実力がかなり高いことに気づいたリスナーも、当時少なくなかったのではないだろうか。
しかし、大きなヒットを持たないこともあり、一般的な認知度はまだまだだった当時。そんな状況を一変させたのが、1983年に発表された6thシングル「ホワット・ア・フィーリング~フラッシュダンス」だ。当時世界的にヒットした映画『フラッシュダンス』の主題歌としてアイリーン・キャラが歌った「Flashdance... What a Feeling」を日本語でカバーしたこの曲は、1980年代をリアルタイムで通過した世代にとってはテレビドラマ『スチュワーデス物語』(TBS系)の主題歌としてお馴染みだろう。
その翌年には『スチュワーデス物語』同様、爆発的ヒットとなったテレビドラマ『スクール☆ウォーズ 〜泣き虫先生の7年戦争〜』(TBS系/以下、『スクール☆ウォーズ』)の主題歌として、ボニー・タイラーの日本語カバー「ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO」を歌唱。1985年にはテレビドラマ『乳姉妹』(TBS系)の主題歌として、Bon Joviのデビュー曲を日本語で歌った「RUNAWAY」を提供するなど、話題の洋楽ヒット曲を高い歌唱力で表現することでお茶の間を賑わせた。
当時の麻倉は元来のシティポップ路線と並行して、先述したような洋楽ナンバーを多数カバーしている。シングル以外にも、アルバムではマイケル・ジャクソン「Billie Jean」(1984年のアルバム『Dancin' M』収録)やHuey Lewis & The News「The Power Of Love」、リマール「The NeverEnding Story」(ともに1985年のアルバム『DREAM DREAM』収録)など誰もが一度は耳にしたことがあるロック/ポップス/スタンダードの名曲をピックアップ。幅広いジャンルをまたにかけて活動するその姿勢は、誰もが認める実力が備わっているからこそ。先の「ホワット・ア・フィーリング~フラッシュダンス」や「ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO」のイメージだけで済ませてしまうにはもったいない、稀有な存在であることを理解していただけたら幸いだ。
そんな麻倉が8月19日、デビュー45周年を記念した最新アルバム『My Soul 〜45th Anniversary』をリリース。本作は麻倉とともにがん啓発活動に尽力している富田京子(プリンセス プリンセス)が作詞を手掛けた新曲「My Soul」に加え、大橋純子「たそがれマイ・ラブ」や庄野真代「アデュー」、布施明「シクラメンのかほり」など麻倉が10代の頃に愛聴した昭和の名曲を中心としたカバー曲を収録。各曲には高橋洋子やザ・ハモーレ・エ・カンターレといったゲストも参加しており、麻倉の大きな節目を祝福している。
80年代の洋楽カバー以降もミュージカルやジャズなど、新たな領域へと果敢にチャレンジし続け、酸いも甘いも嚙み分けてきた彼女だからこそ、各曲で聴くことができるボーカルワークや表現力はより説得力の強いものばかり。次ページ以降の本人インタビューでも語られているように、20代の頃から「ある程度の人生経験がないと歌に信憑性が表れないじゃないですか。なので、自分が30代、40代になった頃にそういう歌が歌えていたらいい」と目標を掲げていた彼女が、60代半ばに突入した今だからこその魅力を本アルバムで遺憾なく発揮している。
次ページ以降に掲載されている、麻倉の45年の歩みと新作に込めた思いが素直な言葉で語られた最新インタビューは、アルバム『My Soul 〜45th Anniversary』の副読本としてはもちろん、彼女のことをより深く理解するうえでも重要なテキストとなることだろう。さまざまなフックが用意された最新アルバムとともに、麻倉未稀というシンガーが刻んできた人生の年輪に、少しでも触れていただきたい。