ぼっちぼろまる×小西貴雄、平成/令和“すべてのJ-POP”を語り合う「わかりやすくて何が悪い!」 ヒット曲とは一体何なのか?
「わかりやすくて何が悪い」「ヒットソングに必要なのは粘着力」。対談のなかで次々と飛び出した言葉は、どれもシンプルでありながら、本質を突いていた。平成J-POP黄金期を支えた小西貴雄と、新世代のポップスを切り拓くぼっちぼろまる。TVアニメ『逃げ上手の若君』(フジテレビ系)第二期エンディングテーマ「ロマンティックがほしいなら feat. 小坂菜緒, 正源司陽子, 藤嶌果歩 (日向坂46)」の制作をきっかけに実現した対話は、世代を超えたJ-POP論へと広がっていった。(冨田明宏)
どうしても自分の思い描く“平成の音”にならなかった(ぼっちぼろまる)
――楽曲制作以外でも一緒に飲みに行かれたりもしているそうで、かなり親しくなられたんですね。
小西貴雄(以下、小西):年齢差を意識せず、楽しく一緒に過ごせる仲になりましたね。
ぼっちぼろまる:そうですね。“絡みやすい”って言い方も変ですけど、何を聞いても教えてくださるし、誰にも壁を作らない方だから、本当に何でも聞きやすいんです。
――大先輩に「絡みやすい」って(笑)。
小西:ぼろまるくんらしいよね(笑)。
ぼっちぼろまる:すいません! 僕たち世代の考え方や音楽制作についても興味深く話を聞いてくださるので、距離感が近くなってしまって(笑)。
――今のおふたりのやり取りを見ているだけでも、すごくいいセッションができる関係なんだなということが伝わってきます。そもそも、どういう経緯で今回一緒に楽曲を作ることになったのでしょうか。
ぼっちぼろまる:今回は『逃げ上手の若君』第二期のエンディングを担当させてもらうことになって、最初にいただいたオーダーが「かわいい曲にしたい」というものだったんです。前回は、本編のシリアスな空気を打ち破るような、ちょっとおバカで明るい曲でした。でも今回は、また別軸でいきたい、と。新しい女の子のキャラクターたちも登場しますし、恋や女の子にフォーカスした、本編とは少し距離を置いたエンディングを作りたいというお話をいただきました。
――そこから、「ロマンティックがほしいなら」が生まれていくわけですね。
ぼっちぼろまる:そうですね。実は僕自身、もともと平成初期のJ-POPがすごく好きで、「今回はより平成を感じる音楽を、令和の女の子たちに歌ってもらいたい」というイメージが最初からありました。デモが完成した時点で、「結構いい曲ができたな」という手応えはあったんです。でも、もっと平成サウンドに近づけたいと思って、自分でいろいろ研究したんですよ。当時はどんなキーボードを使っていたのか、どんなアレンジをしていたのか。そういうことを調べながら作業してみたんですが、どうしても自分の思い描く“平成の音”にならなかった。
――何が違うのかわからなかった?
ぼっちぼろまる:そうなんです。音色なのか、コードなのか、アレンジなのか……いろいろ考えたんですけど、「これは自分だけではわからない」と思って、スタッフさんに相談したら、「当時ご活躍されていたアレンジャーさんと一緒にやってみたらどうですか」という話になって。
小西:わかんないんだったら、本物を連れてこいと(笑)。
全員:(笑)。
ぼっちぼろまる:僕のなかで平成初期のJ-POPやアイドルソングを想像すると、どうしてもブラック・ビスケッツの「Timing」とかミニモニ。の「ミニモニ。ジャンケンぴょん!」が頭のなかで鳴るんです。あのサウンドがDNAに刻まれちゃってる(笑)。そこで調べてみたら「どっちも小西さんが編曲してる!」って。小西さんについて調べれば調べるほど、「絶対に小西さんにお願いしたい!」と思う一方で、「大御所だし、受けてくれないよな……」なんて思いながらもスタッフから連絡してもらったら「いいですよ」って言っていただけて。
小西:これは僕のなかで結構大事なことなんですけど、スタッフの方が書かれたメールの文面がちゃんとしていたんですよ。依頼内容も明瞭だし、「これなら自分の出る幕かな」「当時僕たちが作っていたサウンドがほしいんだな」って。
ぼっちぼろまる:そのサウンド、いざ作るとなるとすごく難しくて。何をどうすれば小西さんたちが生み出した、あの平成らしいJ-POPサウンドになるのかがわからなかったんです。
小西:僕たちが作ってきた平成のJ-POPの特徴であり、自分の信念でもあることなのですが「わかりやすくて何が悪い!」。これに尽きると思っていて。
ぼっちぼろまる:実は僕も、まさにその心情で音楽をやっているところがあります。もちろん、マニアックなこともやりたいし、「新しいね」「すごいね」って言われるものを作りたい気持ちもあります。でも、それって全部見える形でやるんじゃなくて、わからないように仕込めばいいとも思っていて。
小西:そうそう。それでいいんだよ。昔、所属していた事務所の社長に言われたことがあるんです。「お前は名曲を書こうとしてないか?」って。「わかりやすくて、歌いやすくて、覚えやすい。それでいいんだ」「いい曲とか名曲かどうかは、まわりが決めることだから」と。その言葉が、すごく刺さったんですよね。だから、今でも「わかりやすくて何が悪い」と思って作っているんですよ。それがいちばん重要なポイントです。
――平成初期のJ-POPは、大人も子どもみんな同じ音楽を聴いていた時代でもありました。しかし子どもは情報で音楽を聴きかず、「好き」「嫌い」だけで判断するわけで。
小西:その通りです。誰が作ったからすごいとか、音楽的に難解な要素があるからかっこいいとかじゃない。頭じゃなくて体で聴いてるんだよね。「自然と体が動いて踊っちゃう!」とか「音がかわいい!」とか「なんか楽しい!」とか。もちろんビジュアル面の影響もあるけど、今ほど情報が多くない時代だったから、音そのものにワクワクできた。だから、わかりやすいことは、決して悪いことじゃなかったんです。細かいことを言うと、DX7からトライトンに移行するシンセサイザーの進化とか使い方とか、歌謡の伝統と洋楽の流行の取り入れ方とか、いろいろあるんだけどね。
J-POPのDNAは“粘着力”
――実際、ぼっちぼろまるさんから届いたデモを聴いて、小西さんはどんな印象を持たれたんですか。
小西:最初に思ったのは、「ロマンティックがほしいなら」というフレーズでした。これ、すごく耳に残るんですよ。僕はよく“粘着力”という言葉を使うんですけど、この曲にはそれがある。曲の“へそ”が最初から見えていたんですよね。「この曲なら活躍できるかもしれないな」と思いました。
――“粘着力”という言葉、すごく面白いですね。今はTikTokなどでも「一瞬で耳をつかむフレーズ」が求められる時代ですが、それとはまた少し違う意味にも聞こえます。
小西:ギミックだけで耳を引くこともできるんですよ。でも、「ロマンティックがほしいなら」というフレーズそのものに“粘着力”がある。昔のヒット曲って、長く耳に残る力があったんです。この曲にも、それがちゃんとある。もちろん、今の曲だから展開は速い。でも、そのスピード感のなかでも、ちゃんと引っ掛かるフレーズがある。そこが素晴らしいと思いました。
ぼっちぼろまる:“粘着力”という言葉は、自分では意識したことがありませんでした。でも、言われてみると、流行る曲ってたしかにみんな“粘着力”がありますよね。すごくいい言葉だなと思いました。
小西:たとえば、つんく♂さんの曲。彼の生み出すフレーズの粘着力は本当にすごい。瞬間芸じゃなくて、メロディそのものが耳に残る。ポップソングの秘訣って、そこなんじゃないかなと思うんですよ。
――実は今回の曲を聴いていて、僕はある種の“つんく♂らしさ”も感じたんです。もちろん意識的というより、自然に滲み出ているものとして。
ぼっちぼろまる:それはあると思います。やっぱり「とにかくキャッチーな曲を作ろう」という意識は強いですし、サビのいちばんインパクトのあるフレーズから考えることも多い。「ロマンティックがほしいなら」という言葉が出てきた時点で、「これはいけるな」と思いました。まず一本、強いフレーズがある。それがすごく大事なんです。
小西:僕は、ぼろまるくんの曲って、もともとそういう粘着力を持っていると思ってたんですよ。つんく♂さんの影響も感じるし、その先をたどれば筒美京平先生にもつながっていく。結局、それって全部J-POPのDNAなんですよね。
ぼっちぼろまる:まさにDNAだと思います。自分のなかの“ポップソングの基準”が、平成のJ-POP、J-ROCKにある。子どもの頃から自然に聴いて育ってきたものなので、今こうしてポップスを書けているのも、そのおかげなんだと思います。
――『逃げ上手の若君』には、「鎌倉STYLE」に続いて2度目の参加になります。第一期から第二期まで、引き続き声をかけてもらえたことへの思いはいかがですか。
ぼっちぼろまる:めちゃくちゃ嬉しいですね。『逃げ上手の若君』は、アニメの内容がかなりシリアスというか、残酷なシーンも出てくるような作品でもあるんですよね。第一期の第一話はかなり衝撃的で、そこから僕の能天気な「鎌倉STYLE」がエンディングで流れる。そのギャップが「逆にいい!」と言ってくださる方がいて、いい余韻になったと言ってもらえたのは嬉しかったです。ただ、放送当日を迎えるまでは、結構不安でした(笑)。
小西:そうだよね。本編はかなりシリアスな内容だから。
ぼっちぼろまる:僕はずっと『週刊少年ジャンプ』(集英社)を読んでいて、『逃げ上手の若君』も最後まで読ませてもらって。最近、作品自体が完結を迎えましたけど、最後まで本当に完璧な作品だったと思っています。松井優征先生のクリエイティブからは、僕もたくさん影響を受けています。いろいろな策を練りながら物語を進めていく。その姿勢は、僕がミュージシャンとしてさまざまなアイデアを練りながら作品を作ることにも通じると思うんです。
今回、小西さんとご一緒したことも、日向坂46の3名に歌っていただいたこともそうですけど、いろいろな人と関わりながら、素晴らしいクリエイティブを届けていく。松井優征先生の作品からも、そういったクリエイティブとの向き合い方を感じてしまいますし、アニメ『逃げ上手の若君』もその流れを引き継いでいると思います。
――本当に作画が素晴らしいですよね。
ぼっちぼろまる:漫画を踏襲しながら、アニメだからこそ、より強く伝わってくるものがあると思います。第一期があったからこそ、第二期では「もっとやってしまいましょう!」という感覚が、制作側にも僕にもあったんじゃないでしょうか。「鎌倉STYLE」がこれだけ評判になったなら、もっと振り切ってもいいだろうと。僕自身も「もっとやれるはず」と思えたところがありました。
――なるほど。
ぼっちぼろまる:あと、もともと僕は雫が好きだったんです。ただ、亜也子も魅力的ですし、魅摩も魅力的。女性キャラクターはみんな魅力的ですよね。時行も、すごく魅力的な男の子。
小西:時行もかわいいんだよね。
ぼっちぼろまる:そうなんですよ。ちなみに3人とも、最終的にはとんでもないことを言ったりするんですが、根本はすごくピュアなんです。3人とも、時行のことがまっすぐに好きなんですよね。漫画を読みながら、ずっとそこを感じていました。だから、今回はめちゃくちゃピュアな曲を書きたいと思ったんです。それは曲が完成するまで、ずっと一貫していました。少し過激なことも言っているけれど、心の底ではピュアである。その部分を最後まで貫いたラブソングにできたと思っています。作品からいただいたものを、自分のなかへストレートに落とし込んだ結果、この曲になりました。