今井美樹、40年にわたる対峙の先で見つけた答え 正直で誠実な音楽の旅『"Our Songs!!" TOUR 2026 ~smile~』を観て

 今年2月にリリースされた21枚目のオリジナルアルバム『smile』を携え、今年5月からスタートした今井美樹の全国ツアー『今井美樹 40th Anniversary "Our Songs!!" TOUR 2026 〜smile〜』が、8月6日に東京・東京国際フォーラム ホールAにて閉幕した。全国23カ所25公演にわたり行われた今回のツアーは、タイトルからもわかるように今井のデビュー40周年記念も兼ね備えており、これまで刻んできた歴史と現在進行形で表現される最新の姿が余すところなく提示された、至福のステージとなった。

 会場が暗転すると、ステージにはバンドマスターの河野圭(Key)を筆頭に、鶴谷智生(Dr)やなかむらしょーこ(Ba)、真壁陽平(Gt)、川江美奈子(Cho/Key)、村田昭(Key)といった、今回のツアーを支えるバンドメンバーが登場。そのままスウィング感の強いジャジーな演奏に突入すると、最後に今井が姿を現し、客席からは温かな拍手が送られる。そこから「彼女とTIP ON DUO」でライブをスタートさせると、原曲のイメージを保ちつつも若干アダルトなテイストが加えられたアレンジで、観る者を魅了。以降も「微笑みのひと」「瞳がほほえむから」といった代表曲の数々を、落ち着いたトーンの歌声でしっとりと表現し、観客を優しい空気で包み込んでいく。

 最初のMCでは「ここ東京国際フォーラムでのライブは、2018年の『CONCERT TOUR 2018 "Sky"』以来8年ぶり。そっか、もう8年も経ったのかとちょっとびっくりしています」と、笑みを絶やさない今井。その後、2023年からスタートした『Our Songs!!』と題したツアーの趣旨について触れつつ、「今回はニューアルバム『smile』からの新しい曲が加わって、懐かしくもあり、でも新しい、そんな最新の今井美樹を皆さんにお届けしたいと思います」と告げると、その新作『smile』から「One more smile」「美しい場所 〜Final Destination〜」「VOICE」といった楽曲を連発する。現在のモードで制作された新曲群は、過去の名曲たちとはひと味異なる、今の年齢の今井が歌うからこそ輝きを増す唯一無二のものばかりで、スクリーンなど過剰な演出を排除したシンプルなステージと、無駄な音数を極限まで削った生々しいバンドアンサンブルによって、今井の歌声に対する没入感を最大限にまで高めてくれた。

 この日のライブで特に印象的だったのが、「VOICE」を歌い終えた瞬間。この曲はピアノ伴奏から始まると、進行するにつれて徐々に演奏の熱量が高まり、クライマックスではギターとコーラスの存在感が際立つというライブならではの一曲なのだが、披露し終えた直後に「こんなことを言うと、きっと怒られると思いますが、大好きな曲を大失敗してしまいました(笑)。もう一回やらせてもらってもいいですか?」と口にし、再度「VOICE」を歌唱することを宣言する。ファンにとっては一度のライブで二度も楽しめてラッキーだったかもしれないが、こうした場面に今井美樹というアーティストの誠実さ、歌や作品づくりに対する徹底したこだわりを感じずにはいられなかった。こうして再び披露された「VOICE」だが、確かに1回目よりも感情の昂り具合や歌の深みが違って感じられたのは、きっと筆者だけではなかったはず。と同時に、そんな今井の行動に触発されてか、バンドメンバーの演奏にもより熱が入る絶妙な化学反応によって、最高のパフォーマンスを目撃することができた。当然のように、曲が終わると客席からはいつまでも鳴りやむことのない、盛大な拍手が送られたことも付け加えておく。

 この流れから届けられた「野性の風」「PRIDE」といったバラードナンバーも、もちろん最高の仕上がりだった。ツアーファイナルという事実はもちろん、思いもしないハプニングのおかげで、最高の集大成を目撃することができる――。第1部がエンディングを迎える頃には、その場にいる誰もがそう確信したことだろう。

 約20分の休憩を挟んで、ライブはグルーヴ感の強調された『The Days I Spent With You』にて第2部に突入。白いシャツにミントグリーンのパンツからブルーのシャツに黒いパンツへと衣装替えした今井は、バンドが生み出すダイナミックな演奏に乗せて、前半以上に伸びやかで温かみの伝わる歌声を響かせていく。

 それまで着席して歌声に酔いしれていたオーディエンスに向けて、「ここからは座ってる場合じゃないですよ!」と今井が呼びかけると、「Because of you」からはライブ前半の穏やかな空気から一変、アップテンポの楽曲中心でライブが進行。「青空とオスカー・ピーターソン」では今井の動きに合わせて、観客が手を左右に振ったり、「雨にキッスの花束を」ではリズミカルなクラップで一体感を生み出すなど、曲を重ねるごとに会場の熱気は上昇を続ける。「みんなも一緒に歌おうよ!」との問いかけにシンガロングで応える「オレンジの河」、今井がステージ上を動き回りながらオーディエンスに笑顔を振り撒く「幸せになりたい」と、長い歴史を通じてファンと思いを共有してきた人気曲が立て続けに披露され、内へ内へと潜り込むような前半とは異なる外向きの開放感がフロアを掌握していった。

 そして、人生を長い旅に喩えたトークとともに「一つひとつの出来事を、みんなそれぞれ一生懸命抱えて、前を一歩一歩歩いてきたから、今日私たちはここに集うことができて、私もステージに立つことができています。寄り道もしてしまったし、びしょ濡れにもなったけど、それでも自分の道を歩いてきたら、こんなに素敵な景色に出会えました」と感謝を伝えると、ありったけの思いを込めて「PIECE OF MY WISH」を歌い、ライブ本編を終了させた。

 アンコールではシックなドレッシーな衣装に着替えた今井が、抑え気味の照明のもとで「空に近い週末」「Life is a journey」を歌唱。アコースティックギターやアップライトベースを用いた演奏で、より深みの強い音世界が構築されていくと、今井は「この時間が皆さんにとって、また明日へ向かう小さな力になっていたら嬉しいなと思います」と素直な思いを届ける。さらに、「今、困難のなかにいる人たち」と直近に発生した令和8年熊本地震で被害に遭った人たちへのエールとともに、「明日からのあなたもどうか輝いていますように。そして、また元気で会えますように」と未来へ希望を込めて「Goodbye Yesterday」を力強く歌い上げ、約3時間におよぶステージを締め括った。

 音楽の前では誰もが自分を取り繕うことなく、素直になれる。だからこそ、その音楽を生み出す者も自分に対して、そして聴いてくれる人に対して正直に、誠実にならなければいけない。そんなことを教えてくれたのが、この日の今井美樹だったのではないだろうか。そして、彼女が40年にわたり対峙してきた課題に対する答えが、この日のステージで見事に示されていた。この重要なマイルストーンを通過した今も、彼女の長い旅は続いている。その旅がどこまで続くのか、どこへ向かうのか。いちファンとして、これからもその背中を見守り続けていきたい。

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