渡辺美里、デビューから40年の時を経た“歌とメッセージの深み” 21stアルバム『Birthday』をライター3氏がクロスレビュー
デビュー40周年を経た今もなお、第一線で圧倒的な歌唱を響かせているボーカリスト 渡辺美里。先日還暦を迎えた彼女から、21枚目のアルバム『Birthday』が7月15日に届けられた。40年の間に数多くの名曲を歌ってきた渡辺だが、キャリアのピークはまだまだ先。原点を大切にしながらどこまでも表現の幅を広げ続ける、ボーカリストとしての充実の現在地が刻まれたアルバムに仕上がっている。来たる11月8日には、21年ぶりとなる西武ドーム(現ベルーナドーム)公演も控えている渡辺。その渾身の最新作『Birthday』について、阿刀"DA"大志、伊藤亜希、天野史彬のライター3氏によるクロスレビューを通して徹底的に紐解いていく。(編集部)
「変わらないまま増した“深み”、集大成としての美しい光」(阿刀"DA"大志)
いつだって変わらぬ姿でそこにいてくれる――そんなふうに40年以上にわたって思わせてくれるアーティストは一体、この世の中にどれだけ存在するだろうか。長い音楽リスナー人生において、同じアーティストの活動をずっと追い続けることは難しい。ライフステージの変化などの影響で音楽そのものから離れてしまう人だっているだろう。
しかし、渡辺美里は自分の大好きな歌をずっと歌い続けてきた。どの時代の音源を聴いてもまったくブレがない。一聴してすぐにそれとわかる美里節がある。ボーカリストであればそういうこともあるだろう。だが、彼女は多くの歌詞(と一部の作曲)を自身で手掛けつつも、様々な作家の手も加わっている。それでもその世界観はキープされている。歌謡曲でもJ-POPでもなく、渡辺美里独自の普遍的な世界がそこにはある。現実味はあるのにここではない別の世界線の物語のように感じられ、もどかしくなるような距離が“君”と“僕”の間にはあって、まっさらの新曲なのになぜだか懐かしく感じる。もちろん、歳を重ねるにつれて表現や歌詞の視点は少しずつ変わっていく。いつももっと先を見つめて走っていた1980年代から、今日を大事に生きている2020年代。本質はそのままで、サウンドも含めてより深みが増している。
最新作『Birthday』のリリースタイミングで渡辺美里の40年を振り返ってみると、彼女のやりたいことはずっと一貫していたんだと改めて気づく。もちろん、中心にあるのは歌。それが、ポップス、ロック、ファンクやソウルといった彼女が愛する音楽と絶妙なブレンドで溶け合っている。サウンドの芳醇さという視点で見ると、『Flower bed』(1989年)の頃からこのスタイルは変わらない。言い換えると、今聴いても時代を感じさせない。
今作で最も気に入っているのは、「でっかい愛を抱きしめながら」。ブルージーなスライドギターとエレピの絡みが醸し出す青春感と甘酸っぱいメロディの組み合わせが、「これぞ渡辺美里!」と快哉を叫びたくなるような心地よさを生む。長年のファンにとっては、ラスサビで立て続けに登場する歌詞のセルフオマージュにもニヤリとさせられるはず。この曲に限った話ではない。「BITTER☆SWEET ROCK'N'ROLL」に登場する〈『青春のバカー!!』〉も、「ハートに火をつけて 〜シーズン2〜 with 怒髪天」の随所で顔を出す「My Revolution」の引用も、これだけの歴史があるからこそ、演者とファンの間でだけ交わされる共犯めいた微笑みにつながるのである。作曲の田中明仁と編曲の奥野真哉は前作『ID』(2019年)から美里楽曲に参加している作家だが、美里節のなんたるかを深く理解しているのだろう。「でっかい愛を抱きしめながら」に続く、川村結花が作詞作曲を手掛ける「Deep Breath」は、美里サウンドを作り上げた偉大なる功労者の一人、佐橋佳幸によるアレンジにイントロから心を掴まれる。田中・奥野と佐橋とでは美里楽曲への参加時期が数十年も離れているのに、アルバムの中で違和感なく溶け合っているところが素晴らしい。
そう、渡辺美里の世界は40年間変わらないが、彼女の楽曲はずっと同じ作家が支えているわけではない。もちろん、木根尚登のように初期から関わっている作家のクレジットが今作にも記されていることは大変うれしい。その一方で、彼女は定期的に新たな才能を探し求め、美里サウンドを支える一員として迎えている。渡辺美里というアーティストの作品のクオリティが常に高いレベルに保たれているのはこの新陳代謝が大きいと思っている。彼女の音楽には、何代にもわたって継ぎ足されている秘伝のタレのような魅力があるのだ。そのタレの味は、継ぎ足せば継ぎ足すほど深みが出る。
冒頭で、歳を重ねるにつれて歌詞の視点が少しずつ変わっていくと書いた。ひとつ例を挙げると、涙の意味だ。〈夢を追いかけるなら/たやすく泣いちゃだめさ〉と背中を押した「My Revolution」から40年、本作では〈泣いてもいいよ〉(「そして歌がはじまった」)、〈あなたの涙は弱さじゃない〉(「光芒 〜Sign〜」)、〈汗かき べそかいて ここまできたよ〉(「毎日がバースデイ」)と肯定している。未来志向だった過去から、今を大事に生きようと寄り添う現在へ。そして、恋愛の愛からもっと大きな無償の愛へ。変わらないと思っていた場所で、彼女は静かに立ち位置を変えていた。
本作は、渡辺美里という女性ボーカリストによる40年以上に及ぶ壮大な物語の集大成として美しい光を放っている作品だ。自分の好きなアーティストが、ずっと自分の好きな姿のままでキャリアを重ねてくれる。なんて幸せなことだろうか。〈あれから10年〉(「10 years」)どころか、何十年も経った今なお、あの頃と同じ気持ちで大好きなアーティストの新作と向き合わせてくれたことに本当に感謝したい。細かいことを言うなら、デビュー以来ずっとEPICからリリースしてくれていることもうれしい。“美里ちゃん”はずっと、ずっと、“美里ちゃん”なんだ。それって、とんでもなく奇跡的なことで、胸がいっぱいになる。さて、もう一度、「さくらムード」から聴き直そうかな。(阿刀"DA"大志)