Fujii Kaze、XG、The xx、Massive Attack、Angine De Poitrine……凄まじい熱量が渦巻いた『FUJI ROCK FESTIVAL ‘26』

 2026年7月24日から26日にわたり、新潟県湯沢町の苗場スキー場にて『FUJI ROCK FESTIVAL ‘26』(以降、『フジロック』)が開催された。同期間にはAmazon Prime Videoによるライブ配信が実施され、述べ70組以上のステージの模様が生中継されていた。本稿では、その中から各日3組ずつピックアップしたライブレポートをお届けする。

Day 1:7月24日(金)

Turnstile(17時-、GREEN STAGE)

 今回の出演にあわせて行われたCLUB CITTA'での単独公演がプレミア化したように、今年の『フジロック』における目玉の一つが、今、世界で最も勢いのあるハードコアバンドであるTurnstileであったことは間違いない。観客の中には、若者どころかイヤーマフを装着したチビっ子も散見され、ジャンルの枠を超えて支持を集めるバンドの勢いが、そのまま日本にも到来したことを証明していた。

 鋭くも柔らかな歌声や、空間を覆い尽くす轟音、肉厚なリフやパワフルなリズムは、まさしくハードコアの熱量を伴いながらも、広大な会場を満たすほどの包容力に満ちていて、ライブが進むにつれて、途轍もない熱狂がスピリチュアル的とも言える高揚感へと昇華されていくのが画面越しに伝わってくる(画面越しに観ているこちらも、すっかり頭を振りすぎて汗だくだ)。ライブを終え、なかなか帰ろうとしないメンバーの姿と、数え切れないほどの観客が天高くハートマークを掲げる光景は、名前や楽曲だけではなく、その芯にあるメッセージも伝わっているのだということを、これ以上ないほどに示していた。

Snail Mail(18:00-、RED MARQUEE)

 今年3月、自身にとって3作目のアルバム『Ricochet』をリリースしたSnail Mail。同作に収録された「Tractor Beam」でこの日のライブを始めた彼女は、The Smashing Pumpkinsや初期のRadioheadを彷彿とさせるような、煌めきとヒリヒリとした質感をあわせ持ったオルタナティブロックで、夕方から夜へと移りゆくRED MARQUEEを幸福感で包んでいく。

 『フジロック』を「お気に入りのフェスティバル」と語る彼女の表情は朗らかで、本人もリラックスしながら演奏を楽しんでいることが伝わってくる(会場で猿を発見したことも、興奮まじりに話していた)。一方で、この日のセットリストの多くを占めた『Ricochet』が「死」をテーマの一つとして掲げていたように、ライブの合間には、一筋縄ではいかない楽曲と真摯に向き合い、時にはどこかもがいているような姿が垣間見える。そうした「もどかしさ」こそが、彼女の持つ等身大の魅力を示していて、この世界にずっと浸っていたくなった。

The xx(21:25-、GREEN STAGE)

 一帯を埋め尽くす大観衆。暗転したステージに浮かぶ「X」の文字に寄せられた大きな歓声には、悲鳴(もちろん嬉しい方だ)も混じっていて、いかに多くの人々が3人の帰還を待ち望んでいたのかが伝わってくる。ロミーとオリヴァーの豊かなハーモニー、一本一本の弦の震えや手触りが感じられる繊細なギターとベースの音色、ジェイミーが生み出すしなやかなビート。結成から20年を経た今も、3人のミニマリスティックへのこだわりはブレることなく、「この3人がいれば、この音だけがあれば充分」という美学が空間を覆い尽くす。

 個人的に、今年のラインナップの中でも特に期待値の高いアクトだったが、それでも「こんなにすごいバンドだったんだ……」という驚きが止まらない。休止期間中のソロ活動でもお互いの作品に客演するくらいに仲の良さを発揮していた3人だが、それぞれが自身のやりたいことを突き詰めた今、ステージに立つ一人ひとりから、どこか充足感にも似たポジティブな空気が放たれているのが伝わってくるのだ。「Loud Places」や「Enjoy Your Life」、「GMT」などのソロ曲が、バンドの演奏によってひと際力強いエネルギーを伴って披露される光景は、今のバンドがいかに良い状態なのかを鮮やかに示していて、その3人の絆とグルーヴにただただ感動してしまった。MCでは、オリヴァーが「Most magical festival」と『フジロック』を称えていたが、まさに魔法のような空間が、そこには広がっていた。

Day 2:7月25日(土)

Fujii kaze(19:00-、GREEN STAGE)

 ムーディーなオルガンの音色が響くなか、PA卓から藤井がサックスを吹きながら歩いてくる。今年のラインナップでも特に大きな注目を集めていた今回のステージだが、やはり彼はそのことを完全に自覚していて、「どう見せれば良いのか」を完璧に理解している。シックなスーツ姿のバンドメンバーも相まって、ステージに立つ人々だけを見れば、さながらジャズクラブのような光景だ。だからこそ、荒野にそびえ立つ岩場のようなセットに象徴される、自然に満ちた空間とのギャップが印象に残る。

 雄大な歌声を苗場の空に響かせた「ガーデン」を皮切りに、「まつり」、「何なんw」と代表曲を織り交ぜながら、上質なグルーヴで観客をまたたく間に魅了していく。その光景は、都会派の印象が色濃い藤井風が、そのまま自然の中で音楽の喜びを満喫しているかのようで、その違和感がなんだか心地よい。セットの一番上でピアノを弾いている藤井風の朗らかな表情は、誰よりも藤井こそがこの奇妙で、だからこそ彼らしい空間を誰よりも楽しんでいることを示していた。その堂々たる存在感はまさにヘッドライナー級で、ラストはディスコ全開な「Hachiko」で見事にフィニッシュ。存在感抜群のショルダーキーボードをこれでもかと弾きまくりながら、終盤へと向かう『フジロック』のバトンを鮮やかに繋いでみせた。

XG(19:50-、WHITE STAGE)

 ラインナップ発表時、ひと際大きな驚きをもって迎えられたXG。しかもWHITE STAGEへの大抜擢ということもあり、個人的には今回のタイムテーブルで最も「いったいどうなるんだろう」と、強い興味(と若干の不安)を抱いていたステージだった。

 結論から言えば、その不安は全くの杞憂に終わった。冒頭からベース/ドラム主体の、WHITE STAGEに狙いを定めたソリッドな音像&パフォーマンスで自身の存在感を大胆に印象付けると、盛り上がりが加速するにつれて「IYKYK」などのポップな楽曲を繰り出し、ただクールなだけではない、グループやメンバーの多面的な魅力を露わにしていくという見事な構成で会場をしっかりと掌握していく。XGらしい、どこかY2K的とも言える音像は『フジロック』のムードとも予想以上に親和性が高く、アウェイのムードを痛烈に破壊し、彼女たちらしい大団円で幕を閉じた。

Khruangbin(21:10-、GREEN STAGE)

 土曜日の夜、PCの画面に映るGREEN STAGEの映像から、観客の声や虫の鳴き声が聴こえてくる。のんびりとしたムードのなか、メンバーが登場すると緩やかに「A Calf Born in Winter」の朴訥とした音色が響く。「May Ninth」、「August 10」と演奏が続くにつれて、3人(+サポート1名)の奏でる芳醇な音の世界に、みるみるうちに引き込まれていく。「これ、現地でお酒を飲みながら聴けたら最高だよなぁ」と、同じく配信を観ていた友人にDiscordのチャットを送ると、大いに賛同された。とはいえ、ここは自宅なので、やむなく冷蔵庫からお酒を取り出し、呑気に飲み始めた。

 Khruangbinの音楽には、ハードロック的な瞬間(エモーショナルなギターソロが響く場面もある)もあれば、ダンスミュージック的な要素もあるし、「So We Won’t Forget」のようなオーセンティックなポップもあれば、アジアらしい旋律を感じることもある。そのどれもを違和感なく融和させ、「Khruangbin」としか形容できないサウンドに昇華させる。これが『フジロック』に合わないわけがない。後半になるにつれて、良質なグルーヴは苗場全体を飲み込み、画面に映る観客は誰もが多幸感に包まれているような表情を浮かべている。終盤には「Firecracker」のカバー(原曲ではなく、明らかにYMOのバージョンを彷彿とさせるアレンジ)も炸裂し、土曜日の夜を完璧に締めくくっていた。

Day 3:7月26日(日)

Us(11:30-、RED MARQUEE)

 今年で3年連続出演(しかも複数ステージ出演)という、『フジロック』きっての働き者として知られるフィンランド出身のガレージロックバンドが今年も苗場に登場。切れ味鋭いテレキャスターと、昂る感情をそのまま吐き出すかのようなブルースハープ、荒々しいロックンロールの猛獣を乗りこなすリズムが織りなすバンドサウンドはすっかり盤石の仕上がりで、最終日の朝の到来を高らかに宣言した。

 『フジロック』はもちろん、それ以上に彼らが愛してやまないのがTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTである。お馴染みの登場SE「スモーキン・ビリー」に加えて、この日は「Baby, please go home」(今年4月に配信リリース)、「CISCO~想い出のサンフランシスコ (She's gone) 」と、2曲もカバーを披露。『フジロック』の歴史を語るうえで欠かせないミッシェルの遺伝子が、国境を超えたフィンランドへと届き、やがて苗場の地で再び交わるという感慨深い光景が広がっていた。

Angine De Poitrine(19:00-、FIELD OF HEAVEN)

 今、最も音楽好きの注目を集めてやまないアーティストの初来日公演ということもあって、目玉が揃う終盤のスロットにも関わらず、画面の隅々まで観客が埋め尽くしている。その視線の先にあるのが、独特なポルカドットの模様に身を包んだロボットか異星人のような二人組なのがなんともシュールで、ライブが始まる前から笑顔になってしまう。

 とはいえ、二人が話題を集めたのは、その見た目だけが理由ではない。変拍子上等の複雑なリズムをロックの熱量で叩きまくるKlek de Poitrineと、ギター&ベースのダブルネックとルーパー・エフェクターを駆使して緻密なサウンドスケープを作り上げるKhn de Poitrineが生み出す、独特にも程があるマスロックサウンドは、プログレッシブでありながらもガレージロックのような勢いがあり、ライブ映えは抜群。奇妙な給水シーンなどで笑いを挟みつつ、積み上げられた音像が唸りを上げる瞬間の爆発力は、二人をハイプ視する連中を丸ごと蹴散らしたに違いない。

Massive Attack(21:20-、GREEN STAGE)

 今思えば、最終日のヘッドライナーにMassive Attackを選んだということ、それ自体が今年の『フジロック』のムードを最も象徴していたのだろう。それくらい凄まじい、圧巻という他ないステージだった。

 「自分らしくいること」の大事さを語る、一見すると激動する現代における正しい生き方のように感じられる女性の映像に続く、脳にチップを埋め込まれた猿が(学習を通して与えられた)思考のみでゲームをプレイする実験の様子。繊細で、重厚な楽器の音色や、どこか神秘的のようにも感じられる歌声、空間を射抜く鮮烈なビートが織りなす壮絶な音像を浴びていると、目の前のスクリーンには、攻撃を受けるイランやガザの光景や、Palantir社を中心とした監視社会を再現した映像(観客トラッキングVJも炸裂)、増え続ける軍事費が映し出され、音で研ぎ澄まされた感覚に、容赦なく思考の、あるいはアイデンティティの揺さぶりを与えていく。

 「抵抗運動としてのK-POP」を象徴するソテジワアイドゥル「時代遺憾」のカバーも織り交ぜながら、肉体や思考、自分らしさといった、揺らがない存在だと思い込んでいるものがいかに脆く、他者に容易に操作されてしまうものなのかが、映像を通して次々と暴かれていく。重要なのは、そうしたVJと演奏が見事に呼応しているということだろう。これ以上ないほど思考が揺さぶられ、映像に映る事象にどこか気まずさを抱えて困惑しているはずなのに、ライブの熱量は高まり続け、その音は空間を完全に掌握し、感情とは裏腹に凄まじい高揚感が身体を覆っている。終わる頃には、ただただPCの前で呆然としている自分自身だけが、その場に残されていた。

 今、これを書いていて強調するべきは、決してMassive Attackだけがこのようなメッセージを発信していたわけではないということだろう。ステージに「Stop the genocide in GAZA. Free Palestine.」と書かれたボードを置いていたASIAN KUNG-FU GENERATIONや、日本語による「戦争反対」のチャントを響かせたKNEECAPのように、私たちの世界を覆う脅威に抵抗しようとする動きは、他の配信からでも確かに感じ取ることができた(自分が見ていないだけで、きっと他にもあったはずだ)。そうしたメッセージが日本から世界へと放たれたこともまた、今回の配信における大きな意義だったに違いない(Pitchforkなどの海外の音楽メディアでも配信が紹介されていた。きっと少なくない海外の人々も観ていたはずだ)。

 色々書いてきたが、全てが終わった今、素直に感じているのは「来年は現地に行こう!」ということである。来年こそは、こうして感じた一つ一つの瞬間を、リアルで他の人たちと一緒に分かち合いたいものだ。

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