Number_i「BUGS LIFE」徹底レビュー “バグ”が象徴するものとは何か 価値観の反転が象徴する3人らしさ
もし今、何かの拍子で本稿にたどり着いたのなら、それもひとつの“バグ”なのかもしれない。7月13日に配信リリースされたNumber_iの「BUGS LIFE」は、コンピューターやソフトウェアの不具合を意味する“bug”(バグ)という言葉から着想を得た作品だ。神宮寺勇太がプロデュースを手掛け、デジタル音像をキーに「デジタルというものは何か」を紐解くところから制作がスタートしたという。
もともと英語の“bug”は“虫”を意味する単語で、初期のコンピューターに蛾が混入したことで故障してしまったというエピソードから、システムにおける欠陥を“バグ”と呼ぶようになったと言われている。現代では「金銭感覚がバグっている」のように、本来の状態から大きく逸脱した様子を表す日常語としても浸透してきた。
このように“バグ”という言葉は、一般的にはネガティブな意味合いで使用されることが多い。しかし、「BUGS LIFE」が面白いのは、その価値観を反転させているところだろう。楽曲のリリース前後に行ったInstagram Liveで、神宮寺は“バグ”を“奇跡”のような意味に捉え、自分たちの存在や、この広い世界で自分たちとiLYs(ファンの呼称)が出会えたこともバグなのではないかという趣旨のコメントをしていた。つまり、この曲での“バグ”とは不具合ではなく、簡単には起こり得ない出来事を意味しているのである。その視点を持って楽曲を聴くと、「BUGS LIFE」は単なるデジタルをテーマにしたダンスチューンではなく、“運命”や“出会い”を描いた作品なのだと解釈できる。
本曲の作詞はPecori(ODD Foot Works)、作編曲はメンバーとMONJOE(DATS)、SHUN(FIVE NEW OLD)による共作で、これまでにもNumber_iの多くの楽曲を手掛けてきた布陣だ。楽曲のベースとなっているサウンドはフォンクで、歪んだベースや重低音の効いたキック、強烈な電子サウンドが曲全体を貫き、どこか無機質で危うい空気を生み出している。“デジタル”というテーマをサウンドそのもので表現している一曲と言えるだろう。
不穏な空気をまとったイントロは何か異変が起こる前触れのようで、シンセサイザーが盛り上がっていくにつれて徐々に緊張感が高まっていく。だが、その先に待っているのは〈今年も真摯に感謝を忘れずに〉というあまりにも誠実な言葉だ。そんな意外性のある幕開けも、この曲の面白いところだろう。
〈My Life全てがバグった〉からの最初のコーラスを歌うのは平野紫耀。歪んだ電子音が飛び交うなかでも、彼の芯のある低音は存在感を放つ。〈走り続けて気づいたらまたスタートフラッグ前バグ〉以降はビートが変わるが、この変化球とも言えるパートを岸優太が担う。これまでのNumber_iの楽曲でもアクセントとなるフレーズを歌うことが多かった岸は、今回も独特のフロウで曲に新たなグルーヴを生み出している。そのパンチのある流れを神宮寺が受け継ぎ、さらに〈BugだBugBugBug〉からのプリコーラスを平野、神宮寺、岸の順で繰り返す構成は、ひとつのバグが次々と連鎖していくようでもある。曲が進むにつれてサウンドは厚みを増し、音の渦に飲み込まれていくような感覚が押し寄せる。
リリースと同日に公開されたMVも、「BUGS LIFE」の世界観をさらに拡張する作品となっている。事前に公開されたティザー映像にはアスキーアートが用いられており、神宮寺が“昨日見た変な夢”を平野と岸に語る内容だった。MVはその夢の続きを描くようなストーリーで、“bug”の本来の意味である“虫”、とりわけ“蛾”が重要なモチーフとして登場する。これはNumber_iの過去のMVでも同様だが、随所にオマージュや小ネタが散りばめられ、混沌としていて一度観ただけでは拾い切れないほど情報量が多い。前述のInstagram Liveでの神宮寺の発言によれば、最後のサビ部分でのダンスシーンは「BUGS LIFE」ではなくまったく別の曲で踊っているという。ダンスパフォーマンスの全貌は7月13日に放送された『CDTV ライブ! ライブ!』(TBS系)で明らかになったが、振り付けもまた、3人の動きをあえてズラすような遊び心が感じられるものだった。そんな“違和感”を忍ばせることも、今作のひとつのテーマになっている。
前作の「3XL」ではポップで幸福感あふれるサウンドとともに、ファンソングとも受け取れるあたたかなメッセージを届けていたNumber_i。2作でバランスを取るかのように、「BUGS LIFE」はアグレッシブで攻めたナンバーだ。だが、根底にあるメッセージは決して対極のものではない。広い世界で3人が出会い、そしてiLYsとも巡り会えたという奇跡のような事実。その想いを形にしている点では、「3XL」とも繋がっているようにも思う。だからこそ、「BUGS LIFE」の冒頭には〈今年も真摯に感謝を忘れずに〉というフレーズが置かれているのだろう。
不具合や欠陥の意味を持つ“バグ”という言葉を、奇跡や運命の象徴へと塗り替える。それは、常識や既成概念にとらわれず、自分たちらしさを突き詰めてきたNumber_iらしい表現でもあるように思う。「BUGS LIFE」という一曲がこうして私たちのもとへ舞い降りたこともまた、何かの“バグ”なのかもしれない。そんな奇跡に思いを巡らせながら、この曲を大切に聴いていきたい。