akikoが謳歌する音楽家としての自由 デビュー25周年、“ジャズシンガー”の葛藤を経て手にした幸福

 ジャズシンガーのakikoが、デビュー25周年を記念したアルバム『Revisited!』をリリースした。2025年から1年間にわたって毎月配信してきたセルフカバー・シングルに新録音源を加えた本作は、これまでに発表してきたオリジナル曲を、現在の感覚で“再訪”する作品である。

 ロックステディ、スカ、ラヴァーズロック、サンバ、インディーポップ、テクノ、ヒップホップなど、アレンジの方向性は実に多彩。しかしそこには、単なるジャンル横断にとどまらない、akikoが25年をかけて培ってきた音楽の聴き方、そして時代と向き合いながら作品を届けてきた姿勢が色濃く反映されている。(黒田隆憲)

デビュー25周年、セルフカバー連続リリースに至った背景

ーー今回は25周年を記念して、過去のオリジナル曲をセルフカバーするアルバム『Revisited!』がリリースされました。このような形になった経緯から聞かせてください。

akiko:これまでの私はどちらかというと、アルバムを1枚しっかり作って、フィジカルで出すという感覚が強かったんですよね。一度世に出たものは戻せないからこそ、ひとつの作品を仕上げて送り出すことに対する責任感や熱量がすごく大きかった。なので、デジタル配信やストリーミングが出てきた頃は、手間暇をかけずに気軽に音楽を聴いてもらえることに対して、正直なところ抵抗もありました。

 でも、音楽業界全体が変わっていく中で、さらにコロナ禍が始まり、人と直接会うことや物に触れることさえ難しくなった時期がありました。そのときに、デジタルで作品を届けることに対する意識が、自分の中で変わったんです。デビュー20周年のときに、毎月デジタルシングルをリリースするということをやってみて、「今の私はこういうモードです」というふうに、もう少し気軽に作品を出してもいいのかもしれないと思うようになったんですよね。

ーーなるほど。

akiko:海外のリスナーからは、「CDやレコードはどこで買えますか?」と問い合わせをもらうこともあるんですけど、そういう人たちにもデジタルならもっと気軽に届けられるじゃないですか。そういう意味でも、この時代にアジャストしていかないといけないなと思ったんです。

 それで25周年となる今回は、1年間かけて自分のオリジナル曲を毎月セルフカバーしていく形にしました。ただ、シングルで出していくと、1カ月単位でどんどん流れていってしまう。なので、アルバムという形でコンパイルして、改めてちゃんと聴いてもらおうと思ったのが、今作の制作に至る経緯です。

ーーアルバム前半は、ロックステディやスカ、ラヴァーズロック、サンバなど、南国的なアレンジに再構築されている曲が多い印象です。

akiko:ジャマイカのルーツミュージックは、実はジャズを歌い始める前から、パンクやニューウェーブと並列して自分の中にあった音楽なんです。でも、アーティストとしてそのスタイルで音楽をやることは、今までなかなかありませんでした。

 それに、今回のシングル連続配信シリーズは6月から始まったので、ちょうど暑くなっていく季節だったんですよね。夏に向かって高揚していく気持ちを、ラヴァーズロックやスカ、サンバのようなアレンジに投影させたところはあった気がします。そこから冬に向かうにつれて、少しずつ内省的になっていく。そういう季節感を織り交ぜながら作っていったシングルが、アルバムの軸になっているのは大きいと思います。

ーーしかも、曲ごとにさまざまなミュージシャン、アレンジャーが参加していて、まるでミックステープを聴いているような楽しさがあります。

akiko:私は自分自身を“ジャズの人間”というふうにはあまり思っていないんです。そもそもミュージシャンやシンガーになりたいという前提で音楽を聴いていたわけではなく、10代の頃は本当にただのミュージックラバーでした。クラブへ足繁く通って、DJがかける曲を聴いて「いいな」と思ったものを、自分で掘って聴いていたんです。そこが自分のベーシックにあるので、音楽の聴き方が少しDJ的なんだと思います。

ーー今回、「I Miss You」はラヴァーズロック的な「Lovers Version」と、オリジナルに近い「Anniversary Edition」の2種類が収録されています。

akiko:「I Miss You」は、ラヴァーズでやったら絶対に合うと思っていたので、ずっとやりたいと思っていました。この曲は昔、犬の散歩をしながら5分くらいで作った曲なんです(笑)。私は曲を作るときに、「こういうテーマで作ろう」とコンセプトをすごく考えて作る曲と、自然にすっとできてしまう曲があって。今回でいうと、この曲や「What’s Jazz?」、「The Reason of My Tears」は自然にできた曲です。

 それでも「I Miss You」は、たくさんの人がそれぞれの人生の中で響かせてくださっている。「この曲が一番好き」と言ってくれる子も多いし、日本でも海外でも、この曲を聴きながら泣いている女の子をたくさん見てきました。自分では、まさかそこまで愛される曲になるとは当時思っていなかったからこそ、自分が作ったものではあるけれど、もう自分だけのものではないという感覚があるんですよね。なので、アルバム最後に収録した「Anniversary Edition」は、そうやって大切に聴いてくれている子たちの顔を思い浮かべながら、もう一度新たに歌ってみようと思いました。

ーー「A Little Bruise」は、ブラジルでレコーディングが行われたアルバム『Vida』収録曲で、アート・リンゼイが作詞とデュエットで参加しています。今回あらためてこの曲を再構築するにあたって、オリジナルとの違いはどのように意識されましたか。

akiko:当時、私たちはリオに滞在していて、アートもそこに来る予定だったのですが、体調を崩して来られなくなってしまったんです。それで急遽、モレーノ・ヴェローゾたちとオケだけリオで録って、私だけがアートのいるサルヴァドールまで行くことになりました。私はアートの大ファンだったので、一緒に歌えることも、曲を一緒に作ってもらえることもすごくうれしかったのですが、体調的にあまりたくさん歌わせてはいけないのかな、という心配も同時にありました。

 しかも、憧れの人と初めて一緒に仕事をするわけじゃないですか。だから「もっとこういうふうにやってみよう」みたいにグイグイ行ける感じでもなくて(笑)、その場で軽くセッションしたような感覚で作ったのがオリジナルバージョンだったんですよね。それはそれで素敵な仕上がりになったし気に入っているのですが、今回は、私とGIRA MUNDOのほぼ2人だけで、じっくり作ってみようと思いました。オリジナルのサンバの感じを大きく変えるアレンジはあまり想像できなかったので、少しローファイ気味にするくらいの味付けにしています。

ーー「All Of My World」と「The Only Words」は、ブッゲ・ヴェッセルトフトとほぼ2人だけで制作したアルバム『WORDS』に収録されています。今回、GIRA MUNDOさんと再構築したセルフカバーは、ミニマルで内省的なオリジナルとはまた違った印象ですね。

akiko:たとえば「All Of My World」という曲は、やりようによっては普通にアメリカのソウルっぽいポップスになりがちな曲なんです。私の作る曲は、結構ベタなものも多いので(笑)。ブッゲとレコーディングしていたときも、何か楽器を入れるとアメリカンミュージックっぽくなってしまうよね、と話していて。それは避けたいという思いがありました。

 だから本当に極力少ない音色ーーピアノとムーグと歌だけ、みたいな編成で作っていったんです。今回は、その北欧ジャズ的な世界観をいったん外してみようと考えたのですが、特にどう再構築するかかなり悩みました。最初はギターと2人だけでやるような形も考えたんですけど、なかなかしっくりこなくて。最終的には、少しインディーポップ的な感覚でアレンジしてみました。

ーーインディーポップですか。

akiko:もともとインディーポップのような音楽は、私の中にあまりなかったんです。でも、2023年に「Ciao」という曲でコラボレーションしたインドネシアのMatter Haloというバンドや、フィリピンのhanbeeのような、少しドリーミーでリバーブ感のある音楽を聴くようになって。「こういう音楽、結構好きなんだな」と思ったんですよね。ずっと流れていても心地いいし、生活のBGMになるというか。

 自分でそういうテイストの曲を作ろうと思ったことは今までなかったんですけど、「All Of My World」で試してみたら面白いかもしれないなと。それで完成したのが、今回のバージョンです。「The Only Words」は逆に北欧アンビエントをさらに極めるというか、アイスランドのmúmのようなサウンドをイメージしてアレンジしました。

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