K-POPの制作現場からボカロPへの転身まで 韓国出身の音楽プロデューサー・TAK、音楽的ルーツに迫る

 韓国出身の音楽プロデューサー・TAK(タク)。Stray Kidsの「Side Effects」やクォン・ウンビの「Glitch」といった近年のK-POPシーンで異彩を放つ楽曲を手がけながら、2024年にはボカロPとしてデビュー。初音ミクと重音テトを起用した「PPPP」(2026年6月現在5000万再生超)は界隈を越えて知れ渡り、ほかにも「LEMON MELON COOKIE」や「トッケビの花 feat. TENKO SHIBUKI」など多くのバイラルヒットを生み出している。

 バイレファンキ、UKガラージ、ジャージークラブといったダンスミュージックのジャンルを縦横無尽に取り込む独自のスタイルは、K-POPリスナーとボカロファンの双方から高い支持を集めている。最新作は2026年5月20日リリースの「numb numb」。初音ミクと重音テトのコンビによるジャージークラブトラックで、9月・12月・翌年2月に続く3部作プロジェクトの序章にあたる。今回は、音ゲー少年がソウル芸術大学の電子音楽専攻へと進んだ経緯から、K-POP制作の現場、そしてボカロPへの転身まで、その音楽的なルーツをたっぷり聞いた。(Yuki Kawasaki)

クォン・ウンビ「Glitch」、日本の同人音楽レーベル『MEGAREX』からの影響

――リズムゲームが音楽の出発点だったとのことですね。プロデューサーとして生きていこうと決めたのはいつ頃でしたか?

TAK:学生時代からリズムゲームが本当に好きで、それがきっかけで曲を作り始めました。自然に「作曲家になりたい」という夢ができたのですが、両親から「音楽の道に進むなら必ず大学を卒業しなさい」と言われて。韓国の音楽系の大学を調べると、クラシックとジャズの2種類が多いのですが、ソウル芸術大学に電子音楽専攻があることを知りました。「音ゲーに近いかもしれない」と思って受験を決めたのですが、実際はゲーム音楽とは全く違う、本格的なエレクトロニックミュージックの専攻でした(笑)。でも勉強しているうちにどんどんハマって、気づいたら電子音楽が人生の一部になっていました。僕のときはグリッチの要素をたくさん使った楽曲制作が入学試験として出題されましたね。

――グリッチというのはAphex TwinとかWarp Recordsがやっていたようなものですか?

TAK:そうですね。アメリカ人ミュージシャンのBT(ブライアン・トランソー)のグリッチサウンドを参考にした、かなり前衛的なスタイルでした。グリッチ的なアプローチは、今でこそプラグインひとつで再現できますが、当時はひとつずつ手作業でやらなければならなかったので、大変でしたね……。そういった経験があるからこそ、テクニックを体系的に身につけることができたと思っています。ちなみにこのときの入試は1年に合格者が3人だけという狭き門で、最初の挑戦では4番になって不合格でした(笑)。翌年に改めて挑戦して、ようやく合格することができました。

――3人とは本当に狭き門ですね! その後TAKさんは2015年のソ・テジの「Christmalo.win」リミックスでコンテストを制していますが、この時期の韓国ではEDM×K-POPの融合がピークを迎えていました。当時のトレンドをどう見ていて、ご自身はその中でどう立ち位置を取ろうとしていましたか?

TAK:僕が在学中の頃からZeddやSkrillexが話題になっていて、SMエンターテインメントがその文化をいち早くK-POPに取り込みました。SHINeeの「View」がハウスミュージックをベースにしながらタイトル曲になったときは本当に驚きました。あんな実験的な曲がアイドルのタイトルになって、しかもバズった。エレクトロニックミュージックがK-POPとして広く受け入れられるんだと、自分にとっても大きな発見でした。その後、f(x)の「4 Walls」という素晴らしいハウス曲も生まれましたよね。

f(x) 에프엑스 '4 Walls' MV

 当時の僕は、Porter RobinsonやZedd、Skrillexなど多くのアーティストから影響を受けながら、ただ「好きな音楽を作ればいい」という気持ちで制作していました。「どんな音楽を目指そう」と考えるよりも、自分が好きなことをやる。その気持ちを正直に出せたときが、いまも一番いい仕事をできている気がします。

――「Christmalo.win」リミックスもそうですが、当時のEDMの文脈を踏襲しつつ、楽曲にDaft Punk的なグルーヴを感じることがあります。そのルーツはどこにありますか? 最近でも「逆さ月 (Reverse Moon) feat. asmi」でその雰囲気を感じました。

TAK:先ほどあげたアーティストに比べると少し方向性が異なるのですが、オリバーというミュージシャンに大きく影響を受けました。今ではSplice(サンプルパックを提供するサブスクリプションサービス)のクリエイターとして知られているアーティストで、Daft Punkに似たスタイルを持っており、ベースの音やリズムの構造など、彼から多くを学びました。

 ただ、個人的にはもっと彼に表に出てきてほしいんですよね。あれだけの才能があるので、さらに広くその才能がフォーカスされてもいいんじゃないかなと。そういう思いもあって、自分はプロデューサーとして顔を出して活動したい、という気持ちが強くなったのかもしれません。

[MV] TAK - ‘逆さ月 (Reverse Moon)’ feat. asmi

――ハウスに限らず、TAKさんの楽曲は様々なジャンルの組み合わせが特徴のひとつかと思います。たとえばStray Kidsの「Side Effects」(2019年)はどのようにして生まれたのですか? 2ステップのリズムからサイトランス的なドロップへの展開が印象的で。

TAK:まずStray Kidsというグループの特徴を説明する必要があるのですが、彼らには3RACHAというユニットがいて、3人全員が自分で曲を作ることができます。だから本来は彼らだけでラップを書ければ、トップライン(メロディライン)を乗せることもできるわけです。

 そういった事情もあって、僕もEDMの色が強いアーティストとして矜持を持って制作に臨んだんです。「スキズ(Stray Kidsの略称)ならこのスタイルも面白いんじゃないか」と気軽に、サイトランスなど様々な要素を詰め込んだトラックを送ったのですが、それがタイトル曲に採用されると聞いて本当に驚きました。こんなに複雑な構成の曲がK-POPのタイトル曲になるんだ、と。改めてStray Kidsはすごいグループだと思いましたね。

Stray Kids "부작용(Side Effects)" M/V

――その後2022年にリリースされたクォン・ウンビの「Glitch」も非常に印象的でした。UKガラージと彼女のボーカルの組み合わせはどのように生まれたのですか?

TAK:実は「Glitch」は、日本の同人音楽レーベル・『MEGAREX(メガレックス)』に影響を受けて作った曲なんです。『SPD GAR』というコンピレーションアルバムが本当に好きで、「このスタイルをK-POPで試したらどうなるだろう」と思って作りました。

 クォン・ウンビさんは元々IZ*ONEというアイドルグループで活動した後にソロデビューしたアーティストで、かっこいいスタイルに積極的に挑戦する方です。だからこそ挑戦的なトラックを自ら選んでくださった。それでも正直、僕自身がアーティストでもタイトル曲に選ぶには勇気がいる曲だと思っていたので(笑)、本当に驚きました。でもクォン・ウンビさんのパフォーマンスや歌と合わさって、本当に素晴らしい曲になりました。

 先日、ボカロ関係のイベントで会ったミュージシャンやファンの方々が口を揃えて「『Glitch』が好き」と言ってくれていて。日本の人たちにも届いているんだなと嬉しかったですね。

권은비(KWON EUN BI) 'Glitch' MV

なぜボカロPへ転身した?

――多くのファンが気になっている部分だと思うのですが、それだけの経歴をK-POPの第一線で積み上げながら、なぜボカロPへ転身したのですか?

TAK:K-POPの制作は「他のアーティストを輝かせる仕事」なんです。もちろんそれは嬉しいし、やりがいもある。でも自分自身がアーティストとして表に出たい、という気持ちがずっとありました。かといって歌手ではないので、どんな形で活動すればいいかを突き詰めていたところ、ボカロPという道に辿り着きました。

 ボカロPは、初音ミクのファンだけでなく、プロデューサー自身のファンがたくさんいる。そのカルチャーがとても好きで。それに、コロナ禍以降もボカロファンが世界中で増えて、ツミキさんのようなプロデューサーが次々にブレイクし、原口沙輔さんのように有名になられてからボカロPとしてデビューするケースもあります。「最近最もバズっている音楽はボカロだ」という空気を感じて、2024年に「mochimochi」を初音ミクに歌ってもらいました。

 元々日本のポップカルチャーは好きで、自分でも詳しいつもりでいたのですが、ボカロカルチャーに入って気付くことも多くて。タイトルの付け方もK-POPとはまったく違う文法がありますよね。「Side Effects」や「Glitch」はそれそのものを表す単語ですが、「PPPP」とか「MTMTM」はすごく暗号的というか。そういった最新のボカロカルチャーの文法を一生懸命勉強しました。

[MV] TAK - ‘mochimochi‘ feat. 初音ミク

――Aiobahnさんとの共作「DIVA」はオールドスクールなボカロカルチャーを感じました。MVもどこか「Tell Your World」を思わせます。

TAK:確かにAiobahnさんに“あの頃のボーカロイド”を再現しようという考えはあったみたいなんですね。僕はMVの制作には関わっていないですけど、実際に「Tell Your World」時代の初音ミクを表現したいという思いがあって、その感覚が曲全体に反映されています。僕自身も2012年頃からボカロが好きで、Google ChromeのCMで「Tell Your World」(livetune feat. 初音ミク)が流れたときの感動は今でも覚えています。あの初音ミクのイメージを「DIVA」で追体験できたような気がして、自分でも本当に好きな曲になりました。ボカロが世界中に波及した今、僕たちがこの楽曲で表現できることもあるのかなと。

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