竹原ピストル、50歳目前に放つ産声 『FIRST CRY!!』に見る創作の真髄、先輩ミュージシャンに託されたお守り

 シンガーソングライターの竹原ピストルが、前作からおよそ1年ぶりとなるオリジナルアルバム『FIRST CRY!!』をリリースした。

 “産声”を意味するタイトルに込めたのは、「ここからもう一度生まれ直す」という再出発にも似た思い。ルートインBCリーグ創設20周年イメージソング「ばっちこ~い!!」や、映画『港のひかり』のインスパイアソング「千切り絵のように私は」など先行シングルをはじめ、昆虫観察や釣りなど日常から生まれた楽曲、竹原の真骨頂とも言える言葉遊びがふんだんに散りばめられた「真夜中に」や「あたりまえの歌」など、等身大の歌と言葉が刻まれている。

 「これが1stアルバムでいいんじゃないか?」と思うほどの手応えを、本作で得たという竹原。長年制作をともにする佐藤洋介との制作過程、影響を受けたアーティスト、そして7月から始まる全国ツアーへの意気込みまで、じっくりと語ってもらった。(黒田隆憲)

50歳の節目に放つ産声、イメージ通りの自分へと至る道

ーー今回は50歳を迎える節目のアルバムということですが、制作する上で年齢への意識はありましたか?

竹原ピストル(以下、竹原):たかが年齢ではあるんですけど、個人的には「50か……」とちょっと感慨深かったですね。区切りもいいですし、節目のアルバムだなという意識はやはりありました。タイトルを『FIRST CRY!!』にしたのも、ここからまたもう一回生まれ直すというか、そういう意味を込めています。

 実は、このタイトルはレコーディング作業がもろもろ終わってからつけたものなんですけど、「我ながらいいアルバムができたな」という手応えがあったんですよ。「もう、これが1枚目ぐらいの気持ちでいいんじゃないか?」と思えるくらいの作品になったので(笑)、タイトルも「FIRSTなんとか」がいいなと。そういう、ふたつの理由がありました。

ーー「いいアルバムができた」という手応えは、たとえばどんなところで感じましたか?

竹原:自分の作品にこう言うのも変ですけど、伸び伸びしているなと思いました。何に縛られることもなく、本当に書きたいものだけを書いてきて、それがアルバムにぴったりの曲数たまったから出そう、という。すべてが自然に流れているような、不自然さがない作品になったと思います。

 レコーディングもすごく楽しかったんですよ。ゲラゲラ笑いながらやる時もあれば、真剣にやる時もあって。実際、歌声も楽に、リラックスして歌えている感じがあります。「この歌はこう歌いたい」というイメージ通りに歌えている。そういう意味でも、すごく好きなアルバムになりました。もちろん、今までの作品にもそれなりの手応えは感じてきましたけど、今回はすごくしっくりきているというか。無理に力んでいないし、でもちゃんと届くものになっている気がします。

ーーちなみに50歳という年齢は、若い頃に想像していたものとは違いましたか?

竹原:どうだろう……。でも多分、30代、40代の頃からずっと「チャンピオンになるんだ」「天下取るんだ」「売れてやる!」みたいなことを、その都度言ってきたと思うんですよ(笑)。そういう意味では、「ほらね、こうなっちゃったでしょ」みたいな。イメージしていた自分にはなっている気がします。

 ただ、30代、40代の頃と変わったなと思うのは、ちょっぴり“終わり”を意識するようになったこと。あとどれぐらいまで、おめでたく、揺るぎなく、「今の俺が一番絶好調だ、ピークだ」と思いながら活動できるんだろう、みたいなことを、しんみり考えることはあります。

ーー年齢を重ねると、周囲の人が亡くなっていくことも増えていきますし。

竹原:そうなんですよね。近しい人だったり、「あの人が?」という方がお亡くなりになったりすると、少しずつ自分も準備していくというか。「いつかはわからないけど、自分にもそういう日がくるんだな」と思いますし。そういう悲しみというか、喪失感のようなものを噛みしめる機会は、最近やはり増えましたね。

ーー前作『すうぉ~む!!』もバンドサウンドを中心にした作品でしたが、制作の段取りとしては、その延長線上にあるのでしょうか。

竹原:作る段取りはまったく同じです。新曲ができたら、まず佐藤洋介さんのところへ行ってデモを作る。そこで「ギターはこんな感じで入れてほしい」「ベースはこんな感じで入れてほしい」とリクエストを伝え、ある程度かたちになったものをディレクターに送り、ブラッシュアップしてもらいながら完成させていく。ここ何枚かは、ずっと同じ作り方です。

ーー佐藤さんとは本当に長い付き合いになりますよね。関係性は、最初の頃とは変わってきていますか?

竹原:基本的には変わらないと思います。ただ、自分の意見を反映してもらう度合いは、年々強くなってきたかもしれません。僕はエレキギターを上手く弾けないので、鼻歌でフレーズを伝えて、それを反映してもらったりするんですけど、自分のアイデアを細かくお願いすることが増えた気がします。きっとそれは、佐藤さんと一緒にデモ作りをやらせてもらう中で、佐藤さんの作業を見て覚えてきたことだと思いますね。そこで吸収したものを、自分なりに「こんな感じで弾いてください」と言えるようになったのだろうなと。

ーーサウンド面で、今作のリファレンスになった音楽はありますか?

竹原:このアルバムに限らず、よく話に出てくるのはSex Pistolsですね。あとはFugaziやDinosaur Jr.。元気がない時にDinosaur Jr.を聴くと、気持ちが楽になるんですよ。英語はわからないので何を歌っているかはわからないんですけど、「まあ、いいか」みたいな。心にそよ風が吹くような気持ちになれる。

竹原ピストル『FIRST CRY!!』Trailer

ーー1曲目の「ばっちこ~い!!」は、ルートインBCリーグ創設20周年イメージソングとして書き下ろされた曲です。

竹原:野球のリーグの歌なので、超シンプルな野球用語をサビに持ってこよう、と。「ばっちこい」ってどういう意味なのか、何を「ばっちこい」と言っているのかを考えた時に、挫折や悔しさ、そういうものを全部受け止める言葉として歌にすると、まとまりがいいかなと思ったんです。聴き馴染みのある「ばっちこい」でも、まだ書きようがあるんですね(笑)。

ーー単なる野球ソングではなく、人生の歌にも聴こえます。

竹原:創設20周年ということで、支えてきてくれた人への感謝の気持ちを盛り込んでほしいというリクエストもあったんです。その思いはCメロの歌詞に込めました。「感謝」ということで言えば、結局、歌うたいも同じなんですよね。「取り急ぎ、今までありがとう。これからもよろしく」みたいな気持ちがある。野球をやっている人だけでなく、いろいろな立場の人に聴いてもらえる曲に仕上がったと思います。

ーー「千切り絵のように私は」は、映画『港のひかり』のインスパイアソングですね。

竹原:『港のひかり』というタイトルですし、脚本を読ませてもらったところ、まず海の香りがする風景描写がいいかなという気持ちがありました。それから、舘ひろしさん演じる主人公と、彼が出会う少年の物語でもあるので、その少年を支える“寄り添う存在”のようなものも意識しています。

ーー曲の中では、誰かの記憶の断片になることへの願いのようなものも感じました。

竹原:ああ、確かに。……変な喩えですけど、人は死ぬ時に走馬灯を見るって言うじゃないですか。であれば、誰かが亡くなる直前、その走馬灯に一コマぐらい俺が出てきたらいいなって(笑)。記憶の断片かもしれないし、思い出の断片かもしれない。ほんの些細な関わりだったかもしれないけれど、あなたの記憶を彩れますように、という主人公の歌という感じです。

竹原ピストル - 「千切り絵のように私は」

ーー「オオセンチコガネ」は、糞虫であるオオセンチコガネをモチーフに、美しさや誇り高さを描いたパンクソングですね。

竹原:オオセンチコガネは、奈良公園にわざわざ探しに行くぐらい、昆虫の中でも一番好きなんです。糞虫としてクソまみれの生涯を送るんだけど、めちゃくちゃ綺麗なんですよ。そこに、勝手にですけど、ある種のパンクロックみたいなものを感じてしまって。「こんな状況だけど、俺が一番輝いている」みたいな。そういう誇り高さを勝手に糞虫に後付けして、主人公にした感じですね。

ーー昆虫観察もお好きなんですよね?

竹原:『香川照之の昆虫すごいぜ!』(NHK Eテレ)がめちゃくちゃ好きでよく観ていたのと、暮らしている街に山道があって、そこを散歩すると虫がゴロゴロ出てくるんです。それで面白いなと思うようになりました。

 昆虫って、うじうじ悩んだり迷ったりせず、ただ生まれ、ただ生きて、ただ増やし、ただ死んでいくわけじゃないですか。その“ただ”というニュアンスは、たとえば他の哺乳類からはあまり感じない。少なくとも「自分には無理だな」って思うんです。天敵にやられたのか、足がなかったり羽がボロボロになっていたりしても、スンとしている。そこがたまらないんです。

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