奇妙礼太郎、ニュートラルに紡いだ『1976』に宿る歌うたいの妙味 50年を生きた今の“自分っぽさ”が詰まった作品を語る
奇妙礼太郎がソロ通算6作目となるアルバム『1976』を完成させた。このアルバムタイトルは今年50歳を迎える彼の生まれ年。そんな数字を掲げたアルバムとともに、彼は今年7月、キャリア初となる日本武道館での単独公演に臨む。ホーンやストリングスを加えた11人編成にゲストも交えてのライブは、きっと奇妙礼太郎という、今に至るまで唯一無二であり続けている歌うたいの凄みを再確認するようなものになるはずだ。
その「歌うたいとしての凄み」は、アルバムにもパンパンに詰め込まれている。彼にとって初のドラマタイアップとなったTBSドラマストリーム『終のひと』主題歌「愛がすべてのこと」をはじめとする新曲たちに加え、ずっとライブで歌い続けている代表曲「オー・シャンゼリゼ」や「愛の讃歌」、さらにサザンオールスターズ「いとしのエリー」のカバー、そしてソロファーストアルバム『YOU ARE SEXY』に収録されライブでの定番曲となっている「わたしの歌」のセルフカバーと、全方位で奇妙礼太郎を伝える全12曲。近年どんどん肩の力が抜け、息をするように楽曲を作って歌うようになってきた彼の今を、このアルバムで味わってほしい。(小川智宏)
どんな曲でも“奇妙礼太郎の歌”になる、その不思議な妙味
ーー奇妙さんにとって、今年は50歳の節目となりますが、ご自身ではそういう年齢的なところって意識しますか?
奇妙礼太郎(以下、奇妙):どうなんですかね。なんか、自分が子どものときに思ってた50歳と全然違うなっていうのはありますね。なんというか……昔想像していた50歳はみんな革靴履いてたなと思うんです。でも、50歳になるのにコンバース履いてるし、20代のときと同じ服着てるし、同じもの食べてんなと思って。特に変わらないですし、体力落ちるとかそういう話もあるじゃないですか。まあ、異様な元気みたいなのはないかもしれないですけど、過不足を感じるかって言われたらそんなこともないっていうか。「まあいいんじゃないですか」って感じ(笑)。
ーーでもそういう年に『1976』という、ご自身の生まれ年をタイトルにしたアルバムを作って初の武道館ワンマンをやるというのは、多少なりとも節目感があるということなんですか?
奇妙:タイトルって、いつも何つけていいかわからないんですけど、今回もわからなかったんですよね。でも『50』っていうタイトルはさすがにあれやなと思って(笑)。「自分で言うもんじゃないよ」っていうか、「俺、今日誕生日なんやけど」って言ってるみたいで、「いや、知りませんけど」ってなるじゃないですか。だからなんとなく、これでいいんじゃないかっていう感じで。あと、『1976』って、数字として単に好きなんですよね。
ーー今作はセルフカバーもあれば、「オー・シャンゼリゼ」とか「愛の讃歌」みたいに、それこそ20年以上歌ってきているような曲を改めて録るということもしています。ソロでメジャーデビューしてからはオリジナル曲中心で作品を作ってきていましたけど、このタイミングで改めてカバーを入れようってなったのはどうしてなんですか?
奇妙:どうしようかなって言ってたんですけど、いつもライブでよくやってる曲がアルバムに入ってたらみんな嬉しいんじゃないかという話に、事務所の人と喋ってる時になって、「じゃあ入れましょうか」っていう、そんぐらいの感じだったかな。
ーーそれにしても、当時「オー・シャンゼリゼ」がCMに使われて、奇妙礼太郎の代表曲みたいになって今に至っているというのも、考えてみるとすごく不思議なことでもありますよね。
奇妙:そうですね。ライブでこの曲をやってる時、みんなの楽しそうな顔が見えるなあと思うし、この曲をやってることで出会えた人とか好きになってくれた人がたくさんいると思うので。お世話になってますっていう感じですね。だから、師匠? 落語の名作みたいな感じ。
ーー古典ですからね。古典落語も、噺家によって全然変わるわけじゃないですか。その妙味が奇妙さんの「オー・シャンゼリゼ」にもありますよね。
奇妙:狙ってそう歌ったわけじゃないんですけど、元々のメロディはあるのに、全然そういうふうに歌ってないよなっていうことに最近気づきました。元のやつ聴いたら全然違う(笑)。でも楽しく歌ってますね、いつも。
ーーだから、メロディが正しいとか、歌詞がどうとかじゃないところで奇妙さんはこの歌を歌っているんでしょうね。この曲に限らずですけど、ずっと奇妙さんの歌を聴いてきて思うのは、変な意味ではなく、何を歌ってても感動するんですよね。
奇妙:嬉しいです。自分が好きなアーティストもみんな、その人の演奏とか声とか、違う曲やけど同じ面があって、それを愛してるなあと思いますね。自分が好きな人は何やっててもなんか最高やなっていつも思う。
ーーそう、その凄みが奇妙さんの歌にはあるし、このアルバムはまさにそれだと思うんです。それこそタイトルトラックの「1976」は歌詞がたった4行しかない短い曲ですけど、そのたった4行でグッときてしまう。
奇妙:あ、グッときました?
ーーきましたよ(笑)。
奇妙:これ、なんというか、裕福な家の人にはわからない感じなんじゃないかと思いますけどね。あの市民プールのヌルヌルな感じとか。いいホテルのプールとかにはないでしょうね。あのヌルヌル。今のプールはそんなことないと思いますけど。あと、自販機のうどんとかね(笑)。なんで暑い時に熱いもん食べるんやと思ってたけど、泳いだ後だからちょっと冷えてるんでしょうね、体が。
ーーそういうのって、ご自身の記憶からパッと湧いてきた感じなんですか?
奇妙:きっかけは、結構いい暮らししてる友達が、市営プールとかなんか床がヌルヌルやから行かれへんって言ってて、なんか腹立つなと思って、それで思い出したんです。「行ったなあ」と。普通に道歩いてて、なんかの匂いを嗅いで異様に昔のこと思い出したりするのに似てるかもしれない。
ーーまさにそんな感じですよね。そこからサザンオールスターズの「いとしのエリー」という懐かしの曲につながっていくのもいいですし。「いとしのエリー」は去年Billboard Liveでやったんですよね。あの時、この曲を選んだのはどうしてだったんですか?
奇妙:この曲が好きで、一時期スナックでめっちゃ歌ってたんですよ。メロディの分量とか形とかが素晴らしくて、歌うのが気持ちいいんです。そんなことを言ってたら、事務所の人とかビクターの人が「サザンってビクターですよね」って言い出して。「まあそうですね」って言ったら「一回聞いてみますか」って言うんです。「何を聞くんですか?」「いや、カバーさせてもらえないかって。もしかしたらいけるかもしれないです」って。怖いこと言うなと思いましたけど、結果的にカバーさせていただくことになりました。