放送20周年『涼宮ハルヒの憂鬱』一般層にまで届いた音楽の力 「ハレ晴レユカイ」「God knows…」が今に与えた影響とは
たった1話だけの挿入歌「God knows…」の衝撃
そして20年経った今なおUGCやカバーの定番であり続けている楽曲がもうひとつ。それがTVアニメ第1期12話の挿入歌となるハルヒのキャラクターソング「God knows...」だ。ハルヒと長門が文化祭のステージでバンドとともに歌唱およびギター演奏を行う、TVアニメ全編のなかでもとりわけ印象深い場面で使用された本楽曲。ミュージシャンが実際に演奏している映像を参考に制作されたというライブシーンのアニメーションのクオリティもさることながら、どこか切なさや儚さを孕みながらも熱くエモーショナルに展開する楽曲自体のインパクトによって、絶大な支持を得ることとなった。
この楽曲を作詞したのは「ハレ晴レユカイ」と同じく畑亜貴、そして作曲/編曲は本アニメの劇伴を手掛けたMONACA所属の音楽家・神前暁が担当。のちにTVアニメ『らき☆すた』(チバテレビほか)のオープニングテーマ「もってけ!セーラーふく」(2007年)などを生むことになる黄金タッグが、初めて出会った楽曲になる。文化祭ライブで歌われる楽曲ということで、アニメ制作サイドからは、2000年代前半に人気を集めたガールズバンドのZONEがリファレンスとして挙げられていたというが(作中に登場する学生バンドの名前もZONEのつづりを逆さにしたENOZだった/※2)、印象としてはZONEの透明感や甘くほろ苦い青春感といった楽曲イメージからはかなりかけ離れたもので、ハルヒの激情的なキャラクター性に結びつく、よりアグレッシブで焦燥感が際立つドラマティックなロックナンバーに仕上がっている。
そんな「God knows...」のサウンド面における顔となっているのが、イントロのエレキギター。ディストーションを効かせたテクニカルなフレーズは、文化祭の女子高生バンドが弾くには荷が重いのではないかと思わせるものだが、それもまた作品の内容に紐づいて生まれたものだった。作中でこのギターパートを演奏するSOS団のメンバー・長門は、実は宇宙生命体によって造られたアンドロイドのような存在で、あらゆる面において人間離れしたスペックの持ち主。ゆえに演奏能力も極めて高く、その設定にならう形であの技巧的かつ鮮烈なフレーズが採用されることになったのだ。
このフレーズを実際に考案/演奏したのが、当時矢井田 瞳らとの仕事で知られていた“感情直結型ギタリスト”の西川進。神前によるデモ音源のギターイントロは全く異なるものだったが、それがインパクトに欠けていたため、レコーディング現場で西川に相談して、その場でフレーズを作ってもらったというのはよく知られた話である。感情表現豊かで独創的なギタープレイを身上とする西川や、ベースの種子田健、ドラムの小田原豊といった実力派ミュージシャンの演奏によって、「God knows...」は本物の血の通ったバンドロックに昇華され、“歌ってみた”や“弾いてみた”、“演奏してみた”などを通じて、作品の枠を超えて愛され続ける楽曲になったのだ。
この2曲のほかにも『ハルヒ』シリーズからはさまざまな楽曲が生まれ、2000年代アニメにおけるキャラソン展開のメソッド確立に大きく貢献したほか、その後『ラブライブ!』シリーズをはじめ多数の作品やアーティストの歌詞を手掛ける畑、『〈物語〉』シリーズ(UHF系/TOKYO MXほか)などのヒット作に携わる神前といったクリエイターの名前が広がるきっかけにもなった。たとえばUNISON SQUARE GARDENの田淵智也(Ba)のように、直接的に刺激や影響を受けたアーティストも多いはずだ(田淵は畑、田代らとともにプロデュースチームのQ-MHzとして活動している)。TVアニメの放送開始から20年が経った今、あらためて『ハルヒ』の音楽を振り返ることで、得られるものがきっとあるはずだ。
※1:https://mora.jp/topics/interview/hataaki/
※2:https://www.youtube.com/watch?v=errkBhBIHXM