「叩いて音が出ればなんでも面白い」 THE SPELLBOUND、Dos Monos……大井一彌が追求する“電子音楽×生演奏”の可能性

【連載:個として輝くサポートミュージシャン】大井一彌
yahyel、DATS、QUBITなどのメンバーで、YOASOBI、アイナ・ジ・エンド、UA、THE SPELLBOUND、Dos Monosなど、幅広いアーティストをサポートしているドラマーの大井一彌。DTMで楽曲を作り、同期とともに演奏することが普通になった現代において、生の楽器とパッドやトリガーといった電子楽器の両方を使って演奏することはもちろん、トラックメーカーやマニピュレーターとしての顔も持つ大井が時代に求められたのは必然と言ってもいい。THE SPELLBOUNDとDos Monosが共演する『THE SPELLBOUND Presents BIG LOVE Vol.8』の開催を機に、この2組の話を軸としながら、「目指すプレイヤー像はドラマーというよりパーカッショニスト」という大井の表現者としての矜持を紐解く。(金子厚武)
生演奏だからこそ生まれる“乱数”の魅力

――5月7日に開催されるTHE SPELLBOUNDの自主企画『BIG LOVE Vol.8』にはDos Monosの出演が決まっていて、どちらもドラマーは大井くんですね。
大井一彌(以下、大井):『BIG LOVE』はTHE SPELLBOUNDと関係性があったり、リスペクトしているアーティストを誘ってツーマンライブをする企画なんですけど、2024年にはyahyelとして出させてもらったこともあるので、どちらも僕がドラマーというのは2回目ですね。近年は僕が1日のなかで複数回ドラムを演奏するケースが何度かあって、たとえば、2024年にEX THEATER ROPPONGIであったアイナ(・ジ・エンド)とUAのツーマンもドラマーはどっちも僕でした。ちなみに、ギターの西田修大も両方のバンドで弾いていて、たぶんここ最近いちばん一緒に演奏してるのは彼ですね。
――西田くんにも以前この連載で取材をさせてもらっていて(※1)、もはや“サポート”という枠を超えて、多方面で活躍する人が本当に増えたなと思います。
大井:そういう時代なのかなと思ったりはしますね。「浮くも沈むも一蓮托生」「俺はこれしかやらない」っていう人と、自分のフィルターを使って、いろんなアーティストと関わりながらそれを表現する人と、そういう両方のスタイルがあって、どちらも美しいと思うんですよ。ただ、僕はドラムを演奏することを生業としていて、音楽の下支えのような役割を持つ特性が関係してか、いろんな人と一緒に演奏することに適性を感じてますね。
――THE SPELLBOUNDには2021年に行われたファーストライブから参加しているわけですが、どのような経緯で参加が決まったのでしょうか?
大井:もともと小林(祐介)さんとはTHE NOVEMBERSとDATSで知り合っていたんですけど、そこから月日は流れ、ある日小林さんからMONJOE(DATS)を経由して連絡が来たんです。「中野(雅之)さんと一緒にバンドを始めるんだけど、ドラムをできないか」と。もうふたつ返事でお受けしましたね。そのときにはシングルが何曲か出ていて、それを聴いたら、「これは向いてるぞ」と思ったというか、高い理解度で臨めるなと思って、それでお受けした感じです。

――2019年のリアルサウンドのインタビュー(※2)でも、“ハイブリッド”の話をしているように、フィジカルなアプローチ、エレクトロニックなアプローチ、大井くんはどちらもできる人で、まさにTHE SPELLBOUNDにはうってつけでしたよね。
大井:ご用命くださるアーティストの方々から、そういったステータスやスキルを期待されることは増えましたね。昨今の打ち込みが使われた音楽と、生の演奏をどうくっつけたらいいんだろう、って。僕はそこを考えてる人の味方をできるとは思ってます。
――中野さんや小林くんの音楽はどの程度聴いていたのでしょうか?
大井:THE NOVEMBERSは前から聴いていて、僕がここ何年かでいちばん好きだなと思った音楽が、2023年に出た『The Novembers』だったんですよ。最初にハマったのは『ANGELS』で、電子音楽に傾倒したアルバムだったんですけど、最高すぎて、大ファンになっちゃって。で、そこからそれより前の『Hallelujah』とか『GIFT』とか、過去の作品も全部好きになって。だから(Radioheadの)『KID A』を最初に聴いてハマって、その後に『The Bends』とかも聴きに行く、みたいなのに近いです(笑)。あとはもちろん、ブンブン(BOOM BOOM SATELLITES)も聴いてました。
――もともとケミカル(The Chemical Brothers)も好きだったと思うし、90年代後半のいわゆるビッグビート、デジロックの流れとシンクロしていた唯一の日本のバンドと言ってもいいですからね。
大井:僕はリアルタイムではないですけど、ビッグビートとか90年代のテクノが大好きで。何かが流行ったときって、音楽業界はその流行ってる音楽まみれになるじゃないですか。当時ケミカルを筆頭に、ビッグビートとか、ロックと電子音楽を融合したダンスミュージックがかなり流行ったと思うんですけど、日本からはブンブンしか出てこなかった。もちろん僕が不勉強なのもあると思うし、THE MAD CAPSULE MARKETSとかもいたとは思うんですけど、いわゆるデジタルロックと言われたような、TB-303(Roland)が合いそうなベースラインのテクノとかをやってる日本のバンドはあんまり思い浮かばなくて。それはやっぱりブンブンがすごすぎたからで、「もうブンブンがいりゃいいや」ってなったのかなと。

――THE SPELLBOUNDは音源には参加してるんですか?
大井:『Voyager』では何曲かドラムを演奏させてもらいました。ライブを通じて、電子音楽のなかにおいて、僕がかなり目の細かい、音符の多いタイプの演奏ができることを、中野さんが察知してくださったのかな。ジャングルとかドラムンベースみたいなタイプのグルーヴを表現するのがわりかし得意なんだなってことをわかってくれたので、「これなら生で録っても面白いかも」と思ってくれたのかもしれない。中野さんの生のドラマーや生のドラムに対する期待値はすごく高くて、やっぱり電子音楽の人だからなのかもしれないですけど、ドラムの演奏に乱数みたいなものを求めてるんですよね。ビッチビチにグリッドに正確でありながらも、演算ではたどり着けない、その向こう側みたいなものを、ドラムに期待してるんだと思う。だからTHE SPELLBOUNDはすごくエネルギッシュなんですよ。それは僕の矜持というか、モットーにしていることとも同じで。
最近は「だったら全部オケを流せばいいじゃないか」と思う人も多いと思うんです。でも、なぜ生の演奏家がそこにいるかっていうと、乱数を求めてるからだと思うんですよね。そこで生まれる“揺れ”に人は感動したりもする。僕が演奏家という立場で、ライブとか音楽制作においてメリットを示すとしたら、やっぱりそこにあるのは乱数の魅力で、ドラムの生の演奏には必ず揺れが生まれるから、それを電子音と紐付けていくと、微妙なあわいのものが出来上がるんですよね。いろんな工夫をすることで、ある意味で完全な、でもどこか不安定な、魅力的なものになるんです。
――「ビッチビチにグリッドに正確でありながらも」というのが重要ですよね。そこは当然高い技術が必要とされる。
大井:その通りで、でも、それは「人間の走っちゃう、もたっちゃう感じがいいんだよね」ってことではないんですよね。グリッドに対してほぼ完璧である必要があるけど、そのなかでの身体のわずかなブレ、わずかな精神のラグみたいなもので生まれる、ちょっとしたしなりが欲しいだけなんですよね。「下手でもいい」ってことでは全然ない。そこが難しいところであり、面白いところなんです。



















