「バッド・バニーによる“ゲームチェンジ”を目撃した」鈴木竜馬氏がグローバル市場から学んだ、日本の音楽ビジネスに必要なこと


中南米の躍進支えるローカルへのリスペクト
ーーこの数年の変化として、独立系レーベルから出てきたバッド・バニーのようなスーパースターの誕生もありました。
鈴木:ここ数年で一番大きいのは「ラテンの波」です。スペイン語圏の人口は多い多いと以前から言われていましたが、ポップスやロックのフィールドにおいて英語のマーケットを凌駕するまでには至っていませんでした。しかし、ヒスパニック系のヒップホップの延長からラテンブームが巻き起こり、バッド・バニーはこの5年間(2024年にテイラー・スウィフトに次ぐ2位になった以外)、Spotifyでグローバルでの楽曲再生数1位を獲得し続けています。 プエルトリコだけでなくメキシコなど中南米から次々とスターが登場し、コーチェラでヘッドライナーを務めたペソ・プルマなど、楽曲だけでなくMCまでもスペイン語だけでやり切るアーティストも増えてきました。言葉の壁を越える現象が現実になり、それを突破しているのが意外にもインディーズのアーティストたちなんです。メジャーのアーティストよりも、本能的に自国のカルチャーを大切にしていることが、世界中のリスナーの喚起に繋がっている大きな動きです。
ーー先日の来日イベントではバッド・バニーとの交流もあったそうですね。
鈴木:グラミー賞でスペイン語のアルバムとして初めて最優秀アルバム賞を受賞し、翌週のスーパーボウルでのパフォーマンスを経た直後の来日でした。グラミーでのICE(移民・税関捜査局)に向けたコメントや、移民政策に対するメッセージも注目を集めました。 グラミー前は1日約8000万回再生だったのが、スーパーボウルの後は1日2億回再生くらいにまで跳ね上がりました。そんな彼がSpotifyのサポートもあり、アジア初の公演として日本を選んでくれたことは非常に感動的でした。インディーズのアーティストが世界的なスーパースターになるという、ゲームチェンジの瞬間に立ち会えたことは大きな喜びです。余談ですが、本人と直接会って日本のお土産を渡せたのも最高の体験でした。
ーーバッド・バニーはThe Orchardがサポートするアーティストでもありますね。
鈴木:バッド・バニーはかなり初期からThe Orchardと組んでいます。彼は自分たちのレーベルをインディーズで立ち上げ、原盤を自ら所有しながら我々とディストリビューションのタッグを組んでいます。 我々が大切にしているのは、かつてのA&R(アーティスト&レパートリー)的なアプローチだけでなく、新しい形でのA&R(アクイジション&リテンション)です。契約したからには満足して長く付き合ってもらえるよう、アーティストに寄り添うマインドを持っています。The Orchardには弁護士資格を持つミュージックマンが多数在籍しており、彼らがフロントに立って「どういう契約なら一番ビジネスが上手くいくか」を手ほどきし、二人三脚で進めています。
The Orchardのバッド・バニー担当であるジェイソンも同様に弁護士資格を持っている一人ですが、マネージャーと強固なトライアングルを作り、常に現場を共にしています。ビジネス上のリテンションだけでなく、気持ちの上でのリテンションを大切にし、アーティストやレーベルごとにカスタマイズしたサポートを行うことが最大の成功例に繋がっています。The Orchard JapanにおけるKAWAII LAB.やアソビシステムの中川悠介社長との関係性も同じで、レーベルやマネジメントの意向を深く理解した上でサポートすることが重要だと考えています。
ーー非英語圏のアーティストの楽曲が世界に届くようになったことに、The Orchardのようなディストリビューターはどのように貢献したと考えますか。
鈴木:インフラの力はもちろんですが、The Orchardがグローバリゼーションにおいて強みを持っているのは、BTSを輩出した実績があるからではないかと考えています(現在はユニバーサル ミュージックと契約)。K-POPがグローバルでヒットした流れの先に、プエルトリコから現れたバッド・バニーがマーケットを作り、さらに日本のYOASOBIが続いている。ストリーミング時代にローカルを大切にしてベットし続けたのがThe Orchardの意思であり、強みであると思います。今はそれらに続き、インドやアフリカからも続々とスターが出てきています。
これはあくまで体験からくる私見ですが、外資系メジャーの場合、日本が世界第2位のマーケットであっても、あくまでアジアの1ブランチでしかないという見方が少なからずあります。しかしThe Orchardのようなディストリビューターは、ダイバーシティとローカルへのリスペクトを自ら体現しています。たとえば、The Orchardでは夏はロンドン、年末はニューヨークでグローバルのリーダーが集まり、徹底的にインパーソンでミーティングやコミュニケーションを図ります。そういった交流があると、その後のオンラインコミュニケーションも円滑になります。女性リーダーの登用も非常に積極的で、様々な人種のリーダーが活躍しており、互いにリスペクトを持ってビジネスをしている。そういった点が一つのアイデンティティになっていると思います。
ーーThe Orchardがラテンアメリカや各国で結果を出している背景にはそうした会社のカルチャーもあると。
鈴木:スタッフたちがプエルトリコのアーティストを心からリスペクトできなければ、今のような状況は生まれていなかったでしょう。現在、Spotifyの各国のウィークリートップ200のチャートを見ると、南米各国やスペインではThe Orchardがサポートする楽曲が50〜70曲ほどランクインしています。日本も頑張って12〜15曲ほどランクインしていますが、やはり次元が違いますよね。




















