今までにない形で寄り添う――映画『鬼の花嫁』イメージソング「Ray」 由薫の出発点と「星月夜」にかかる魔法

由薫、由薫の出発点と「Ray」

映画『鬼の花嫁』の“裏”に見た、別の物語

由薫(撮影=安藤未優)

――タイトルや歌詞にも用いられている「Ray」というワードは、初期の段階から出てきていたんですか?

由薫:入っていなかったです。実は、最初は全然違うワードを使って書いていたんですけど、チームのみんなの意見も聞いていったら、「ちょっと伝わりにくいんじゃないか?」みたいに思って。何かを伝えようとする時に、ワードチョイスではなくて、何を伝えたいのかという中身自体が大事なわけじゃないですか。だから、最初に書いたものから芯の部分だけを取ってきて、そこに「Ray」という言葉に自分が言いたいことを預けたみたいな感じです。「Ray」という言葉は何気ない瞬間にピックアップしてきた言葉なんですけど、響きも含めてすごく印象深かったので「これをタイトルにしよう」と決めて。そこからさらに歌詞を詰めていきました。

――「Ray」って光のイメージが強いワードですが、この言葉をチョイスして映画の世界含めて、どういったことを伝えたいと考えたのでしょう。

由薫:まさに「Ray」は光線を意味する言葉で。英語で「Ray of hope」と言ったら、「一筋の希望」という意味にもなりますし、重たい雲間から突然射す「Ray」ってどこか神秘的に見えたり、何かメッセージをはらんでいるように見えたりすると思うんですけど、今回はスポットライト的なイメージで「Ray」という言葉を使っていいます。暗闇に突然一筋の光が射して、それに触れたくなって近づいていくイメージを持ちながら、事前にいただいていた「グラデーションのある恋愛の状態」「『好きだ』とまだ断言できない心の揺れ動き」というテーマを重ね合わせてみたんです。

――なるほど。

由薫:光線って、手を伸ばして「触れた」と思っても、実際には触れていない。触れることができないという切なさがあると思っていて。暗闇に行った時は自分の輪郭や色がわからなくなるけど、光に近づくことで初めて「私ってこんな人だったんだ」ってわかる。それが私のなかにあった「Ray」のイメージで、どこか恋愛にも似ているなと思ったんです。誰かを好きになったり誰かと向き合ったりすることで、初めて自分のことがわかる。恋した時、相手のことが知りたくてたくさん質問したり、「あの人、こういうのが好きなんだ」って情報収集したりするじゃないですか。それって、実は相手のことを知る過程で自分のことをあらためて知る作業でもあって。相手のことを深く知れば知るほど、嫉妬の感情が生まれたり、心がモヤモヤしたり、嬉しくなったり、悲しくなったり、いろんな思いを経て「私ってこういう人間なんだ」ってどんどんわかってくる。場合によっては、自分のことがイヤになったりもする。今回の映画における恋愛の世界観って、自分に自信のない女の子が恋愛を通してサクセスしていくシンデレラストーリーではあるけど、その裏にあるのは自分自身を見つめ直す物語だなと私は思っているんです。私も恋愛を通して自分自身の姿が見えてきたり、その時に誰かと関わって自分のことが好きになったりするのはすごく素敵だなと思ったので、そういうことを描きたくて「Ray」という言葉を選びました。

――〈あなたのせいで私は私が好きになってしまう〉ってフレーズは、まさにそういうことですものね。

由薫:これは最初に私がメモに書いたことのなかから拾ってきた断片で。「誰かを好きになって自分のことが好きになるのはすごく不思議なことだな」と思って、メモに書き留めていたんです。それがうまくテーマにもハマって、映画の内容にもぴったりだったので、ここに入れられてすごく満足しています。

由薫(撮影=安藤未優)

――好きな対象に対してのラブは言葉では直接伝えていないものの、〈あなたのせいで私は私が好きになってしまう〉という表現を使うことで自身の思いを明かすという、奥ゆかしさがすごく素敵だなと思いました。そういう思いを切ないピアノの音色とともに伝えていくうえで、メロディやアレンジに関してもかなりこだわったのではないでしょうか。

由薫:はい。3作連続で川口大輔さんにアレンジをお願いしたんですけど、川口さんは一緒に相談しながらアレンジをしてくださる方で。川口さんは私の考えをしっかり汲み取りながら、心が振り子のように揺れ動く様子が絵に浮かぶような音に仕上げてくださいました。

――ちょっとスウィングする感じもあって、その感じが心の揺れ動きにもフィットしているなと。

由薫:言葉と音が手を取り合って、一緒に踊っているみたいだなって、私も歌いながら感じてました。

――ドラムが入った2番以降はそのスウィング感がより強まり、後半のDメロに向けて山場を作っていく構成もすごくドラマチック。「The rose」「echo」と過去2作での共作経験があったからこそ、由薫が思い描いた世界をより深く表現することができたんでしょうね。

由薫:まさにそうだと思います。作詞作曲しただけでは、曲の空気感までは表現しきれないじゃないですか。温かいのか冷たいのか、風が強く吹いているのか弱く吹いているのか、そういう部分を補ってくれるのがアレンジの醍醐味であって、今回はそこに川口さんの人柄もしっかりと反映されていると思うんです。本当に川口さんにお願いしてよかったです。

――「Ray」という楽曲が完成したことで、由薫さん自身大きな手応えが得られたのではないでしょうか。

由薫:おっしゃるように、今までできなかったことができたような気がしています。すごく素直な曲だと思うし、タイミング的にも今後の方向性を決定づけるような場面でもあったのかな、と。そして何よりも、チームの皆さんや川口さん、ミックスの方もマスタリングの方もこの曲のことをすごく誇りに思ってくれている感じが伝わってきて、そういう音楽を生み出せていること自体がとても嬉しいんです。その結果、これから制作に向けてより気が引き締まりましたし、いい曲をたくさん生み出せるアーティストになりたいなと思うきっかけにもなりました。

【映画『鬼の花嫁』イメージソング】由薫 – Ray (Official Lyric Video)

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