ウェイウェイ・ウー×平原綾香、“縁”に導かれた邂逅 能登半島地震への祈り――コラボ曲に込めた平和への願いを語る

ライブで真価を発揮する二胡と歌声の相乗効果
ーーウェイウェイさんの二胡は、悠久の時を越えた、時空を超越した音色を持っていると感じます。未来と太古を繫ぐ、それこそ『火の鳥』(手塚治虫)のような。それを伝える歌詞の言葉も、それくらいの重みと深み、普遍性がなければいけなかったんですね。
平原:はい。〈愛してる〉では軽い気がして。〈愛し(いとし)〉でないと。あときっと大自然ってすべてを理解することは不可能で、予知も難しくて、いつ何があるか分からないわけで。そういった計り知れないものであるからこそ、分かるけど分からなさもある万葉調の言葉が合ったのだと思います。
ウェイウェイ:歌詞を最初に拝見した時から、歌詞の魅せ方からして、大自然や歴史を感じさせるものでした。今の時代、だいたい横書きのメールで送られて来るものですけど、平原さんはわざわざ縦書きのPDFで送ってくださったんです。
平原:文字の背景には、古い和紙のようなテクスチャーを使いました。OKをいただくために、見た目も大事だと思って。
ウェイウェイ:歌詞カードを観て、思わず正座して読ませていただきました。それから歌を聴いたら次元が変わりました。もともと海の上でできた曲ですけど、平原さんのデモはどんどん海から空に近づいていった感じで、最終的には限りなく宇宙に近いと感じました。私が先に二胡を録って、それを聴いて歌を録っていただいたんですけど、歌を聴いてもう一回二胡を録り直したいと思ったほどです。
平原:先にレコーディングしてくださったんですよね。アレンジもできていて、二胡の最終版も録ってあって。あとは歌詞が完成して、私が歌うだけだったんです。
ウェイウェイ:だから生で聴いたのは私も12月のライブが初めてで、隣から聴こえてくる力強さ、繊細さ、優しさ、全部を体で感じてとても感動しました。歌からいろんなものを感じて、それが二胡に乗り移って……あの時あの空間は、時間が止まったかのようでした。
平原:歌詞に出てきますけど、〈可惜夜(あたらよ)〉とは、まさしくこういうことだったなって。「明けてしまうのが惜しいほどの夜」とか「素晴らしく綺麗な夜」を指した言葉ですけど、この曲と出会わなければ〈可惜夜〉という言葉に出会わなかったし、歌詞に使おうとも思わなかった。そういう美しさがあることを教えてくれた曲と夜でした。

ーー平原さんは、二胡のメロディを歌うにあたって、どんなことを思いましたか?
平原:ここでこういう“こぶし”が入るんだとか、二胡独特の“二胡節”みたいなものがあって、とても勉強になりました。二胡が好きだから、二胡っぽい声を出したいと思ってトライしたことがあったんですけど、やっぱり本物はすごいなって。それで今回は自分の歌い方を変えて、二胡に合わせるようなこともしました。素晴らしいアレンジを沢田完さんが施してくださっていて、そこに二胡があって。あとは私が歌を乗せるだけだったので、あまり気負わないようにと。初めて聴いた時の圧倒的な感じが怖いほどだったので、最初はその怖さも受け止めながら、でもそれがいつしか勇気に変わって、それに後押しされながら歌っていった感じです。
ーーあの力強い低音を聴くと、力が沸きますよね。
ウェイウェイ:そうなんです。それにあの高音も素晴らしい!
平原:楽曲が歌わせてくれたんです。二胡の音域の響きのいい部分に、私が声を合わせたほうがいいとアドバイスをいただいて、それでキーを変えず原曲のままの音域でいきましょうと。最初は高低差が激しくてとても大変でしたけど、でもそれがジャンルにとらわれない歌い方になったのかもしれません。
ーー普段あまり使わないキーを使っているのですか?
平原:私はもともと低音が得意ですけど、ここまでドスの効いた低音を堂々と歌っている曲は、実はあまりなくて。特に〈我が身が〉という歌詞のところは、男っぽくドスを効かせても許してくれるものがありました。いつもなら「やりすぎ」と言われるくらいのほうが、この曲にはすごく合っていたんです。そういう意味では、二胡のキーに制限されているようでいて、逆に伸び伸びと歌わせていただいた印象です。
ウェイウェイ:頭で分かっていても、普通はあそこまでは歌えないです。そこに気持ちを乗せるなんて、なかなかできることではない。低音は地の底から響いてくるように、高音は天から舞い降りた天使のようで、あんな歌い方ができるのは平原さんしかいません。
平原:ありがとうございます。あと面白いエピソードとしては、自分でクリックを録って、それに合わせて歌ったことです。オケにはクリックも入っていたんですけど、クリックの正確なリズムを聴きながらだと、ちょっと違うなと思ったんです。バックの演奏がたゆたっている感じがしたので。それで、自分で「ワン、トゥ、スリー」と声でクリックを録音して、それを聴きながら歌ったんです。
ウェイウェイ:本当ですか! その話は初めて聞きました。
平原:クリックを気にしながら歌うよりも、自分でリズムを作って歌ったほうがいいなと思って。
ウェイウェイ:ああ、クリックというのは機械ですから、私も時々ちょっと違うと思う時があります。
ーー船上で波をリズムに作ったからなのでしょうね。
平原:ライブの時はその“自己クリック”もなかったんですけど、歌っているうちにだんだん合っていくんですね。ウェイウェイさんの二胡も、痒いところに手が届くような。「ここでこう来てほしい!」と思うところに来てくださって、とても心地よかったです。
ウェイウェイ:譜面に書かれていないものを、私も平原さんも大切にしている。ライブでは、よりそのことを感じました。譜面には書き切れないものがたくさんあって、平原さんの歌からはそれをすごく感じます。これから何度もステージをご一緒することになると思いますけど、すごく楽しみです。きっとその瞬間ごとに生まれるもの、レコーディングとは異なるものがあると思うので、皆さんも楽しみにしていてほしいです。
言語を超えて世界に響く“祈り”
ーーワシントンD.C.で歌って、反響はいかがでしたか?
平原:『全米桜祭り』は、1912年に3000本の桜を寄贈したことから始まった、ワシントンですごく人気のイベントです。世界で活躍するさまざまなアーティストが呼ばれてパフォーマンスをするというもの。今回私も呼んでいただいて、この曲も歌ってきました。最初は「どうなるかな」と思っていて、ライブの最後に歌ったらお客さんがみんなスタンディングオベーションしてくださって。大自然と向き合う時に言葉がいらないのと同じで、アメリカの方が一生懸命理解しようとしてくださった印象です。「何を歌っているんだ?」って、そういう思いを客席から感じました。
私もこの万葉調の大和言葉の歌詞を歌っていると、自分ではない何かを表現しているような、私の力では及ばない何かを伝えているような、とても強い気持ちになります。〈闇よ 怒りよ〉という歌詞も出てきますけど、「今、怒りを表現しているんだな」「天国に届けようとしているんだ」って、言葉が分からないはずなのに分かる、そういう作品なのかなと。だからこそアメリカで、スタンディングオベーションをいただけたのだと思います。
ーー今の世界情勢もありますから、余計に響いてくるものがありますね。
平原:アメリカの友だちから、「今のアメリカには愛が足りないから、たくさん愛を伝えてほしい」と言われたことが、すごく心に残っています。この曲の根底には“愛”があって、そのうえで怒りがあって、悲しみもあって。亡くなった方が天国に行っても、「元気にしてるかな?」と、今を生きている私たちが心配をするという、そういう不思議な現象を歌にしています。私自身は5年前に父を亡くし、「天国でも元気にサックスを吹けているかな?」って。〈天つ空 その先で夢を奏でよ〉と、父への思いを歌詞に書いたことも初めてでした。そうした天と地のあいだで揺れ動く思いが、言語を越えてアメリカの地でも伝わったのだなと思います。いずれこの歌詞が、英語や中国語に訳されて、現地の人にどう届いていくかすごく楽しみです。なぜならアメリカにはこういう曲がないから。私が自分の曲でいつも思うのは、日本で作った曲はアメリカで聴くと湿っぽくて聴けないんです。でもアメリカで作った曲を日本で聴くと、カッコイイじゃんって。でもこの曲は、アメリカでも聴けた。
ウェイウェイ:娘がアメリカに住んでいるんですけど、「愛が足りていない」といつも言っています。ワシントンでの平原さんの映像を観させていただいて、MCを聞いてとても感動しました。「平和のためにここから私たちがスタートしましょう」と、この曲を歌う前におっしゃっていて。客席から拍手喝采が響いて、平原さんの歌と言葉は、日本語が分からなくても、グッと響くものがあったと感じました。

ーー6月26日にキリスト品川教会 グローリアチャペルで行う、ウェイウェイさんの恒例のライブ『バラードナイトⅣ』での共演も決定しました。今後またおふたりで曲を作るとかあるかもしれませんね。
平原:できたらいいですね。
ウェイウェイ:ぜひ!
平原:音楽があると、簡単につながれますから!
ウェイウェイ:言葉を越えて通じ合うものがあります。
平原:言葉は分からなくても、その人が何をしたいのか、ステージだとすごく分かる。音楽の力はすごい。アジア、世界の人たちへ、この“祈り”の輪を広げていけたらと。ちなみに、とある研究で、祈ってもらっている人のほうが、祈ってもらっていない人よりも病気の治りが早いのだそうです。しかも祈った人自身も健康になると。どこかの大学で、そういう研究発表があって。祈りって大事です。
ウェイウェイ:私は何かあった時、この曲を聴くようにしています。部屋に流していると心が落ち着くんです!
■リリース情報
「祈りにみちて」
配信中























