桑田佳祐、『あかね噺』OP・ED書き下ろしで見せる“ポップの真打”の矜持 NEW 70'S幕開け、落語愛に込められたエールを読む

 それにしてもよくできている。6月24日のCDリリースに先駆け、4月3日に配信リリースされた桑田佳祐の新曲「人誑し / ひとたらし」である。4月4日からスタートしたTVアニメ『あかね噺』(テレビ朝日系)のオープニング主題歌となったこの曲は、桑田が作詞・作曲の全てを書き下ろしで手掛けた初のアニメ楽曲だ。「えっ? 今までなかったっけ?」とちょっと意外だったが、思えばアニメ『ちびまる子ちゃん』の主題歌「100万年の幸せ!!」は作詞がさくらももこだったので、確かに丸々手掛けるのは今回が初めてなのだ。

桑田佳祐 - 人誑し / ひとたらし [Anime Lyric Video]

 では、どう「よくできている」のか? まずはタイトルから。“誑し”は辞書をひくと、その意味のなかに「だますこと。また、その人」とある。“女誑し”然り、どちらかと言えばポジティブな意味で使われない言葉をあえて用いるあたり、“噺家は華麗に客を誑してナンボ”という攻めのスタンスを指し示しているかのようだ。

 次にリリック。『あかね噺』の主人公は女子高生・桜咲朱音(おうさきあかね)。かつて落語家の最高位である真打を目指したものの、一門のトップから破門を宣告され、道半ばにして噺家を廃業した父の芸の真価を証明すべく、朱音は自ら真打を目指す。そんな彼女の歩みに、「人誑し / ひとたらし」は、歌い出しから〈女流名人論破して/燃える勝負をしたい/ガラスの天井(そら)を破ったね〉と、しっかりと寄り添っていく。

 だが、ただ寄り添うのではない。さすがはかねてより落語好きを公言している桑田だけあって、〈『浮世床』なら艶(いろ)っぽくね〉(『浮世床』)、〈半鐘(はんしょう)はいけないよ/オジャンになる〉(『火焔太鼓』)と古典落語の演目を想起させる粋で軽妙なウィットも違和感なく編み込んでいる。さらに、〈今/見えない 鎖(チェーン)が/解(ほど)けたみたい/夢を見なさい〉からは修練を重ねた者だけがたどり着く心の情景の瞬間が、〈また悩んだ時は/子供のように/夜は寝なさい〉からは戦士の休息を示唆するような慈しみの視点が感じられる。

 何より、〈孤独な舞台〉や〈天下獲るのはしんどいけどね〉は、長年シーンの頂点に立ち、その座を維持することの過酷さを知り尽くした桑田“だからこそ”の強烈な説得力と含蓄と言えよう。真打(天下)を目指す朱音の野心に対し、その場所がいかに〈しんどい〉か、さらりと戒めているのだ。

 まさに表現者が人を魅了するという行為の根源的な喜びと、そのための覚悟を封じ込めた秀逸なナンバーであると同時に、たとえば情報の奔流による閉塞感のなかで遮断されがちな個(=リスナー)が障壁をブレイクスルーしたいと奮起するような場面においても、この「人誑し/ひとたらし」は極上のテーマソングとして機能するだろう。

 そしてサウンド。エレキギターのリフとアコースティックギターのコードストロークが牽引するマイナー調のマージービートのグルーヴはグループサウンズ由来だろうか。“歌モノ”として親しみやすいBPMのなか、たおやかな魅力と英語によるポップなコール&レスポンスが同居したサビが心地よい。特筆しておきたいのはバイオリン。桑田はこれまでも「銀河の星屑」などで効果的なバイオリン使いを聴かせてきたが、今回も巧い。いまだ途上にあるさまよえる魂と命を燃やすほどの闘いに赴く、朱音の凛とした佇まいと内なる激しい躍動を表現するロマミュージックのようなバイオリンの旋律が、「人誑し / ひとたらし」の疾走感とドラマを一層盛り上げている。さすがポップの“真打”、面目躍如たる手腕である。

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