アンと私「ぜってぇ変わんねえからな!」ーーメジャー挑戦への覚悟、『NARCISM』で示す痛快な生き様

 2月6日、4人組ロックバンド・アンと私が、昨年より開催されてきたツアー『アンと私 NARCISM TOUR 2025-2026』のファイナル公演を東京キネマ倶楽部で開催した。

東京キネマ倶楽部を熱狂させた『NARCISM』ファイナル公演

 最寄り駅であるJR山手線・鶯谷駅を降りれば、飲み屋やラブホテルが密集している。そのすぐ近くにある東京キネマ倶楽部は、もともとは昭和後期まで営業していたグランドキャバレーをライブスペースにした空間であり、佇まいはまるで絢爛な洋館。その場所に漂う空気感は、アンと私にとてもよく似合っている。アンと私が奏でるのは、猥雑でありながらも華やかで、過ちと品格が、すなわち生きている人間の匂いが、染みついたような音楽だから。

 開演時間前に会場に入ると、場内BGMには氣志團の「One Night Carnival」が流れていた。そのあともTHE ALLMAN BROTHERS BANDにSteely Dan、クリープハイプ、吉川晃司と布袋寅泰のCOMPLEX……などなど、なんとも一見脈絡のない選曲のBGMが流れていたが、「このすべてがアンと私の音楽のエッセンスになっている」と言われれば、まあ納得がいく。アンと私の音楽は、作詞曲を務める二口(Vo/Gt)の強烈な世界観によって成り立っているが、音楽的には、ひとつのやり方だけで成立しているようなバンドではない。彼らの音楽には、バンド音楽の豊かなアンサンブルに身を委ねていたかと思えば、唐突にダンスミュージックのビートで踊り出すような、極めて雑食的なグルーヴ感とポップネスがある。

 開演時間がきて、れんじゅまん(Dr)、吉村ハルキ(Gt)、ヤマモトマキ(Ba)、二口、と、メンバーがひとりずつサブステージに登場し、階段を降り、そのまま定位置に移動する。そして、獣の唸り声のような野性的な爆音が響き出し、「Boyfriend Rockstar」からライブはスタートした。私は2階の関係エリアからライブを観させてもらっていたのだが、1階のフロアを覗き込めば、空間が初っ端からとんでもない熱気に満ちていくのを感じた。もうすでに観客たちとバンドの間に深い繋がりがあることを感じさせる、そんな盛り上がりだ。アンと私は嘘くさい綺麗事を言って共感を集めるようなバンドじゃない。むしろ彼らは、路上に吐き捨てるように呟く「クソったれ」や「ごめん」が歌になることを証明するようなバンドだが、だからこそ、体のいい共感なんかよりももっともっと深い場所で、日々を生き抜いていくリアルの中で、彼らの音楽と聴き手は共犯関係を結ぶのだろう。3曲目に演奏された、タイトルとは裏腹に曲調は爽やかなギターロックの「全部俺のせい」で二口が「歌え!」と観客たちを煽ると、観客たちは盛大な歌声で、この男前なフロントマンの期待に応える。

二口(Vo/Gt)
吉村ハルキ(Gt)
ヤマモトマキ(Ba)
れんじゅまん(Dr)

 猛烈な勢いで突き抜けていくように次々と曲が披露されていくが、勢いのあるパンクソングだけではなく、ダンサブルな「Summer Emotion Man」、アンサンブルの妙が雄大で穏やかな「切り傷とシュシュ」など、獰猛なエネルギーの中にも色とりどりの音楽的な喜びがあることもバンドは伝えていく。中盤に披露されたメロディアスでポップな「QUEEN」では、ゲストボーカルとして3ピースバンド・つきみのギターボーカル・ににちゃんが登場し、二口とデュエットを披露するスペシャルな場面もあった。MCでは、前日の夜は眠れずに新曲「サイレン」の歌詞を考察しながら泣いていたというドラムのれんじゅまんが、「いかにアンと私が、二口の気分によって振り回されているバンドなのか」をぼやく場面もあり、申し訳ないがちょっと笑ってしまった。アンと私は、そもそも二口のソロプロジェクトのような形で始まったバンドである。それが今はれっきとした4ピースバンドになった。バンドにはそれぞれの物語や関係性がある。というのは当たり前のことだが、やはり尊いことだと思う。

 バンドの代表曲と言える「Tinder」でも「歌え! 歌え!」と、さらに観客たちを煽った二口。そこから立て続けにアッパーチューンを披露。最新EP『NARCISM』の1曲目を飾る強烈なヘヴィロック「サイレン」、ぐわんぐわんにフロア揺らしたグルーヴィでファンキーな「FALL DOWN」、そして、ダンスとノイズとホストクラブのコールが混ざったような「GALTUNE」――。特に、本編を締め括った「GALTUNE」の光景は本当に凄かった。まるでステージとフロアの垣根すら壊されていくような高揚感で、音と、熱と、光と、この場に集まった人々の爆発する鬱憤と生命力によって、空間全体が満たされていくようだった。

 アンコールで再びステージに登場した4人。ここで二口は、アンと私が今年秋にメジャーデビューすることを発表。二口は、このメジャーデビューの決断について、「似合う/似合わないではなく、挑戦してみたいと思った」と想いを語り、そして「ぜってぇ変わんねえからな!」と叫んだ。アンと私は、“自分が自分であること”を貫きたいと思っているのだ。彼らがこのツアーのタイトルと最新EPのタイトルに掲げた『NARCISM』という言葉は、“うぬぼれ”とか“自己陶酔”という意味合いの言葉だが、アンと私はそこに「自分がかっこいいと思うものを追い求める意志」、そして「自分の生き方は自分で決める」という覚悟を刻み込んだ。なんて痛快な生き様だろう。アンと私が生み出す音楽は、この世界のどこかで「負けてたまるか」と思いながらサバイブしている誰かの心と、秘密の情事のような共犯関係をこの先も生み出していくのだろう。この日繰り広げられたような、ダーティで綺麗な夜を、私たちはこれからもたくさん見るのだ。

■セットリスト
『アンと私 NARCISM TOUR 2025-2026』
2月6日@東京キネマ倶楽部

M01.Boyfriend Rockstar
M02.Boo
M03.全部俺のせい
M04.クソラスト
M05.Summer Emotion Man
M06.二番目
M07.LAST SONG
M08.切り傷とシュシュ
M09.口にして
M10.スーサイド・リリー
M11.完璧な女
M12.QUEEN feat. ににちゃん, 高浪凌
M13.秘密のスポット
M14.Tinder
M15.ABC
M16.XOXO
M17.サイレン
M18.IDOL BAND
M19.FALL DOWN
M20.GALTUNE
En1.せめて音楽だけはやめないようにね
En2.手首と太腿
En3.GALTUNE

『NARCISM TOUR Final 26FES -2026- ONE MAN SHOW』
セットリストプレイリスト:https://annandme.lnk.to/NARCISMTOUR_setlist

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