Base Ball Bear 小出祐介、モダンに抗ってでも向き合った“存在”の正体 『Lyrical Tattoo』へ至った思考の変遷を語り尽くす

バンドに求めてるものは「自分が憧れてる何かに音を通してタッチすること」

ーーさっき「感度の高い少年少女たちがいるはず」って言ったじゃないですか。決して自分と同世代のミドルエイジの人たちだけじゃなくて、ちゃんとそこを見てるんだなというのが嬉しいですね。Base Ball Bearのファンダムがすごく強固なものだったら、そこにずっと当てていくファンクラブ特化型のほうが、音楽ビジネスとして考えても長続きしていくだろうし。でも、やっぱり今作を聴くと、そうじゃないよなっていう。

小出:そうなんですよ。そういうことを考えていくと、自分が音楽とかロックとかバンドに求めてるものって、ずっと自分がワクワクする感じとか、自分が憧れてる何かに音を通してタッチすることだったりするわけじゃん。それを少年少女たちに「引き継ごう」とか「与えよう」って思わないとダメじゃん、ってのもある。いろんな聴き方をしてくれてかまわないし、今してる話はその中の要素のひとつかもしれないけど、これを聴いて「ギターってカッコいいかも」とか「こういう音出してみたい」って思うキッズがいてくれたら嬉しいわけよ。

ーーだよね。

小出:僕はライブの音の作り方に関しても、今作のバンドサウンドの音の作り方に関しても、モダンなそれに徹底的に抗ってる。けど、ヴィンテージライクな感じとか、レトロフリークみたいな考え方じゃなくて、それを今のモダンなやり方と混ぜ合わせて作っていて。そこに何か引っかかってくれる人が、この作品に何かしらのきっかけで触った時に、「これ、ほかとなんか違うな」って勘づくアンテナを持ってる少年少女がきっといるはず。そういう子に刺さってくれたらいいなと思うね。

ーー今の言葉が答えだと思うな、このアルバムの。おそらく、まだ出会ってないそういう子たちが絶対にいるという。

小出:いるんですよ。実際に今ライブをしていても、「どこで知ったんだろう?」って思うような若い子たちがいて。あるいは、現代的な音楽の作り方とか成立の仕方とかに対して、「なんだかな」って思ってる自分と同世代の人たちだっているはずで。もちろん上の世代もいるはず。そういう人にも届けばいいなと思って。今、物足りないなって思ってる人たちに。

ーー1997年の小出くんのような子が、これだけインターネットに支配された世の中にいたら、相当、生きづらいだろうね。

小出:かもね。生きづらいと思う。けど、1997年の私の生きづらさもすごいですよ。ギター始めて好きな音楽、Deep Purpleで、古いロック、ハードロックしか聴いてない。一方で直前に『エヴァンゲリオン』ショックがあるから、『エヴァンゲリオン』からの流れでロボットアニメがすごい好きになって。『マジンガーZ』のサントラばっかり聴いてるみたいな。『マジンガーZ』とDeep Purpleの2本柱ですよ、1997年に。生きづらいよ。友だちと話が合うわけないんだから(笑)。

「インターネットにいない存在になりたい」という思いの真相

ーー「Lyrical Tattoo」の冒頭の歌詞、〈A long away from 1997〉の後はこう続きます。〈遅延ない時代を突き進む 自転車で転ぶ〉〈赤い点が地面へと落ちる 痛くて笑えてさえもくる なぜか思い出してる〉〈I'm still waiting for you〉と。これは、昨年3月に小出くんが自転車の単独事故で大怪我した時のことだと思うんだけど、チャリでコケて、血が地面に垂れてる時に、過去の自分の感覚をフラッシュバックしたようなところあったんですか? 走馬灯的に。

小出:すごく久しぶりな感じがしたんですよ、血を見た時に。顔面からコケたから、もう触っちゃいけないぐらい血が出て。地面に手をついて、体を持ち上げようとした途端、地面にボタボタボタボタって血が垂れてきて。「これはまずい」ってなったんだけど、「こんな目に遭ってるの、すごくね?」みたいな。「こんなに血が出るんだ、大人になって」って。みっともないし恥ずかしいんだけど、なんか久しぶりの感覚みたいなものがあった。

ーー中1の時、心にタトゥーが入った感覚の記憶は具体的にあるんですか?

小出:自分の人生が変わったのはそこからなんで。友だちがひとりもいなくなるとかね。友だちに無視されたからバスケ部にいられなくなって、そしたらバスケ部の人が多いクラスだったから、クラス全員に無視されて友だち0人みたいな。バスケを辞めたからギターを始めて、さっき言ったようなDeep Purpleと『マジンガーZ』の2本柱でどうにか心を保つみたいな。そこで自分の人生始まっちゃったんだなっていう。

ーー血を流した時にそこと繋がったんだ。

小出:救急車を自分で呼んだんですよ。救急車に乗ったのも初めてで怖いし、今顔面どうなってるかもわかんないし、予定していた橋本絵莉子とのツーマンライブも飛ばさなきゃいけないなと思って。ライブを飛ばしてしまったのは本当に申し訳ないと思ってる。けど、その全部が止まっちゃう感じが久しぶりだなと思って。「歌えなくなるかもな」みたいなこともちょっと頭をよぎった。下手すりゃ下手するのかな、とか。顔面手術してしばらくリハビリが必要かも、とか。恐怖心はあるんだけど、その時の時間が止まって、社会の流れから取り残される感じって、悪くないなともちょっと思ったんだよね。ずっと早い流れの中にいて、そこから取り残されていく感覚。さらに意識的にSNSとかも見なくなるし、見てる暇もない。手足も怪我してたんで、ギターも弾けない。擦り傷、切り傷だらけ。強制的にその速度から取り残されたんだけど、でも、本来こういう時間が必要だなと思ったし。そういうことは考えてましたね。『Lyrical Tattoo』というタイトルとかコンセプトみたいなのが上がってくるのは去年の夏以降の話なんですけど。

ーーどういう思考の中で『Lyrical Tattoo』というワードが出てきたんですか?

小出:まず「インターネットにいない存在になりたい」という言葉が浮かんで、これすごくいいスローガンだなと。でもその段階では、自分が事故ってからちょっと休んで半ば強制的にデジタルデトックスみたいな状態になってたから、「インターネットにいない存在になりたい」というスローガンだけだと、「デジタルデトックスっていいですよ」みたいな話になっちゃうし、それで答えが出ちゃう。でもそういうことじゃなくて、感覚的に「インターネットにいない存在になりたい」という概念自体が引っかかってるっていうか。どうしてだろうなって考えてたら、自分が引っかかってるのは、「インターネットにいない」っていうよりは、その“存在”の部分だったんですよね。なんで「インターネットにいない」に続けて“存在”という言葉で説明したのか。

ーー「インターネットからいなくなりたい」とか、「インターネットをやめたい」じゃなくて、「インターネットにいない存在」という。

小出:そう、それをわざわざ自分が言ってるということは、本当に引っかかってるのはこの“存在”のほうなんだと思って、それについて考え始めたんです。そしたら自分はこれまでたくさん“存在”と背中合わせの“不在”についても歌ってきたわけで。

ーーそうだよね。

小出:亡くなったから会えなくなった人っていう不在。あるいは存在もあるけど単純に疎遠になって、昔はすごく会ってたけど会わなくなっちゃった人とかもいる。会えない存在、会わない存在。そこに、インターネット上やSNS上における存在っていう“第三の存在”っていう考え方が加わった。「この3つを分けるんじゃなくて、一緒に考えてみたらどうなるんだろう?」ってなったんですよね。僕が「インターネットにいない存在」の“存在”に引っかかったってことは、インターネット上の存在を、“存在”として認知してるってことじゃないですか。死んじゃったから、あるいは縁がなくなって会えなくなった存在と同じように。質は違うのに、でも、同じ存在として自分は説明しようとしてる。だから、それと一緒に存在について考えてみる。そこから始まってますね、全部。自分が実際に会えなくなった人、亡くなった人に向けたアルバムでもあるし、インターネットにいない人に向けたアルバムでもあるし、かつて関わってきたけどもう会わなくなった人に向けたアルバムでもあるし、青春時代はBase Ball Bearを聴いてたけど今は聴いてない人に向けたアルバムでもある。それらが全部含まれてる。

ーー合点がいきます、めちゃくちゃ。

小出:それが『Lyrical Tattoo』という考え方に繋がって。自分の中にあって、別に誰に見せるわけじゃない。SNSにあげるわけじゃない。自分の中に刻んであるものとして。

Base Ball Bear – Lyrical Tattoo

ーー「BLUE、たる」は今作でも一番抽象的な曲なのであえてピックアップして聞きたくて。響きとしての歌詞っていう部分を追求してる曲だと思うんだけど。すごくエロティックでもあるし、どういう感覚の曲なのかな。

小出:この曲が一番のオフラインですよね。肉体の交わりだから。

ーーすごく性愛的な匂いがする。

小出:日頃デバイスをいじってるその手でセックスしてるっていう。セックスとデバイスの操作を初めて重ねました。

ーーヤバいね(笑)。

小出:「どっちのほうが魅力的ですか?」みたいな。序盤はタトゥーを隠すカモフラージュみたいなシールがあるじゃん。その下にタトゥーがあるっていうのを知ってるのは俺だけみたいな。それを指で剥がしていく操作。タトゥーを指でなぞる操作と、セックスのそれを重ねてみたところ、「どっちのほうがいいですか?」っていう。

ーー〈君の真似して刺(い)れたい番いの青いバタフライ〉という、発語、音韻の気持ちよさもかなり追求していて。

小出:結構徹底的に押韻してますね。音韻は全体的にも意識していて、『天使だったじゃないか』でもやってるけど、さらに意識的に。押韻をしつつ、ABCでCがサビみたいな考え方よりも、ヴァースがあってコーラスっていう。だからもう、ある意味では全部がAメロでもある。

ーー「TIME SHIFT GIRL」とかすごい顕著だなと思った。ヴァースがサビも担保するみたいな。別の言い方をすれば、サビらしいサビがないっていう。構造的に。

小出:ABCの考え方だとね。でも全部フックっぽいっていう。

ーー最後の曲が今日話してくれたことのすべての回収になってますね、本当に。「(The rise of) Offline Souls」。

小出:ここまでの話を踏まえると、なおさらそう読めるんじゃないかなと思います。

ーーあとはこれをライブでどう響かせるか、ですよね。

小出:周年のスケジュール感云々みたいなのは一旦置いといて、このアルバムのツアーが、大事だなと思ってます。このアルバムを含めたツアーをしっかりできたら、このバンドは立派だろうって思ってる。

ーーまずはそれだよね。実際にライブを観てもらうことが一つひとつ繋がってくると思う。今後のBase Ball Bearにとっても大事なことだと思います。その1本1本が、お客さん個々人の人生と音楽で接続することも含めて。

小出:本当にそうですね。

ーーこのインタビューを読んでもらえたら今作を聴きたくなるし、ライブも観たくなると思う。

小出:じゃあ、ぜひ読んでくださいと伝えて終わりましょうか(笑)。

Base Ball Bear「Lyrical Tattoo」

■リリース情報
『Lyrical Tattoo』
2026年1月28日(水)リリース
詳細:https://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A026389.html

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