Base Ball Bear 小出祐介、モダンに抗ってでも向き合った“存在”の正体 『Lyrical Tattoo』へ至った思考の変遷を語り尽くす
今の時代にはないポップネスを積極的にやりたい
ーー今作はオーセンティックなUSオルタナをBase Ball Bearのサウンドに昇華したという印象がまず強くて。オルタナにオーセンティックも何もないからすごく変な言い方ではあるんだけど。
小出:でも、そこ微妙に違っていて。俺、逆にUSオルタナって全然通ってないんですよ。
ーーそうなの?
小出:マジで全然通ってないんです。Weezerぐらいしかちゃんと通ってないかも。
ーーNUMBER GIRL経由でPixiesとか、あるいはPavementとかDinosaur Jr.とかも通ってるのかなと勝手に思ってた。
小出:勉強はしてるけど、血には混じってないという感じ。僕はやっぱUKロックの人なんですよ。
ーーああ、言われてみれば、それはそうか。
小出:今作はUSオルタナがキーワードだとよく言われるけど、僕としては「へえ」みたいな感じで。USのオルタナやグランジが頭にあったら、音色のチョイスはこうじゃないですよ。もっと目の細かいディストーションの音を作っていくし、パワーのあるマーシャルとかで作ってるような歪みをチョイスしていく。ちょっとドンシャリな感じとかね。それは明確にやろうとしてないし、最初から興味もなかったです。そもそもシャー! と鳴ってるディストーションが好きじゃないから。僕の好みはやっぱUKの音なんですよ。
ーー今作の音像や楽器の音色とかも含めて、参照点はどういうところですか?
小出:強いてUSで言えばSonic Youthかな。Sonic Youthの歪みは、聴いてる体感はなんだかUKっぽい音だなと思ってる。だから初めてSonic Youthを聴いた時にアメリカの人だと知って、「あ、そうなんだ」って思った記憶があって。
ーーでも、そのニュアンスはわかります。ニューヨークのバンドなんだけどね。
小出:そうなんですよ。UKで言えば、もちろんOasisもそうだし、あとはスコットランドだけど、Teenage Fanclubとか。
ーーああ、確かにTeenage Fanclubはドンピシャですよね。
小出:音の質感としてはそういう感じかな。
ーー小出くんが現在進行形で聴いてるのは、過去のルーツを掘り返してる感じ?
小出:そのほうが多いと思う。まぁ中年の良くないところかもしれないけど、「やっぱ名盤はいいな」ってなるよね(笑)。新しいアーティストで面白いアイデアを持ってる人たちはもちろんいるし、海外のインディロックとかも聴いてると、USにもUKにもそれぞれ面白いオルタナバンドは出てきてるとは思います。でもやっぱり自分のルーツになってるようなバンドって、今の時代にはないメロディがあって、当時の人しか持ってないポップネスみたいなものがあるんですよ。それは感覚的な話でもあるんだけど、自分にもそれが欲しいと思った。
今の新しい人たちのアイデアも面白いんだけど、自分としてはメロディっていう意味でのポップネスがなんか食い足りない。上手く作られてると思っちゃう。Teenage Fanclubのことをメンバーと話す時に、「明らかにこの1小節、2小節ってなんか間延びしてたよね」みたいな話をするんですよ。なんでもない時間、コードがステイでそのまま過ぎた2小節とかあったりして。あえてそのままにしたのか、何にも考えずにそのままにしたのか、特に思いつかなかったのか、どれなのかわかんないけど。
ーー普通に思いつかなかったパターンもきっとあるよね。
小出:ある。なんかやろうと思ってたけど、考えが及んでなかったとか。モダンな耳で聴くと「ここの2小節何だったんだろう?」ってなるんだけど、それが妙に生々しくていい。きっと、大事にしてた部分がメロディとかコーラスの重なり方とかそういうポップネスのところなんだろうなと思って。だからこの2小節を見逃しちゃってるっていうのは別にさほど問題じゃないのかも、みたいな。そういう演奏について考えさせられる余白がすごく好きで。
ーーでも、それは前から好きなポイントでもあるでしょ。
小出:でも、昔は埋められるところをアイデアで埋めないと怖かった。「ここちょっと宙ぶらりんだから、どうしよう?」みたいな話をずっとしてきてたし。けど今は「もし宙ぶらりんになったとしても、怖がらずにそのままいっちゃって」という発想になる。
ーーそういう発想も含めて、自分がミドルエイジっぽくなってるなっていう感覚もある?
小出:もちろん。それに抗いもしないし。ただ、同時にTeenage Fanclubを聴いて感じる「この時間は何なんだろう?」みたいなものは、現代に全然ないなとも思ってるから。それを自分らはむしろ積極的にやりたいなとも思ってる。だって今は、みんな“頭の15秒”で勝負を決めようと思ってるから。その発想だったら絶対いらない時間なんですよ。しっかりアレンジをパズルとして組めてる人だったら、その宙ぶらりんな2小節を見逃すわけがないから。思いっきり切ったり、展開を作るとか考えていくはず。自分の音楽の聴き方も変化したと同時に、現代のモダンな音楽に対してつまんないなと思ってる部分もすごくあるから。それにも抗いたくない。つまんないと思うんだったら、ちゃんとそれに対抗したものを作らないとダメですよね。
『Lyrical Tattoo』を届けたい人は誰なのか
ーーすごく大事な話だと思います。Base Ball Bearは、さっきのライブの音作りに関してのエピソードもそうだし、作品制作もライブも本当に一貫してプロの仕事をやってると思う。そして、LINE CUBE SHIBUYAでワンマンをやっても、あれだけの人が来る。今年、メジャーデビュー20周年、結成25周年を迎えるキャリアを重ねてきたなかで、未来の武道館ライブも想像できる状況にあるっていうのはロックバンドとして特別なことですよね。そのうえで小出くんの中には、今の自分が創造する音楽、このバンドが鳴らす音楽が届く射程にいるリスナー像みたいなものってあったりするんですか?
小出:すごく嫌なこと聞くね(笑)。
ーーでしょ(笑)。この音楽は誰に向けてるのかって、今作を聴いて強く思ったんですよね。
小出:なるほど。すごく大事な、いいことを聞いてくれた。
ーーBase Ball Bearにはずっとついてくれているファンがとても多いと思うんだけど、その人たちへの信頼はめちゃくちゃあると思うんですね。
小出:もちろんあります。
ーーただそのプラスアルファみたいなのは、どのあたりまで考えてるのかなって。
小出:それを言葉にしようとすると、インターネットにいない人なんじゃないですか。
ーーああ、まさに今作の歌詞にも返ってくる話ですね。
小出:SNSを重視していない人とか、ね。僕はそもそも15秒で勝負決めようとしてないから。で、僕と同じように感覚の揺り戻しとして15秒で勝負を決めることに飽きてる人とか、そういう感度が高い少年少女がいるんじゃないかなと思っていて。
ーーもし、SNSやインターネットがどこにいてもついてまわるようなこの社会に、小出くんが中学1年だったらそう思ってた、という確信があるわけですよね。
小出:そうそうそう。
ーーそれは今作の1曲目でありアルバムタイトル曲「Lyrical Tattoo」の歌詞の冒頭〈A long away from 1997〉にも繋がってくる話だと思うんですけど。
小出:初めて「その1997年って何なんですか?」に、正しいルートで接続してくれたわ。これって、だいたい一発目に意味を聞かれるんだけど、答えられないですよ。
ーー歌の中ですごく大事なことを歌ってると思えば思うほど、20年間オーバーグラウンドのフィールドで活動を続けているバンドとして、ミドルエイジを迎えた音楽家として、どういう視座があるのかなっていうのを聞きたかったんですね。1997年、中1の時に彫った感覚のタトゥーを今こうやって掘り返して歌ってる人が。
小出:そこ、すごく大事なポイントです。なぜなら、『天使だったじゃないか』の後にもう一度こういう作品を作ろうと思ったのは、もうひとつ理由があって。それは『天使だったじゃないか』のプロモーションに失敗したと思ってるからなんですよ。
ーー詳しく聞かせてください。
小出:当時の担当プロモーターは今と違うんですけど、その人がダメだったというわけではなくて、すごく仕事熱心だし市場調査もしてる人だったんです。TikTokとかショート動画とか、YouTubeとかにリーチするにはどうしたらいいのか? っていうことをすごく研究していたから。
ーーとても大事な視点ですよね、現代のメジャーレーベルで働いてるんだったら。
小出:そう。自分が趣味でやってるバスケットボールのクラブチームの10代の子たちに「今どうやって音楽聴いてるの?」とか聞いたりする真面目な人で。彼が考えた施策は、『天使だったじゃないか』のプロモーションの中心としてSNSやネットがあって、そっちに予算を割く代わりに、こういう媒体でのインタビューとかMVを作らない、という方針があって。ラジオとかにはちょっと出たけど、あんまりメディアに出ないとか。なぜかって言うと、数字として動かないから。失礼ながら今の雑誌とかの売り上げを考えると、そういうところにお金を割くんだったら別のところにっていう、今の時代であれば当然出てきておかしくない発想で。
ーーうん。
小出:「そういうプロモーションはせずに、SNSでできる限りのことをしましょう」って提案されて、僕らも「今回試してみましょうか」ってなった。だから三宅さんが『天使だったじゃないか』のインタビューをやってない理由はそれもある。当時、『天使だったじゃないか』の媒体インタビューをほとんどやってないから。やらなかった代わりにSNSで、TikTokのアカウントを作ってみて。ショート動画を何パターンか作ったりもしたんだけど、見事にスベったんですよ。それが、施策のうちのひとつだったら良かったかもしれないけどね。でも、メディアで喋ったりせずにSNSのアルゴリズムにどうしたらアプローチできるかっていう、普段の自分だったら考えないけど、若いプロモーターが考えた案を1回やってみよう、ものは試しだしって。それで失敗して反省できたっていうことは自分のいい材料にはなったけど、その反省を持って自分が何を教訓としたかっていうと、自分が作品を作って、それを届けたい人に伝えるっていうことを、やっぱ最後までサボっちゃいけないっていうことなんですよ。
ーーなるほどね。
小出:だから今こうやってメディアでインタビューを受けて、どういう作品を作ったのかを、いろんなインタビュアーの人と喋ってる。プロモーションとして、自分が積極的にリリース前に作品を聴いてもらった人と、この作品はこうだね、今の音楽シーンってこうだねとか、そういうことを話して、メディアに載っけてもらう。それが自分の作品の伝え方のひとつだし、それをサボっちゃダメだなって思いましたよね。予算がどうのみたいな話になったとしても、やっぱりMVとかを作っておいた方がいいとも思ったし。
ーー『天使だったじゃないか』は、本当はリーチできた人たちにリーチできなかったっていう後悔があったんだね。
小出:そう、あった。だけど、自分っていうアーティストとかBase Ball Bearがリーチすべき層がちょっとわかったんですよ、その時に。逆説的にね。それは、インターネットにいない人なんだなって。あるいは、インターネットを使ってたとしても、インターネットじゃないどこかに居場所を持ってる人とか、それについて考えてる人なんですよ。
ーーいやぁ、マジでそうだよね。
小出:そこに訴求できないと意味ないって思った。
ーーその人たちに訴求するツールとしてインターネットも必要なんだけどね。
小出:そう。その人たちに告知するために。だからSNSが悪いっていうことじゃない。今作は「デジタルデトックスすりゃいいじゃん、で終わっちゃダメじゃん」って話で。
ーー中1の時に感覚のタトゥーを彫ってるからね、自分の心の中に。
小出:そうなんだよ! だから、よくぞそのアングルから聞いてくれたと思った。でも、おそらく三宅さんみたいな感度で聴いてくれる人がどっかにいるのよ、インターネットのどっかにも。