『RAPSTAR 2025 FINALS』全パフォーマンス徹底レポート 今日、人生を変える――5人のラッパーの生き様を観た
Sonsi
鹿児島県出身の20歳。実の両親から受けた愛が希薄にも関わらず、当日の会場にも駆けつけた祖母である恵美子氏こと“BBA”、そして観客を含めて周囲に愛される才能を人一倍に持っているという、数奇な運命を生きる青年である。配信越しでも伝わったかもしれないが、彼に対する会場の生の歓声が本当に桁違いだった。
後述するオリジナル曲について、OMSBから「新曲だからこそ歌詞は歌えた方がよかった」と指摘があったほか、終盤に声が裏返っていたりと技術、スタミナ面で気になる部分こそ否めないまでも、パフォーマンス開始1分を待たずにSEEDAを“ポケモン”がごとく審査員席のソファーから飛び出させるなど、会場を引き込む力は今シーズンの参加者随一。まさしく“原石”そのものでしかなかった。キャリア組のPxrge Trxxxper、Masato Hayashiを超えたいのなら、単純なラップの上手さや経験値、“Swag”以外の部分で立ち向かう必要がある。そうした“別のフィールド”を、Sonsiはしっかりと構えてきていた(し、実際に審査結果もそうなっていた)。
1曲目に披露したのが、「RAPSTAR CAMP」で制作したFouxビートでの「H2O daddy」だった時点で、伝家の宝刀である“BBAナンバー”こと、SLICKビートでの動画審査曲「FUSUMA」をラストに持ってくることはほぼ確定。「コイツ、お笑いをわかってるな」と、ニヤリとさせられてしまう(しかも、曲名も“BBA”ではなく、まさかの“FUSUMA”。そっちかよ)。
さらに驚いたのは、用意してきたオリジナル曲。先ほどの「H2O daddy」にて〈マルチ商法 水素水の詐欺/人を騙し 金を稼ぐdaddy〉と、父親の悪行をラップで全国に知らしめたことで、のちに本人から怒りのLINEが届いたという。そんな父親=OYJに向けて、決勝の舞台で意志を発信することに。タイトルをそのまま「OYJ」として制作してきたアンサーソング。プロデュースは、あのKoshy。曲中には〈マルチ商法は詐欺じゃない〉と、件のLINEに登場したラインをそのままサンプリング。考えうるなかで、最も面白いお笑いをやってのけた。
全体的にソリッドなパフォーマンスを見せながら、会場がそれに全被せをしたり。DJのミスも笑いに変えたり、かと思えばBBAを肖像画にした万券のイラストをばら撒くVJ映像を用意してきたり。本当にお前は何者なんだ……?
VERRY SMoL
東京都出身の18歳。客席と審査員席に対して、一貫してメンチを切り続ける自信家で、パフォーマンス後の講評でも終始目が座り続けていた青年。ただ、自身と同じく壮絶なバックボーンを持たないがゆえの苦しみを味わっている“同志”ことR-指定(Creepy Nuts)から「声一発で聴いて、『あっ、VERRY SMoLや』ってわかるえげつない楽器を持っているのが、生でこの大勢のみんなに見せれた時点で、かなりすごいことやと思う」と絶賛された際のみ、「コイツ、わかってるやん……」と満足げなにんまり顔を初めて浮かべていたのがとても微笑ましかったし、彼が孤独でなくなって本当によかった。
前述のバックボーン問題に孤独と、VERRY SMoLは今回のステージを通して、とにかく“ラッパー”であるとプレゼンテーションをすることに固執していた。その良し悪しは抜きに、原曲からのリリックのアレンジやリズムの崩し方など、細かな部分からもラッパー然とする姿勢を読み取れたパフォーマンス。特に、番組内でSEEDAからポップスだと指摘されていた「HOOD STAGE」でのSTUTSビート曲「セルフフライデー」については、0.25〜0.5小節ごとに前半に溜めて、後半に当該部分のリリックを回収するようにリズムを巻くラップの仕方が、その象徴たるシーンだったといえる。
加えて、今回の決勝進出ラッパーのなかで唯一、ガイドボーカル(被せ音源)を使用せず、自身のボーカル一本で勝負していたところも評価されるべき、とはkZmの声。元来の声量もひとつ飛び抜けており、いわゆる“聴かせる”方面で勝負に出てきた点で、ほか出場者と上手く差別化できていたことだろう(願望だが「RAPSTAR CAMP」でのD3adStockビート曲「雨上がり」については、フック直前までセンターステージ中央でマイクスタンドを使って“聴かせ”、その後にスタンドを倒すのを合図に、客席の方へと動いて訴えるパフォーマンスなんかも観てみたかった)。
ちなみに個人的ながら、今回のファイナルステージで最大のパンチラインを放っていたと思うのがVERRY SMoL。おそらくは「RAPSTAR CAMP」で敗退した今シーズンの“ロケ職人”こと3li¥enから受け取った“ハイエナジー”が、ふと頭をよぎってのことだろう。死ぬほど笑わされてしまった。「ギャルと音楽にありがとう」という言葉に。
本稿を眺めている読者なら、審査結果はすでに知ったところだろうが、優勝は、Pxrge Trxxxper。採点形式の変更もあってか、例年にも増して紙一重の接戦である。それを見事に潜り抜けてみせた、Pxrge Trxxxper。彼が来年以降、どのような動きを見せてくれるのか。通例であれば、今大会でビートを使用したHomunculu$やineedmorebuxにすぐさまDMを送り(というか、もう送っているかも)、リリースまでいち早く漕ぎつける流れとなるが、はたして。
そしてそれは、ほか4名についても同様。とにかく“初動”が肝心。『RAPSTAR』は通過点に過ぎず、本当の勝負はここからだ。その上で、Pxrge Trxxxperを期待の北極星として、今後のラップ/ヒップホップシーンの未来を占うべく、我々リスナーは引き続き動向を見守っていくとしよう。