Omoinotake「Gravity」が導いたラブソングの深化 「もう一度挑戦者に戻る」――2025年総決算インタビュー

 映画『(LOVE SONG)』の主題歌として書き下ろされた「Gravity」、ブルボン アルフォートミニチョコレートのCMソング「イノセントブルー」――色の異なる楽曲を内包したシングルを10月29日にリリースしたOmoinotake。今回リアルサウンドでは、各楽曲の制作背景や2025年の活動を振り返るインタビューを企画。来年3月に控えるバンド初の日本武道館公演について話を聞く。昨年の勢いを受け継ぎながら駆け抜けた2025年、今彼らが抱く感情とはどんなものなのか。話を聞かせてもらった。(笹谷淳介)

Omoinotakeの踊れて泣けるグルーヴの真骨頂「Gravity」

Omoinotake | Gravity 【Official Music Video】(映画『(LOVE SONG)』主題歌)

――「Gravity」を聴いた時、非常にシンプルなサウンドだと感じました。レオさんはタイアップを作る際、作品からインスピレーションを受けてサウンドを構築されると思いますが、まずは映画をご覧になって、どのような印象を抱かれましたか?

藤井怜央(以下、藤井):劇中でも曲が演奏されたり、ライブのシーンがあったりと音楽をすごく大事にされている作品だなと感じました。そのうえで、エンドロールで流れる楽曲の重要性というか、作品を閉じるすごく大事な存在になると思ったんですよ。今回は今までのタイアップ作品とは異なり、ほぼ完成した状態の作品を観てから制作に取り掛かることができたので、その部分は非常に大きかったなと思います。同じ世界観のまま、余韻に浸れる曲を作りたいと強く思う作品でした。

――ある種、物語と地続きで楽曲も続いていく感じというか。

藤井:そうですね。今作は、高揚感をもたらすというよりも、淡々としたビートを鳴らして、映画を観終わった方たちがしんみりと聴き入る姿を想像しました。バラードとまではいかないけれど、淡々と刻まれるビートで最後の余韻に浸ってほしいと思ったんです。だから、シンプルに8ビートの曲を作ろうと、そこを念頭に置いて制作に取り掛かりましたね。

――なるほど。

藤井:映画の本編が終わって、曲の冒頭では音数を少なく、淡々と。そのうえでサビはやはり開けた音像を表現したいという気持ちがあったので、そのあたりのバランスはある程度意識して制作しましたね。

――とてもシンプルな音像ながら、Omoinotakeの踊れて泣けるグルーヴはきちんと担保されている印象がありました。

藤井:そうですね。そこはどの曲を作る時でも大前提として意識していることですから。「Gravity」では、ストリングスが軽やかに表現することができたので、そういう部分から踊れて泣けるグルーヴを感じていただけると思っています。

藤井怜央(Vo/Key)

――歌詞は、エモアキさんによるものですが、今作はどのように言葉を紡がれていかれましたか?

福島智朗(以下、福島):まず、監督から「強い愛には引力がある」「私たちは再び出会うことができる」というワードをいただいて。歌詞の着想はそこからでした。映画を観た時、強い愛というものは不可抗力だなと思ったんですよね。これまでにもたくさんのBL作品のタイアップをやらせていただいているんですが、これはBL作品に限ったことではなく、どの愛も不可抗力だと思うんです。今回の『(LOVE SONG)』にも、強く愛が描かれている。それに、東京とバンコクというふたりの距離が離れているので、余計に強い愛を感じたんですよ。そんなところから着想して歌詞を考えました。

――「Gravity」でいちばん伝えたかったメッセージはどのようなものでしたか?

福島:やはり、サビでのメッセージですね。なぜ出会えたのか、世界にはたくさんの人がいるのになぜたったひとりに出会えるのだろう――そこを自分なりに解釈するのに時間をかけたし、そこで見つけた自分なりの答えを歌詞にした感じです。

――エモアキさんはこれまで多くのラブソングの歌詞を手掛けてきましたが、アイデアは枯渇していかないものですか? 今作もOmoinotakeとして鮮度の高いラブソングに仕上がっていました。

福島:枯渇するし、どんどん書き潰されていくものでもあります(笑)。最近は割り切って考えられるようになってきたんですけど、それでもまだ今までにない言葉の並びがあると思っているし、だからこそ自分のなかにはない言葉を紡がせてくれるタイアップはすごくありがたいし、嬉しいんですよ。とはいえ、迷うこともありますから、本を適当に開いてそこに書いてある言葉から世界を広げていくこともしますし。自分のなかにあるものだけで戦おうとすると、どうしてもいっぱいいっぱいになってしまうこともありますから。

福島智朗(Ba)

――今作、アレンジャーには再び蔦谷好位置さんを迎えました。制作ではどういう部分を追求されましたか?

藤井:平歌でループで流れているピアノのリフがあって、この音は蔦谷さんが入る前からあったものだったんですけど、もう少し単調なフレーズだったんです。ただ、そこがひとつ「Gravity」で印象的なフレーズではあって。その部分を蔦谷さんが汲み取ってくれて、より面白いフレーズに進化させてくれた。この曲は、最初にギターの弾き語りで作ったんですよ。だから、最初は、ブリッジミュートで音が伸びないように弾く奏法でAメロを作って、それをシンセサイザーに置き換えてデモを作った。それを蔦谷さんが、「Wurlitzerで弾けば、ギターのミュート感も出るからいいんじゃないかな?」とアドバイスをくれて。そのアドバイスのおかげで、よりピアノトリオバンドとしての個性を前面に押し出せたと思うし、温かみのある音色のWurlitzerを選ぶあたりが、さすがだなと思いましたね。

――ドラゲさんは、ドラマーとして今作の8ビートについて、どう思われましたか?

冨田洋之進(以下、冨田):やっぱりシンプルなので、逆に難しいというか。勢いでどうにかできる曲ではなかったし、繊細に叩き分けなければいけない、誤魔化しがきかないという部分では難しさを感じる曲ではありました。ただ、思うのは「Gravity」はいちばん歌詞に没入できる曲なんじゃないかなと思うんです。音楽って、自分の人生と重ね合わせて聴くことも多いと思うんですけど、この曲はその側面が強いというか。ライブ中、ドラムを叩いていても冷静にそういう気持ちになれる曲なんですよね。

――それって、Omoinotakeの過去作であまりない感情ですか?

冨田:そうかもしれない。この曲は、特段そんな印象がありますね。シンプルなビートの上でみんなを支えながら、ほかの楽器の音色にも歌詞にも集中できる、そんな感じがします。

冨田洋之進(Dr)

――カップリングである「イノセントブルー」はブルボン アルフォートミニチョコレートのCMソング。「Gravity」とは異なる華やかなサウンドでした。

藤井:これは、完全にビートきっかけで制作したものですね。いわゆる、モータウンのベースのリズムの曲を作ってみたいという好奇心からスタートしました。結果的にホーンは入っていますけど、根幹のサウンドはベースとピアノとドラム、ピアノトリオバンドの個性を出せたと思っているし、ピアノをどういうリズムでモータウンビートに合わせていくのか、そこを考えるのがすごく楽しかったです。そのうえで、華やかさを付加するためにホーンを加えたことが上手くいったなと思います。イントロでシンコペーションが多いホーンの印象的なフレーズがあるんですけど、そこをモチーフに随所に同じリズムで形を変えながらも散りばめることで印象的な楽曲になるなと、どんどんフレーズを入れ込んでいきました。

――モータウンビートの曲を作りたいと思ったきっかけはあったんですか?

藤井:かなり前ですけど、モータウンを聴き漁っていた時期があったんですよ。その頃からいつかOmoinotakeでやってみたいと思っていたから、満を持して作ることができたなと思っています。

Omoinotake | イノセントブルー Live Ver.【2025.10.25 Omoinotake ONE MAN TOUR 2012-2025 "Shinka"】

――歌詞に関してはいかがでしょう。「イノセントブルー」もまた、愛が溢れる言葉が散りばめられていたと思います。

福島:今年、みんなで『フジロック』(『FUJIROCK FESTIVAL '25』)に行ったんですよ、僕ら3人と中学の同級生で。その思い出があったから書けた歌詞です。もしひとりで行っていたらこんなに楽しくなかったと思うし、好きなものをわかち合える関係って最高だなとあらためて思うタイミングだったんですよね。プラス、今作はアルフォートのタイアップ。昨年から推しにスポットを当てたCMを作られていて、「アイオライト」という曲を昨年は書かせていただいていたんですけど、その流れもあって書けた曲ですね。

――青さを歌詞にするって、それこそ年齢を重ねるたびに枯渇していくものだと思うんです。でも、今作もこれほどまでに新鮮な気持ちで言葉を紡げたのは、やはり楽しい思い出が背景にあったからですかね?

福島:一瞬であの頃に戻れる感じもあるし、まさにアルフォートは青がイメージカラーですし。これまでもいろんな“青”を曲にしてきて、そのなかでも「本当の青ってなんだろう?」ともう一段階掘り下げることができたのがよかったのかもしれないですね。あとは、ライブで映える曲だと思ったので、ライブ中にメッセージをお客さんと共有できたらいいなと思って書きました。

冨田:軽快でキャッチーな素晴らしいナンバーができあがったんじゃないかなと思います。それこそライブで映えるだろうしね。

――ドラゲさん的にモータウンビートを叩くって、どんな感じでしたか?

冨田:テンポが速かったので、跳ねる感じがすごく難しかったですね。やっぱりOmoinotakeの曲って、簡単なものが存在しないんですよ(笑)。手数が多かったので、大変さもありましたけど、かっこよく仕上がったなと満足しています。

――CDリリースされてから、リスナーの反響はいかがですか?

藤井:反応は上々だと思います。「Gravity」は映画を観た方から「すごくいい曲だ」とお声をいただくことも多いですし、この映画を機にOmoinotakeを知ってくださる方もたくさんいるなかでそういう言葉をいただけることはすごく嬉しいです。「イノセントブルー」に関しても、ふたりが言うようにライブ映えする曲だと思うし、その場がハッピーになる曲だと思うんです。曲をリリースしてから何度か披露させていただいていますけど、すごくいい雰囲気で演奏することができていますね。

Omoinotake | Gravity 【Special Live Video】(映画『(LOVE SONG)』主題歌)

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